自社の想いを、どうすれば生活者に“共感”として届けられるのか。社会や市場が目まぐるしく変化し、単なる情報発信ではブランドが選ばれない現代において、“伝えたいこと”と“伝わること”のギャップに悩む方々も多いのではないでしょうか。そんななか、睡眠時の衣服に新たな価値を提案し、生活者のリアルな声や時流を捉えながら認知を拡大しているのが『BAKUNE』です。
今回は、『BAKUNE』を展開する、株式会社TENTIALの広報・吉本慎之介さんにインタビューを実施。『BAKUNE』の誕生・成長ストーリーに加え、TENTIAL社の広報活動から、「社会の変化を読み解き、共感を生む情報設計」のヒントを紐解きます。
株式会社TENTIAL 広報室長 吉本 慎之介 大学卒業後、テレビ番組制作会社やスタートアップ企業にて勤務。2016年に株式会社BuySell Technologiesに入社し、同社の広報部門を立ち上げ、広報責任者として幅広く広報活動をリードする。その後、Zeals社を経て、2022年より株式会社TENTIALに参画。 |
CONTENTS
『BAKUNE』旋風の裏側。新市場への挑戦と認知拡大のプロセスに迫る
“睡眠時の衣服”に新たな価値を。『BAKUNE』誕生の背景
—はじめに、「リカバリーウェア」に注目した背景について教えてください。
TENTIALは、「健康に前向きな社会を創り、人類のポテンシャルを引き出す。」というミッションを掲げ、アスリートだけでなく、日々忙しく過ごす生活者一人ひとりに対して、より良いコンディショニングや休息の価値を届けるため、さまざまな取り組みをおこなっています。そのひとつとして商品展開している『BAKUNE』は、「睡眠時の衣服」に着目したものです。
人間は、1日の約3分の1の時間を睡眠に充てていますが、普段、眠る時にパジャマを着る人は3~5割というデータがあります。睡眠は、人間にとって重要な役割を担っているにも関わらず、眠る時の衣服については、こだわりを持たない人も多いのです。そこで、もともとはアスリートなどが、トレーニングや試合後の体を整えるために使っていた「リカバリーウェア」を、一般の方にも手に取ってもらいやすくし、睡眠の重要性に気付いてもらうきっかけとなればという想いから、『BAKUNE』が誕生しました。
口コミが生んだ『BAKUNE』の広がりと認知戦略

TENTIAL広報 吉本慎之介さん
—現在『BAKUNE』は、“疲労回復パジャマ”として広く認知されていますが、社会や生活者へどのように浸透させてきたのでしょうか。
『BAKUNE』は、従来のパジャマに求められていた、肌触りや動きやすさに加えて、体から発せられる遠赤外線の輻射による血行促進という機能を持たせた点が特徴です。そのため、「着て寝て、疲労回復」という新しい価値を、“疲労回復パジャマ”などのワードで積極的に発信していきました。発売当時の2021年は、コロナの影響で睡眠や健康に対する気運が高まっている時期だったため、『BAKUNE』のような商品を提案しやすいタイミングでもありましたね。
そうした中で、『BAKUNE』はアスリートやトップビジネスマンといった健康意識の高い層から支持を集めるようになりました。その支持がマスメディアやSNSなどを通じて徐々に広がり、一般層にも認知が拡大していったのです。また、PRとしては販売実績や導入先のリリースなどのファクトを積極的に開示し、「売れている」という機運を醸成。さらに、「睡眠のためにパジャマが有用である」という啓発活動も行うことで、市場への浸透を図っていきました。
ギフト需要の拡大×体感価値を届けるための実店舗戦略
―『BAKUNE』は、ギフト需要も高いと伺いました。
そうなんです。『BAKUNE』は2~3万円という価格帯ですが、口コミで高い評価をいただいたことや、身体を労わる商品であることから、「お世話になった方や大切な人へのギフト」として選ばれるケースが増えていきました。
一方、ギフトの場合は、ご自身で実際に商品を確認してから贈りたいというニーズが高くなります。さらに、『BAKUNE』は高価格帯の商品のため、そのニーズはより強く、ネット販売だけでは色や素材、サイズ感などを十分に体感できないという課題がありました。
そのため、お客さまが直接商品を手に取れる実店舗も重視しています。現在は、取扱店舗も含めるとほとんどの都道府県で直接手に取れる場が存在し、ギフトシーズンにはポップアップストアなども活用して、できるだけ実際に商品を体感いただける環境を整えています。私たちとしては、リカバリーウェアやパジャマという枠を超え、最終的には『BAKUNEを着る』という独自のポジションを築いていきたいと考えています。
社会の変化を読み解き、企業とブランドの可能性を広げる
“いま伝えるべき価値”を見極める。TENTIAL流・情報発信の極意
—お話を伺っていると、時流や生活者のニーズを読む力が優れていると感じます。好機を逃さないために何か意識していることはありますか。
日頃から、各省庁や行政の情報・スポーツイベント・商材関連のTipsなど、健康やコンディショニングと関わりがありそうな情報には、アンテナを張っています。たとえば、「健康経営」が注目され始めた背景には、社会保障費が高騰する中、企業のコストを圧迫していることや働き方改革により、従業員の労働生産性を重視する傾向となっていることが影響しています。いま、世の中でどのようなテーマが注目され、社会がどうなっているかを理解し、自社の方針とどう重ねていくかが大切です。
そのうえで、社会的な関心や時流にあったテーマを意識的に選び、メディアの方々にも“いま伝えるべき価値”としてアプローチするようにしています。たとえば、いまでいうと「万博」や「猛暑」といった、社会的なキーワードと自社の取り組みを結びつけて発信することで、取り上げてもらえる可能性も高まりますよね。単に、商品やサービスの機能を伝えるだけでなく、「なぜいまこのテーマが重要なのか」「社会にどんなインパクトをもたらすのか」といった背景やストーリーもあわせて発信する。そのような、メディアにとってメリットのある情報として届けることで、継続的なコミュニケーションや信頼関係の構築にも繋がっていくと思います。
—自分たちの届けたい情報を発信するだけではなく、どうしたら相手に伝わりやすい内容になるのかまで考える。そこまで設計できている広報は一部かも知れません。
むしろ、企業広報の仕事は、それに尽きると思っています。正しい文章を書くだけなら、AIを活用すれば、それなりのものができる時代です。トレンドや社会情勢、競合環境等を踏まえて情報設計することが、腕の見せ所ではないでしょうか。
“BAKUNEの会社”を超えて。TENTIALが描く未来と挑戦
—PR GENICの読者にも参考になりそうです。最後に、今後の展望について教えてください。
現在、TENTIALは『BAKUNE』のヒットによって、「BAKUNEの会社」として認知されることが多いですが、私たちが目指しているのは、単なるプロダクトカンパニーではありません。企業ミッションである「健康に前向きな社会を創り、人類のポテンシャルを引き出す。」を体現する存在として、より広い意味での“コンディショニングの会社”へと進化していきたいと考えています。
そのために、効果効能の裏付けとなる科学的エビデンスの発信やアスリートとのパートナーシップ、大学との共同研究など、幅広い取り組みを実施・発信し、TENTIALの活動や想いに自然と触れてもらえる情報設計を意識しています。
また、広報としては、3年後の理想像を描き、そこから逆算して今何をすべきかを常に考えています。たとえば、「お昼の人気番組で特集される」といった大きな目標があれば、まずはミニコミ誌やネットニュースなど、小さな露出を積み重ねて話題を作ったり、番組の傾向を分析して自分たちならどんな見せ方ができるかを考えたり、段階的に戦略立てるのです。もし、目標が実現しなければ計画を見直し、再チャレンジすることも大切にしています。
TENTIALは、社会情勢に対して感度の高い人が多く、「TENTIALであれば、こうしたらいいのでは?」というアイデアが、広報部門以外からもたくさん出てくる会社です。もちろん、内容は十分に吟味する必要がありますが、これからも自分たちの目指すミッションに対して、果敢に挑戦していく企業でありたいです。

1984年生まれ、千葉県出身。アパレル会社の営業兼販売員、出版社の月刊誌編集、IT企業の広報・プロモーションを経て、編集・企画・ライターとして独立。現在はビジネスメディアを中心に活動している。経営層から学生まで、人物取材が得意。