現在、全世代に広がっている「ソーバーキュリアス」をご存じでしょうか?これは、「お酒は飲めるけれどあえて飲まないライフスタイルを選択する人たち」を指した言葉で、特にお酒に対する価値観が異なるZ世代に浸透している考え方です。
日本でも「ソーバーキュリアス」が広がるなか、今年6月30日にオープンした『SUMADORI-BAR SHIBUYA』。お酒を飲めない人・飲める人・あえて飲まない人、すべての人が楽しめるバーとしてオープンした同店舗は、飲み方の多様性を尊重し合う「スマートドリンキング」の実現を目指しています。
今回は、同店舗のブランドマネージャーを務める、京谷めいさんと加藤寛康さんにインタビューを実施。『SUMADORI-BAR SHIBUYA』オープンを経て見えた、Z世代のお酒との向き合い方やインサイトの変化についてお伺いし、さまざまなジャンルで多様化を見せるZ世代にささる店舗・サービス設計について探っていきます。
CONTENTS
『SUMADORI-BAR SHIBUYA』好調のポイントは“共創”と“体験”
スマドリを文化として根付かせる挑戦
―はじめに、「スマドリ」とはどのような取り組みなのでしょうか。
加藤:スマドリは「スマートドリンキング」といって、飲み方の多様性をご提案する取り組みです。お酒を飲める人・飲めない人、飲みたい時・飲めない時・あえて飲まない時…など、あらゆるライフスタイルや状況に合わせて、「自分にとって適切なドリンクを選択できる社会」を目指して発足しました。
―今回の『SUMADORI-BAR SHIBUYA(以下、スマドリバー渋谷)』のオープンには、どのような背景があったのでしょうか。
加藤:オープンの目的は、「スマドリを体験できる場所をつくること」です。これまでも『アサヒ ビアリー』や『ハイボリー』という微アルコールの飲料などを販売し、飲み方の多様性を提唱してきましたが、やはり大切なのは生活者の方々に「自分にも関係のあるものとして体験してもらう」こと。体験することで初めて感想が生まれ、それをもとに情報として拡散してもらえる可能性が出てきます。そういった拡散のサイクルを確立させ、スマドリを文化として根付かせるためにも、体験できる場を用意することは必須でした。
ライフスタイルの多様化で生まれた「あえて飲まない」選択
―Z世代を中心に「ソーバーキュリアス」のような、あえてお酒を飲まないという考え方も広がってきています。なぜこのような変化が起きているとお考えですか。
加藤:大きく影響しているのは、ライフスタイルの多様化ですね。タイムパフォーマンスを気にして、酔いたくない・失敗したくないという考え方をする人も増えているように感じます。 「飲みの場や他人とのコミュニケーションは好きだけれど、そんなにたくさん飲みたいわけではない」というマインドが前提にある考え方ですね。実は、私も「あえて飲まない派」の一人です。自分らしい生活の選択肢のひとつとして、酔うことがプラスに働く場面とそうではない場面を考えて、合理的選択をしています。さまざまなジャンルで多様化が進むZ世代において、この考え方は特に広がりやすいのではと思いますね。
―海外でもハイネケンやコロナビールを中心に「ソーバーキュリアス」をターゲットとしたコミュニケーション施策が見られますよね。
京谷:そもそも、スマドリの取り組み自体、世界的に「ソーバーキュリアス」のような考え方が広がっていること等を受けて発足しました。海外では、飲み方の多様化や健康志向の高まり、アルコール規制などの背景があって「ソーバーキュリアス」が浸透し、先述いただいたコミュニケーション施策などが行われています。具体的に参考にした施策などはないのですが、この波は必然的に日本にも来るだろうと数年前から考え、弊社ではスマートドリンキングという形で落とし込んでいきました。
Z世代との“共創”から見えた「安心してお酒を楽しみたい」という本音
―そのような流れを受け、Z世代向けの店舗としてもかなり意識されていると思いますが、Z世代に関心を持ってもらうために特に工夫された点などはありますか?
京谷:特に大切にしていたのは、Z世代の方々と“共創”していくことです。スマドリのメインターゲットであるお酒を飲めない方は、酒類メーカーとしてこれまで意識してこなかった層なので、まずはリアルな声を拾っていくところから始めました。たとえば、産学連携で立正大学の学生さんにご協力いただいて意見をもらったり、「渋谷スマートドリンキングプロジェクト」でご一緒している『渋谷未来デザイン』さんにご協力いただいたりして、よりリアルな声を集めています。
―『スマドリバー渋谷』で提供されている100種類のドリンクメニューも、Z世代の方々と開発されたと伺いました。
京谷:そうなんです。100種類の全メニューを、大学生の方々とスマドリ株式会社の合弁会社である電通デジタルの若手社員の方々と一緒に、試飲などを重ねて開発していきました。加えて、店舗の内装にもZ世代の皆さんの声を反映しています。たとえば、飲めない方のお酒に対するインサイトを分析していくと、①「自分たちはお酒以外の飲料でチルすることはできるけれど、お酒を飲んだ時の高揚感のようなものはなかなか味わえない」②「バーに行くという行為に高揚感や憧れを持ちつつも、お酒を飲めないと敷居がより高く感じてしまい入店しにくい」ということが分かりました。
こうした意見を聞いて、飲めないZ世代に寄り添ったカフェバーのような雰囲気を持った店舗であれば、「バーに行く」高揚感を、お酒を飲んだ時の高揚感に置き換えることができるし、「お酒が飲めなくても入っていいんだ」という安心感も与えられるのではないかと考えました。そこからは“安心して楽しめる”をキーワードに、店舗をガラス張りにして中が見えるようにしたり、100種類以上のメニューで自分にあったドリンクを探せるようにしたり、それをわかりやすく4象限にマッピングしたりと、さまざまな工夫をしましたね。
SNSでの自発的な拡散を生むスマドリのコミュニケーション戦略
「みんなで楽しみたい需要」への徹底的なコミット
―『スマドリバー渋谷』をオープンしてから3か月ほど経ちますが、ノンアルコール/ローアルコールを好む層からは、どのような点が好評だと感じますか?
京谷:コミュニケーションの仕方が良かった点ですね。たとえば、「お酒の度数が選べます」と、ただファクトだけを伝えるのではなく、「度数が選べることによって、自分がどう楽しめるのか、どう嬉しいのか」を考えられるような情報発信を心掛ける。そのために、メニューだけではなく、内装や雰囲気を含めてどんな体験ができるのかを伝えることは意識しました。結果、SNS上での拡散や、狙っていたターゲット層の来店につながっていると思います。
加藤:特にターゲットのZ世代には、「度数を選べることが生活者にとってどんな意味を持つのか」までを伝える必要がありました。ブランドの機能的価値だけではなく、もう一段上の自分らしい生き方に貢献するところまで関与していきたいという想いで、コンセプト動画なども作成しています。
▲コンセプト動画
―先ほど伺った反響をみると、その想いがしっかりと伝わっていそうですね。
京谷:そうなんです。来店いただいたお酒を飲めない方へインタビューしたところ、「自分だけが主役なのではなく、みんなで楽しめる空間になっていることがすごく素敵です」とおっしゃっていただけました。あくまでも「その場にいる全員が楽しめることが前提のお店である」という部分は、Z世代の需要としっかりマッチさせることができました。
加藤:実は、企画が走り出した当初は、メニューや内装、コミュニケーションなどを含め「飲めない人たちが主役のバー」にしようとしていたんです。実際、飲めない皆さんに「これまで、居酒屋に行ってもソフトドリンクを飲んでいたあなたが、100種類ものメニューから好きな度数でお酒を選べる店舗ができますよ。飲めないあなたが主役ですよ」というようなコンセプトを提案したのですが、「自分たちが主役になりたいのではないんです。お酒が好きな友人が飲めるドリンクはあるんですか?」というご意見をいただくことが多かったんですね。
飲めない人が本当に望んでいた理想のバーを突き詰めた結果、「みんなが楽しめる場所」でなければダメだったということが分かり、それがそのまま今回の『スマドリバー渋谷』のコンセプトになりました。
自分がひと手間を加える“体験価値”がSNS拡散につながる
―実際には、どのような層の方が来店されているのでしょうか。
京谷:“飲める人”が“飲めない人”を誘って来店してくださっていることが多いですね。
加藤:そうですね。狙い通り7割の方が20代で、Instagramでお店を見つけて飲める友人を誘ってきてくださる方が多いです。これまでは、飲みたい友人がいても、飲める側は「居酒屋で自分だけ飲むのは申し訳ない」、飲めない側は「自分が飲めないことに相手が気を使ってしまうのではないか」と考えてしまい、お互いが誘えなかったというケースが多く見受けられました。そのジレンマを解決したという点では、非常にご好評いただいていますし、私たちが伝えたかった思いがちゃんと理解されているんだなと嬉しく思いました。
―SNSで多くの投稿がされているのは、やはりメニューの“映え”が要因でしょうか?
京谷:最近だと、“写真映え”だけではなく“動画映え”が重視されているため、メニューの見た目もそうですが、体験価値も要因のひとつになっていると思います。いま売上No.1の商品が『マーブリング レイン』という、グラスに綿あめが乗っているドリンクなのですが、飲むためにはお客様がウィルキンソン・タンサンを注ぐという、仕上げの“ひと手間”が必要です。この“ひと手間”の体験をとても楽しんでくださっていますし、その場面が切り取られてSNS上で広く拡散されています。
加藤:企画当初、「『スマドリバー渋谷』にご来店してくださる方ってどんな人だろう?」と考えていた時に、お酒をあまり飲めないZ世代という属性が前提にありつつも、少なからずトレンド感度が高い、アーリーアダプターの方だろうと思いました。加えて、そういった方はInstagramやTikTokでの情報収集や拡散に長けている。そのような特徴をしっかりと把握した上で、メニューや内装をつくりあげていきました。
アンバサダーや協賛企業とともにスマドリの輪を広げる
―スマドリとして、今後さらなる事業展開が期待されますね。
加藤:『スマドリバー渋谷』は、あくまで情報発信・体験の場という位置づけで、最終的にはスマートドリンキングという文化が根付き、スマドリという言葉が必要なくなる状態がゴールです。そのためには、共感いただいているパートナー企業さんや料飲店さんと協力しながら、スマドリの輪を広げていく活動をしていかなければならないと思います。
あとは、“スマドリアンバサダー”と呼んでいる『スマドリバー渋谷』で働くスタッフの皆さんと一緒に、「4月の理想の歓迎会」を考えてもらう企画も始動しています。社会に出るとほとんどの人が経験する歓迎会というイベントにおいて、「飲める人も飲めない人もみんなが楽しめる内容ってどんなものだろう?」というテーマのもと、メニュー開発を進めてもらっています。いまは、『スマドリバー渋谷』のみでの展開予定ですが、こういったメニューがさまざまな飲食店に並んでいくことが理想ですね。
京谷:スマドリアンバサダーの中には、お酒が飲めない人もいれば、自分は飲めるけれど飲めない友人がたくさんいる人もいます。そういった方は、飲めない友人と飲めるお店づくりに自分も携わっていきたいという想いで自分ゴトとして捉えて働いてくださっているので、そのような積極的な層を巻き込みつつ、活動の幅を広げていきたいです。
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。