オンライン×リアルの最適解を探る。各大手が考えるポストコロナ時代のマーケティング戦略

2020年に新型コロナウイルスが猛威を振るい始めて以来、企業を取り巻く状況は大きく変化しました。StayHomeが推奨され、テレワークを中心とした新しい働き方が浸透し、ポストコロナ時代のスタンダードを確立すべく、多くの企業が様々なトライ&エラーを繰り返した年となりました。また、企業のマーケティングにおいても「巣ごもり需要」や「おうち時間」といった消費者動向の変化を的確に捉え、順応していくことが求められたのではないでしょうか。

そんな中、各業界のキーマンが集結し、コロナ禍を生き抜くための知恵や情報を共有し合う、ベンチャー業界最大規模のオンラインイベント「Tokyo Venture Conference 2021」が2021年1月27日に開催されました。同イベントのコンテンツのうち「各大手が語るこの時代におけるマーケティングとは」と題したセッションの内容を取材し、大手企業がコロナという未曾有の事態でどのようなマーケティングを実践してきたのか掘り下げたいと思います。

コロナがビジネス界に与えた影響を振り返る

ブランド系の広告主はコロナで出稿を控える傾向に

モデレーターはボードウォーク・キャピタル株式会社 代表取締役社長の那珂 通雅氏が務め、各登壇者らへコロナ前後でのマーケティングやビジネスの変化について伺いました。

まず、アドテクノロジーやメディア事業を手掛ける株式会社VOYAGE GROUPの取締役 土井 健氏に、コロナによって企業の広告配信のニーズがどう変わったかについて聞いたところ、「広告主ごとでコロナによる影響範囲は異なっている」とし、このように説明しました。

「商材によって、コロナの影響をもろに受ける企業とそうでない企業とで二分化。ECやネット商材であれば、特に変わらず広告出稿があった一方で、ブランド系の広告主は軒並み広告出稿が少なくなりました。また、コロナによるStayHomeが常態化したことで、例えばゲーム攻略系メディアのPVが跳ね上がったり、一定の時期しか見られないふるさと納税のECサイトも定期的にユーザーが訪れるようになったりと、ライフスタイルの変化が数字にも表れるようになったと実感しています。」

オンラインでは「認知拡大」だけでなく「販促拡大」も重要視されるように

また、SNSを中心としたマーケティング事業を展開する株式会社サイバー・バズの代表取締役社長 高村彰典氏は、コロナ禍で苦境に立たされているリアルな心情を語りました。

「弊社はSNSに特化したマーケティングに強く、SNS広告はもちろん、SNSのアカウント運用代行やモデル、タレントなどのインフルエンサーを起用したSNS施策を中心に事業拡大してきました。しかし、コロナの影響で化粧品や日用品を扱うクライアントの多くは、コストカットの側面から広告出稿の取りやめやSNS施策の見直しを行い、結果的に大幅に営業利益が減少して、打撃を受けてしまった。しかし同時に、オンラインショッピングの高まりを受けて、ECを販路の中心とするクライアントからの問い合わせも増えてきました。各クライアントも厳しい状況が続く中で、オンラインでの『認知拡大』だけではなく、『販促拡大』もより求められるようになったと感じています。」

広告費削減だけでなくマーケティング構造の見直しが必要

「ウィズコロナ」や「ニューノーマル」といった言葉に代表される新しい生活様式。新型コロナは私たちの日常を、そしてこれまで当たり前だった娯楽や消費、文化などの社会通念までをも変えてしまいました。こうした中、企業にとっても、これまで積み上げてきたビジネスモデルやマーケティング手法の見直しを迫られることが多いのではないでしょうか。

コスメ・美容の口コミサイト「アットコスメ(@cosme)」の運営やブランド、メーカーのマーケティング支援を手がける株式会社アイスタイル 代表取締役社長 兼 CEOの吉松徹郎氏は、コロナ禍でのマーケティングに対する変化をこう読み解きました。

「化粧品業界においては、酒やタバコと同様に、空港や機内、DutyFreeShopでの販売チャネルを通じた売上はインパクトが大きかったです。しかし、コロナの感染拡大抑止の観点から、出入国制限や移動制限がされるようになると、“トラベルリテール”からの売上が見込めなくなり、コロナ前と比べて15%ほどの落ち込みが見られました。会社の事業存続のために広告費用を減らしたりするだけでなく、マーケティングの構造自体を変えるべきタイミングに差し掛かっていると感じています。」

コロナ禍で一般化する「非接触文脈」のサービス体験

牛丼チェーン大手「吉野家」を運営する株式会社吉野家 CMOの田中 安人氏は、「KKD(経験・勘・度胸)からの脱却」を目指すためにテクノロジーを強化してきた背景から、コロナ禍で取り組んでいることについて述べました。

「吉野家は122年もの間、“牛丼”という日常食をお客様に届けてきました。ここ10年くらい前からは、人が人らしく働けるようにテクノロジーを駆使していて、2016年にTポイントを導入してからは、データドリブンを意識した施策にも取り組んでいます。コロナ禍での非接触文脈では、スマホによる事前オーダーシステムを導入したり、Uberや出前館などのデリバリーを強化したりして、難局を乗り越えるべく尽力しているところです。」

吉野家は路面店やロードサイド店を含め、全国に1200店舗ほど展開していますが、コロナ以前はイートインとテイクアウトの比率は「7:3」と、イートインの割合が多かったそうです。それがコロナ禍になって以降、一時期は比率が「2:8」になるほど、テイクアウトの利用数が飛躍的に伸びたとのこと。

「今は落ち着いてきましたが、テイクアウトやデリバリーが確実に増えているのは事実。まだ実験段階ですが、世田谷にデリバリー専門のお店を出店しています。店頭での販売は行わず、デリバリー注文に特価した店舗運営ですが、通常店舗に比べて出店コストは抑えられるので、今後の動向を見ながら次なる展開を考えたいです。」

各大手が考えるポストコロナ時代のマーケティング戦略

消費者の心を動かすタッチポイントをリアルで創る

コロナを契機に需要が伸びた、オンラインショッピングや動画配信サービス、フードデリバリー。これまでリアルを中心にした販路を構築してきた企業も、オンライン化の波が一気に押し寄せたことで、ECサイトの開設やライブコマースなど、新たな販売チャネルとマネタイズポイントを作ることが急務になっています。より一層、ユーザーの購買履歴や興味関心を意識したデータ活用のマーケティングが重要性を帯びる中、登壇各社はポストコロナ時代におけるマーケティングやビジネスについて、どのような考えをお持ちなのでしょうか。

アイスタイルの吉松社長は「メーカー、ブランド側は“リアル”をどう活用していくかが鍵になる」とし、次のような意見を述べました。

「時節柄、外出機会が減る一方で、実は化粧品やコスメは9割以上、リアルで売れているというデータがあります。ここにネットとリアルの可能性を感じています。どうやってデジタルを活用して、リアル店舗と連動させるか。正解がないゆえ、トライ&エラーを繰り返しながら最適解を探すしかありませんが、1つ言えることは、『データを捕まえてもお客様は動かない』ということです。

もちろんデータ収集は大切ですが、今の時代のユーザーは色々な商品に出会い過ぎていて、商品を好きになるプロセスがありません。これはつまり、リアル店舗が逆に武器になると考えていて、『お客様の心を動かす』ためにどのようなマーケティングストーリーやブランドのタッチポイントを創れるかが大事になってくると思います。」

コロナ禍でクチコミ数は過去2番目の多さを記録

また、吉松社長は「アットコスメでの口コミ数が過去2番目に匹敵する伸びを見せている」と言及し、コロナ禍で重要な視点についての見解を述べました。

「2011年に起きた東日本大震災に次ぐ量のクチコミが、コロナ以降アットコスメに寄せられました。ユーザーはより“信頼”を求めるようになっており、この時代において重要なキーワードになると捉えています。これまでの定石とされていた、マーケティングにおけるカスタマージャーニーを描くことは、パンデミックが起こっている状況下では難しい。消筆者との関係性の『濃さ』や『深さ』をどう作っていき、どのようにして『“好きになるプロセス”を構築』できるかが大切な時代だと感じています。」

インフルエンサー施策ではコミュニケーション設計を大切に

サイバー・バズの高村社長は「コロナで急速に需要拡大するオンラインでできることは何か、既存のターゲット顧客をピボットも検討しながら、事業の方向性を決めていきたい」と目標を掲げ、抱負を述べました。

「今まで労働集約モデルで組織を作ってきましたが、今後はシステム化を進めてより最適化・効率化されたローコストオペレーションを実現できるように、分析ツール開発などにも力を入れて随時リリースをしています。例えば、弊社は大手芸能事務所4社と提携していて、独自のインフルエンサーネットワークを有していますが、インフルエンサーが抱えるフォロワーの興味関心のジャンルを当社独自の分析システムで把握し、親和性のあるクライアントとマッチングさせることで、より精度の高いマーケティング施策を行うことができます。このようにSNSの質の高いデータを活用することが重要です。

また、ライブ配信についても、ただインフルエンサーが商品を紹介するのではなく、ユーザーから質問を受け付けて答えるなど、相互にやりとりするようなコミュニケーション設計を行い、しっかりと商品やブランドの魅力が伝わる導線も取り入れています。これまでSNS広告やアカウント運用代行などに注力してきましたが、新たにSNS×ECのソーシャルコマースのサポートも開始し、これからはECなどオンライン完結のサービスやプロダクトを持つ企業に対して、多様なクライアントニーズを満たせるように尽力します。」

運用型テレビマーケティングの可能性

VOYAGE GROUPの土井氏は「ネット広告が主流の中で、改めてマスの領域も面白くなる」と述べ、自身が運営する運用型テレビCMプラットフォーム「テレシー」の可能性について触れました。

「GDPRやCookie規制など、閲覧者の個人情報保護やプライバシーの観点から、ターゲティング広告が制限されつつある中、ここにきてTVの可能性を再認識しています。これまでTVCMといえば、大企業中心に予算が潤沢な体力のあるプレイヤー中心の媒体でした。なかなかTVCMを打ちたくても、ベンチャーやスタートアップといった事業者は予算の兼ね合いで諦めていた状況でしたが、電通との共同事業で立ち上げた『テレシー』は、最低100万円から簡単にTVCMを作ることができます。

さらに、ネット広告と同じ指標で広告効果を可視化できるため、マーケティングチャネルとしての将来性を感じるサービスです。在宅ワークが浸透したことでTVに接する機会も増え、新たなターゲットの獲得や既存のネット広告との相乗効果など、運用型テレビマーケティングがより業界に根付くように事業展開していきたいと思います。」

飲食業を再定義する吉野家の挑戦

最後に吉野家の田中氏は、同社がキーワードとして挙げる「ひと・健康・テクノロジー」をもとに、「飲食業の再定義を図るために邁進したい」と語りました。

「弊社は経営理念に“For the People”を掲げています。『「人」のためを考え、「人」を大切にし、「人」に必要とされたい』。このような思いに立って、社会のニーズが変化しようとも、変わらず価値提供ができるように努めてきました。吉野家単体で年間1000億、牛丼は2億食の規模になっていますが、競合は他の牛丼チェーンではなくコンビニだと考えています。品揃え豊富で、身近な存在のコンビニに比べて何が優位性であるかといえば、『温かく、出来立ての食事』と『サービスの提供』だと捉えています。こうした勝ち筋は見えているので、今後も磨き続けてお客様に求められる吉野家ブランドを創っていきたいです。」

各大手企業とも事業ドメインやミッションが違えど、コロナ禍で変わる消費者のライフスタイルや消費動向、求められるニーズを汲み、ポストコロナ時代における最適解を探さなければなりません。

本セッションで語られた内容は、きっと今後のマーケティングやPRなどのプランニングに役に立つのではないでしょうか。

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