『梨泰院クラス』や『愛の不時着』など、大ヒット韓国ドラマで度々登場した、緑の小瓶の韓国焼酎(ソジュ)。その中でも代表的なブランドと言えば「チャミスル」です。最近では、「韓国ドラマあるある」を取り入れたウェブCM『恋スル!チャミスル』シリーズが、累計2,000万回再生を超えるなど、SNSを中心に話題を呼んでいます。そんなチャミスルは、日本でいつから注目され、なぜここまでのヒットを遂げたのでしょうか。今回は、眞露株式会社 マーケティング部門 宣伝販促チーム 宇佐見映里菜さんに、チャミスルヒットの裏側と話題の『恋スル!チャミスル』成功の要因についてお伺いしました。
CONTENTS
日本市場を捉えたチャミスルヒットの裏側
韓国と韓国以外で見られる人気フレーバーの違い
―はじめに、チャミスルのマーケットについて教えてください。
まず、韓国のマーケットからお話すると、弊社の韓国本社であるHITEJINROが販売する『チャミスル』は、かなり大手のブランドなので、性別・世代問わず幅広い方に飲まれている「国民酒のブランド」のひとつということが、特徴として挙げられます。加えて、韓国ではプレーンな『チャミスルfresh16°』や、甘みのない『チャミスルオリジナル20.1°』などが一般的です。
一方、日本のマーケットでは『チャミスルマスカット』や『チャミスルすもも』などのフルーツフレーバーが人気で、メインのコアユーザーは20~40代の女性と、韓国市場とは大きく異なっています。実は、ダントツで人気なのは『チャミスルマスカット』なんです。
―韓国と日本でここまで違いがあるのですね。
韓国と日本で違うというよりは、韓国と韓国以外の国で違いがみられています。アメリカや東南アジア、中国では、日本と同様にフルーツフレーバーが人気となっているのですが、先述したとおり、韓国ではプレーンなチャミスルが一般的です。そもそも、韓国ではフルーツフレーバーがあまり売っていないらしく、韓国の人からすると、「フルーツのソジュ(韓国焼酎)もあったよね」といった、一種の流行り程度の感覚なんだそうです。
―なるほど。韓国と違い、日本では20~40代がメインコアユーザーとのことでしたが、この層を広げていくための施策などは打たれているのでしょうか。
ひとつは、フルーツフレーバーのラインアップを増やしていくことです。この狙いは、さまざまなフルーツの種類を提供して、フレーバーを「選べる楽しみ」を増やしていくことですね。実際、6月14日に「チャミスルピーチ」を発売し、フルーツフレーバーのバリエーションが5種類になりました。
また、しっかりと度数のあるお酒を飲みたいという層から、もう少しライトにお酒を楽しみたいと思われている層に幅を広げることにも取り組んでいます。チャミスルにとっつきやすくなるように、エクステンションということでラインアップの充実を目指しています。4月19日に発売した「チャミスルトクトク」がそれにあたりますね。
「飲んでみたいけど、悩んでいる 」生活者のインサイトから生まれた『チャミスルトクトク』
―今年の4月に、日本限定で『チャミスルトクトク』シリーズを発売されましたが、この背景や狙いについて教えてください。
コロナで韓国ドラマが流行った当時、「緑の小瓶=チャミスル」という認知がとれ、多くの方に「飲んでみたい」と思ってもらうことはできていました。とはいえ、普段アルコール度数3~5%の缶酎ハイなどを飲んでいる層の中には、「おいしそうだけどお酒が弱い私でも大丈夫かな」と購入をためらってしまう方もいらっしゃったと思います。実際に、Twitterで「チャミスル 飲んでみたい」と検索をすると、アルコール度数に言及するつぶやきが結構見受けられました。そこの層をすくい上げるために、「低アルコールのチャミスルを作るのはどうか」と考えたのが、開発のきっかけのひとつです。
―生活者のインサイトを拾い上げて生まれた商品だったのですね。
インサイトもきっかけのひとつですが、日本ならではのチャミスルの飲み方に着目したこともポイントです。日本では、いろいろなお酒を“割って”飲む文化が定着していますよね。韓国では、チャミスルをショットグラスで飲むのが定番ですが、日本ではチャミスルも「ソーダで割る」という飲み方で、アルコール度数を下げつつ、シュワシュワした炭酸感を楽しむ、という方も多かったんです。ただ、テイストの開発の際に気を付けていたのは「ただ炭酸で割ってアルコール度数を下げただけのものにしない」という点です。そのため、今回発売した『チャミスルトクトク』は、日本で評価されている「チャミスル=甘くておいしい」という味わいの良さは残しつつ、低アルコールで爽快に楽しめる商品となりました。
―発売してからの反響はいかがでしょうか。
現在、発売から1か月半ほど経っているのですが、お陰様でご好評をいただいており、売れ行きも好調です。加えて、SNS上で見られるコメントがポジティブなものばかりなんです。中には、「お酒は弱いけどこれなら飲める」といった声も見受けられるので、今まで取りきれていなかった層を拾えたのかなと感じています。
また、飲んでいただくシーンの幅も広がるのではと考えています。これまでのチャミスルシリーズは、韓国料理屋に置いてあるイメージが強かったと思うのですが、『チャミスルトクトク』は、バーベキューやフェス、クラブなどのシーンでも飲んでいただける可能性を秘めています。そうなると、韓国文化・ドラマ好きの層を越えて、男性にも抵抗感なく飲んでいただけるようになるのではと思いますね。
「恋スルチャミスル」の誕生背景とSNS別運用戦略
単純認知から“好意的な認知”の獲得を目指して
―話題を呼んでいるウェブCMの第1弾『恋スル!チャミスル』が、『YouTube Works Awards Japan 2022』で「Best Sales Lift部門」を受賞されました。この企画の背景や、ウェブCMを通じて生活者に訴求したかったポイントなどについて教えてください。
2020年頃から爆発的に売れ始めたのは、韓国ドラマがきっかけでした。当時は、韓国ドラマの影響で「緑の小瓶=韓国のチャミスルというお酒」まで認知を得られていたため、2020年に佐久間由衣さんを起用したテレビCMでは、具体的なチャミスルの飲み方であったり、チャミスルと合う料理の紹介であったり、まずは「モノに対するCMやPR」を行っていました。
ある程度の認知をいただいた次の段階として、チャミスルを「特別な日に飲むお酒」ではなく「日常で飲まれるお酒」にするためには、商品の単純認知から“好意的な認知”を獲得する必要がありました。「チャミスルって知ってる?」と聞かれた時に、「知ってるよ」ではなく「知ってるよ、おいしいよね」のような、「チャミスルっていいよね」という認知までもっていきたかったんですね。この“好意的な認知”を獲得するためのアプローチとして挙がったのが、“韓国ドラマあるある”でした。
細部まで徹底した“韓ドラあるある”でファンの心も掴む
―第1弾の『恋スル!チャミスル』が約2分、第2弾の『恋するチャミスル』が約6分といった長尺になっていますが、長編のウェブCMがここまで話題となった成功の要因はどこにあるのでしょうか。
ご覧いただくと分かるのですが、実は、CMにチャミスルがほとんど出てこないんです。たとえば、第2弾での商品訴求は最後の30秒程度。そこまで、サブリミナル的に画面内に登場してはいるものの、あくまで韓国ドラマの世界観を優先した作品になっているんですね。しっかりと作り込むことで、日常的に韓国ドラマを視聴されているファンの方にも納得いただけるクオリティの“韓国ドラマあるある”を提供出来ましたし、その上で最後に「やっぱりチャミスルだよね」というところに落とし込めたストーリー設計が、ひとつの成功要因だと思います。
また、これがテレビCMの15~30秒の尺だと、伝えたい内容が伝わりきりませんし、ターゲットも絞ることができず、私たちが目標としていた“好意的な認知”までもっていくことは難しかったと思います。今回、YouTubeをベースに動画を展開したことにより、ユーザーからのコメントをはじめ、双方向のコミュニケーションやコミュニティ内での拡散といった動きがみられました。これらは、実施することで得られた知見ですが、ウェブでの展開に振り切ったことも良かったのではないかと思います。
“TikTok売れ”から学んだSNS活用術
―『チャミスルムーブ』の施策をはじめ、SNS運営にも力を入れられていると思います。SNSごとの使い分けなど、意識されていることはありますか。
Instagramは、ユーザーとの交流の場として活用しています。「新商品発売のお知らせ」などの一方的な発信ではなく、双方向のコミュニケーションを意識した情報発信を意識していますね。たとえば、Instagram上のチャミスルの投稿を拾って、「こんな飲み方をしてくれました!」と、眞露のアカウントで紹介するなど、ユーザーの声をうまくくみ取って運営しています。Twitterは、さらにリアルタイムなユーザーの声を拾う場として活用しつつ、拡散も期待できるため、キャンペーンやニュースの発信も積極的に行っています。現在、デイリーで投稿しているメインのSNSはTwitterとInstagramで、TikTokも今年から始めました。
おっしゃっていただいた『チャミスルムーブ』を企画する前、実はチャミスルの“TikTok売れ”というキーワードがありました。その時は、チャミスルの飲み方・楽しみ方として、「チャミスルの紅茶割」がTikTokでバズり、Twitterで拡散され、Instagramで実際に飲んでみた投稿がされるという流れが生まれましたね。こうした起爆剤として、今後もTikTokを活用できるのではないかと考えています。
―ありがとうございます。さいごに、今後の展望についてお聞かせください。
チャミスルは、ありがたいことに韓国好きの方々にはある程度浸透しているので、いかにして「日常的に飲んでもらうのか」「韓国好き以外の層に広めていくのか」を追求していきたいです。流行りだから飲む、流行りが終わったから飲まないといった商品にならないように、「定番化」するための施策を考えています。それで言うと、『チャミスルトクトク』は、韓国料理以外と組み合わせて飲んでいただく、新しいシチュエーションでのユーザーが増えるきっかけになると思います。そういった、飲むシーンを広げていくことが、次の課題ですね。また、眞露全体としては、『JINRO』『JINRO マッコリ』などのほかの商品訴求も行っていかなければと感じているので、一つひとつの商品にしっかりとスポットを当てていきたいです。
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。