AIの進化は、広報の仕事を「奪う」のではなく、「深化」させる——。日々の作業に追われ、本来注力すべきメディアリレーションや戦略設計に時間を割けない。そんな、広報担当者が抱える構造的な課題を、AIはどう解決し、私たちの働き方をどう変えるのでしょうか。
今回は、自身の「ひとり広報」の経験から、広報業務を支援する『広報AI』の開発に携わった、業種特化の専門AI開発・運営をおこなう株式会社メタリアルの山家千晶さんにインタビュー。「AIは敵ではなく、最高の相棒になる」と語る山家さんに、AIを効果的に活用する方法と、人間にしかできない広報の本質的な価値、そしてこれからの広報・PRパーソンに求められる“本来の力”について伺いました。
株式会社メタリアル『広報AI』事業開発室 マネージャー 山家 千晶(やまが ちあき) 大学卒業後、ソフトバンク株式会社にて法人、投資部門を経て、マップボックス・ジャパン合同会社に入社。プレスリリースの書き方やメディアリレーションズなど広報業務を独学で学んだ後、株式会社メタリアルに入社。同社広報室の立ち上げに伴い、自身のひとり広報の経験を活かして「広報AI」の開発に携わる。 |
「手探りの孤独な作業」から「AIと歩む戦略的な仕事」へ

『広報AI』事業開発室 マネージャー 山家さん
—山家さんは、もともと広報を担当されていたんですね。
そうなんです。前職のスタートアップ企業で、「ひとり広報」として業務にあたっていました。当時は、広報未経験だったこともあり、毎日が手探り状態。プレスリリースのフォーマットすら分からず、本やセミナーで勉強するところから始め、書いたリリースを見てもらえる相手も、相談できる相手もいない状況でした。自分のやり方が合っているか分からないまま、孤独に業務を進めるのはつらかった記憶があります。
—多くの広報担当者が、同じような課題を抱えているのでしょうか。
はい。特にスタートアップでは、多くの方がかつての私と同じように「ひとり広報」として、相談相手がいない状況で奮闘されています。その中でよく聞くのが、まさに私が感じていた「自分のやり方が合っているか分からない」という、手探り感に直結する課題です。たとえば、事業部からプロダクト開発の背景などを十分に共有されないまま資料を渡され、「新商品のリリースを出してください」と依頼されるケース。この時、ひとり広報だと「何から聞けばいいのか」「どこまで要求すべきか」といった判断を、誰にも相談できずに自分一人で考えなければなりません。また、経営層からは「テレビや有名ビジネス誌に出てほしい」という高い目標を課され、プレッシャーを感じる、などの声も聞きます。
一人だと、こうした外部からの要求に対し、相談できる相手がいないまま、日々の業務をこなすだけで手一杯になり、メディアが求めるような質の高いプレスリリースを作成したり、記者との関係構築に時間を割いたりすることができません。その結果、「プレスリリースは発信しているけれど、一向に取材や記事化につながらない」という、最も深刻な課題に直面してしまうのです。実際に、弊社が広報従事者100名におこなったアンケートでも、63人の方が「自社のプレスリリースが、希望するメディアに掲載された確率は10%以下」だと回答しています。
—そうしたご自身の経験と、現場の課題意識が『広報AI』開発の原点なのですね。
そのとおりです。だからこそ、私たちが目指したのは、単なる作業効率化ツールではなく、“広報の相棒”となるツールです。これには、AIを「人間の仕事を奪うもの」ではなく、「広報の仕事をサポートしてくれる“相棒”」と位置づけ、「あなたと一緒に仕事をしてくれる仲間ですよ」という思いを込めています。
『広報AI』は、リリースに関する簡単なメモや資料を入力するだけで、AIが文脈やニュース価値を判断し、メディアが興味を持つようなプレスリリースの草案を約15分で作成します。これにより、従来3時間かかっていた作業を約92%削減できる計算です。さらに、作成したリリースがどれくらいメディアに響くかを客観的に採点する機能もあり、AIを相棒とすることで、属人的な作業から解放され、業務を大幅に効率化できるのです。
時間、戦略、自信。AIが広報にもたらす3つの恩恵
—AIが進化することで、広報の仕事内容は大きく変わってきそうですね。
そうですね。AIの活用によって時間が生まれるはずなので、広報担当者はこれまで以上に「リレーションズ構築」に注力できるようになると思っています。メディアキャラバンの実施・記者会見の開催・交流会への出席など、特にメディア関係者とのコミュニケーションは、AIが代替できないものです。裏を返せば、対人コミュニケーション能力が、より必要とされるのではないでしょうか。
—AIと人間とで、役割分担が明確になっていくイメージでしょうか。
はい。たとえば『広報AI』は、メディア関係者の興味を引くプレスリリースを作成してくれますが、そのもとになる「新商品にかける想い」や「開発秘話」といった一次情報を集め、どの情報をどう見せるかという戦略を立てるのは、引き続き広報の腕の見せ所です。
むしろ、これからはAIを戦略立案のパートナーにすることもできます。たとえば、「今度こういう情報発信をしたいけど、どのメディアがいいと思う?」といった相談をAIに投げかけ、壁打ち相手になってもらうのです。企画のアイデア出しを手伝ってもらうこともできるでしょう。そうした棲み分けと協業を意識しながら、効果的にAIと伴走していくことが大切だと思います。
—今後、ますますAIが普及していくなかで、広報担当者として身につけるべき知識やスキルはありますか?
大前提として、AIへの苦手意識を捨てる姿勢は必要です。そのうえで、AIへの「指示」とアウトプットの「確認」の2点が重要になります。ただ、この点については、広報を選ぶ方なら、すでに問題なく備わっている能力だと思います。「指示」の部分では、広報担当者はもともとコミュニケーション能力の高い方が多いため、プロンプトを書くなど、言葉での的確な指示は得意なはずです。また、「確認」の部分でも、日頃からファクトチェックを多くこなされているため、AIの出力内容を吟味する力は、他の方より秀でているはずです。
総じて、“AI活用力”の素養がもとから備わっている方が多いと感じているので、新しいスキルを学ぶというよりも、すでにあるご自身の強みを再認識し、AIと向き合う気持ちを持ってもらうことが最も大切ですね。
—もともとの広報の強みを活かせるとのこと、心強いです。最後に、AI活用に不安を感じる企業や広報担当者に向けて、メッセージをお願いします。
AIの時代と聞くと、何か特別なスキルを学ばなければと焦るかもしれません。しかし、先述したとおり、私が一番大切だと思うのは、皆さんが広報としてこれまで培ってきた「人の言葉の意図を汲み取る力」や「情報の真偽を見抜く力」です。それこそが、AIに的確な指示を出し、そのアウトプットが本当に価値あるものかを確認するための、最強のスキルになります。
AIはあなたの能力を奪うのではなく、むしろその価値を最大化し、あなたを日々の作業から解放してくれる存在です。ぜひご自身の力を信じて、AIという新しい“相棒”との一歩を踏み出してほしいと思います。
『広報AI』とは?
プレスリリース作成時間を約92%削減する自動生成機能や、その掲載確率を客観的に評価する採点機能を搭載した、広報担当者のための“相棒”AIツール。AIとの「雑談」から文章を生み出す独自の仕組みで、メディア露出という成果を強力にサポートします。今後はチームでのアカウント共有を可能とする法人プランも展開予定です。無料トライアルも実施中。詳しくは、『広報AI』ウェブサイト(https://www.kohoai.com/)をご覧ください。

1984年生まれ、千葉県出身。アパレル会社の営業兼販売員、出版社の月刊誌編集、IT企業の広報・プロモーションを経て、編集・企画・ライターとして独立。現在はビジネスメディアを中心に活動している。経営層から学生まで、人物取材が得意。