人間味のある音楽サブスクで差別化を図る。熱狂的ユーザーを生む『AWA』のブランド戦略

ヘビーユーザー率が最も高いと言われる、国内最大級の定額制音楽ストリーミングサービス、『AWA』。今後CDが衰退することを見越して、2015年にサイバーエージェントとエイベックス・デジタルの合弁で生まれたAWAは、日本の音楽サブスクリプション市場を切り開くべく、どこよりも早くサービスの提供を開始しました。

しかし、様々なジャンルのサブスクリプションサービスが普及した今、特に音楽配信の領域においては、配信曲や利用料金にほとんど差がないため、サービスごとの差別化が非常に難しくなっています。そんな中で、日本の音楽配信サービスを牽引するAWAは、どのように競合サービスとの差別化を図り、熱狂的なユーザーを獲得していったのでしょうか。今回は、AWA株式会社ブランディンググループの佐川芳孝さんに、AWAのブランド戦略について話を伺いました。

UGC要素を取り入れた音楽配信サービス

AWAのベースにある、ユーザーの熱量を高めるプロダクト設計

-AWAのサービスの特徴を教えてください。

AWAの特徴は「UX」と「UI」にあって、日本人に合わせたプロダクトの作り方になっています。他社の音楽配信サービスは、CDショップの棚のような作りになっているのに対し、AWAは「プレイリストを軸に動かす」というコンセプトを掲げていて、プレイリストを通して楽曲を展開していることが特徴です。ユーザーの嗜好性やテーマ、シーズナルなど、その時々にぴったりな楽曲を提供できるように、AWAがプレイリストを通じてレコメンドする 。そこに、人が思いを込めて選曲した楽曲と、プレイリスト作成の想いを綴ったテキストがあり、機械的になりがちなサブスクリプションサービスにも、人間の温かみを持たせています。

また、AWAから提供するプレイリストに加えて、ユーザーが楽曲やプレイリストにポップを付けられるような、UGC(=ユーザー生成コンテンツ)的な要素も取り入れています。ひとつひとつの楽曲をコンテンツ化させることによって、ユーザー同士のコミュニケーションが発生し、AWA内に独自の生態系が生まれるイメージです。このような、サブスクリプションサービスでは感じられにくい人間の温かみや、ユーザー参加型の要素を大切にしてきた結果、入会してからの継続率や満足度は、競合の音楽配信サービスよりも高い数字になっています。

-競合のサービスと比較して、ユーザー層にも違いが見られますか?

音楽に対する熱量が高いユーザーが多く、年代的には25歳~40歳ぐらいがボリュームゾーンになっています。そのため、提供するプレイリストも、より熱狂的なファンが多いゾーンを狙っていて、最近ではアニメ系のプレイリストや、声優セレクトのプレイリストなどにも力を入れています。大衆向けというよりも、アニメのようなファンの粘着度が高いニッチゾーンほど、AWAのユーザーにはヒットしやすい傾向があります。その他にも、50代前後で、音楽の知識が豊富なCD全盛期を経験した世代の方も、AWAのコミュニケーション機能を使いこなして下さっています。

写真のSNSならInstagram、音楽のSNSならAWA

-サブスクリプションサービスで、「コミュニケーション」というワードが使われることはなかなかないと思います。

コミュニケーションは、サービスのファンづくりにおいて欠かせないものだと考えています。AWAの独自の体験価値として、“音楽を通じて人と交流できる”ことを大切にしているため、SNSでプレイリストをシェアできる機能は、早い段階で導入しました。写真の代表的なSNSがInstagramで、テキストのSNSがTwitterであれば、我々は「音楽のSNSと言えばAWA」と認識されるようなプロダクトを目指しています。

-そうなると、AWA界のインフルエンサー的存在もこれまでに生まれてきたのではないでしょうか。

まさしく、AWAには「プレイリスターランキング」というものがあって、その上位にランクインしているユーザーはインフルエンサー的な要素を持っています。これは、プレイリストの再生回数の多さだけでなく、コミュニティ内でのプレイリストに対する評価など、様々な指標によってランク付けされているもので、プレイリストを作る人のモチベーションアップにも貢献しています。このような、サービスにのめり込める仕掛けをUXやUIに盛り込んできた結果として、ヘビーユーザー率を高めることができたのではないでしょうか。

サービスに関する発話を促すキャンペーン設計

音楽業界が大きなダメージを受けた1年

-コロナによるユーザー数やサービス利用時間に変化はありましたか?

通勤通学による移動時間がなくなったことで、視聴スタイルや視聴時間の変化はありましたが、良くも悪くもサブスク自体の変化はほとんどありませんでした。おうち時間で勢いに乗ったのはやはり動画で、ライブ映像を見る機会は増えたのかもしれません。ただ、ChromecastやAndroid TVなどを使用しての視聴はコロナ禍で増えており、移動時間で聴く機会の減ったユーザーが家の中で楽しむという傾向はあるようです。

しかし、音楽業界的に受けたダメージは甚大です。特に、新曲を出せなくなった影響はユーザーの視聴傾向にも表れていて、コロナ前とコロナ後で楽曲の視聴傾向を調べたところ、総再生回数は変わらないものの、20%ほど新曲の割合が減っていることがわかりました。代わりに上がっていたのが「懐メロ」で、この不安な状況が続く中で、過去によく聞いてた音楽に安らぎを求める人が多かったのではないかと予測しています。このような調査結果についても、ユーザーに知ってもらいたいため、積極的にニュースリリースとして発信しています。

チャリティーキャンペーンで音楽サブスクにも愛着を持たせる

-毎年年末に行われている企画「GET YOUR TRENDS」の中で、昨年はライブエンタメ業界への支援を目的としたチャリティーキャンペーンを実施されていましたね。このキャンペーンを企画される際に、意識されたことや込めた想いなどはありますか?

年末に行ったチャリティーキャンペーンは、「#2020のわたしを支えてくれた曲」のハッシュタグと共に、その1年でよく聴いた楽曲の結果をTwitterに投稿すると、1人につき100円が、AWAから音楽業界3団体が運営する基金「Music Cross Aid」へ寄付されるというものです。昨年は、ライブエンタテインメント産業が大きなダメージを受けた年だったため、記憶の風化防止と継続的な支援の促進を目的に取り組みました。

一方、もうひとつの目的として「サービスに関する発話を促す」というものもありました。サブスクリプションはあくまでツールであるため、愛着が持ちづらく、ユーザーからサービスについて発話されることはほとんどありません。また、大抵の音楽配信サービスが、初めの1か月は無料で利用できるということもあって、実はサービス間で乗り換えを行う人もたくさんいます。AWAについても、これまでサービスについて発話されることがほとんどなかったため、ユーザーからの発話を促し、サービスに愛着を持ってもらえるような企画を作りたいという想いがありました。

そこで、これまで毎年行っていた「GET YOUR TRENDS」を、もっと外部に向けて発信されるようにアレンジしたのが、「#2020のわたしを支えてくれた曲」です。今年1年間でよく聞いたアーティストや楽曲に対して、SNS上で応援と感謝の気持ちを伝えたくなるような仕掛けを用意することで、サービスに関する発話のきっかけを作りました。

結果、このハッシュタグを用いたユーザーからの投稿は多く発生し、どの投稿も高いエンゲージメントを獲得。さらに、外部ユーザーからも「こういう活動はすごくいいなぁって思う。 AWAは今メインで使ってないけど、応援したくなる」「エンタメ業界は大変な年でしたが、こういう気持ちに支えられて前に進めます」などとAWAに関する発話が行われ、特設サイトでのセッション時間は、前年と比較して2倍まで跳ね上がりました。結果的に寄付金も大きく集まり、多くのユーザーや音楽業界にメリットをもたらしただけでなく、このキャンペーンに接触した多くの方が、AWAへの愛着を持ってくれたのではないかと思います。

ユーザーとアーティストの新たな接点を創出する

SNS性を大きく反映させた新機能「LOUNGE」のリリース

-今後機能として充実させたいことはありますか?

先週、新機能で「LOUNGE」というものをリリースしました。これは、ユーザー同士が同じ空間で、同じ音楽を楽しみながらチャットできる新機能です。これまではβ版として、「LOUNGE」イベントを不定期開催していましたが、急上昇チャートの上位が「LOUNGE」で流れた曲で独占されるなど、ユーザーからの反響も非常に大きかったため、今回正式リリースに至りました。今後は、ユーザーが自ら「LOUNGE」の部屋を作れる機能を追加するほか、ブラウザ上でも同じサービスを楽しめるようにする予定です。

昨年リリースしたコメント機能から、ユーザー同士のコミュニケーションにニーズがある兆しが見えていたため、同じ部屋に集まったユーザー同士で交流できる機能を実装し、SNS性を大きく反映させました。それに加えて、音楽配信アプリをダウンロードするほどでもないようなライト層に対してもアプローチするため、無料での利用を可能にしています。

-SNSのライブ配信的な要素が強いですね。

目指しているのは、CGM(=ユーザー生成メディア)性を持ったサービスです。ユーザーがコンテンツを生み出し、また別のユーザーがそのコンテンツを拡散したり、コンテンツ内でコミュニケーションを取ったりする。そんなCGM性を高める機能や新サービスを、今後も開発して展開していきたいと考えています。

また、コロナ禍の文脈で言うと、ユーザーとアーティストの接点が薄くなってしまっているため、その接点づくりを音楽配信サービスとしても行っていきたいです。特にまだ若手のアーティストにとっては、ライブ機会の損失は非常に大きなダメージであり、自分たちのことを知ってもらえるような新たな場の創出が求められています。そこで、20歳以下の若手アーティストの知名度向上を目的とした楽曲コンテスト「AWA ROOKIES STAGE」を、今年の1月から開始しました。この他にも、サービス内にメディアを立ち上げて楽曲の紹介を行うなど、ユーザーとアーティストの接点となるような場を積極的に提供していきたいと思います。

人間味溢れる音楽サブスクが熱狂的なユーザーを生み出す

-これまでのお話で、競合サービスとの差別化が難しい中でも、AWA独自の体験価値向上に邁進し、「AWAのファンを作る」ためのサービス設計やキャンペーン企画に取り組んでこられたということが伝わってきました。

動画配信サービスであれば、「独占配信」という言葉がよく使われているように、サービスごとに配信されている作品が異なりますが、音楽配信サービスの場合は楽曲の配信数はどこのサービスもほとんど同じです。今は、アマチュアのアーティストが自ら投稿した楽曲さえも、全サブスクサービスで流れるような時代ですし、価格帯も横並びなので、差別化できる要素が非常に少ないんですよね。

しかし、そんな差別化が難しい市場の中でも、AWAだけにしかない体験価値を創出することにこれまで尽力してきましたし、見せかけだけでなく、きちんとユーザーファーストにこだわり、本質的な価値向上に努めてきました。純国産で本腰を入れている音楽配信サービスは他にないと思うので、これからも日本基準で、日本のユーザー特性に合ったサービスを展開していきたいです。

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