広報に欠かせない“本質を見抜く目”はこう身につける!カギはあらゆる物事に「ひっかかる」こと

企画のつくり方や、メディアとのコミュニケーションの取り方など、言語化しにくい感覚的なノウハウが大切になることも多い、広報の現場。これまで蓄積してきた知見をどのように後進に伝え、育成していくべきか、悩んでいるという方も多いのではないでしょうか。今回、広報人材の育成について研究を行う、京都産業大学の伊吹勇亮准教授にインタビュー。伊吹先生が考える、広報職に向いている人物像や、広報人材の育成ポイントについてお話を伺いました。

京都産業大学 経営学部 准教授  伊吹 勇亮
1978年生まれ、京都府出身。京都大学 経済学部 経営学科を卒業後、同大学大学院 経済学研究科に進み、経営戦略や人材育成、組織づくりを専門として「広告会社における人材育成」に関する研究を行う。2005年に同大学院の博士後期課程を学修認定取得で退学。長岡大学産業経営学部の専任講師を経て、2009年より現職。日本広報学会の関西部会長を務めたほか、現在は日本広告学会の常任理事を務める。著書に、『広報・PR論』(共著)、『広告コミュニケーション研究ハンドブック』(共編著)など。

広報人材の育成は「経営の中の広報」を理解してこそ

広報人材に欠かせない「本質を見抜く目」はこう鍛える

―はじめに、伊吹先生の研究テーマについて教えてください。

私は、経営学を専門として、現在は「PR業界や一般企業の広報部門における人材育成」について研究しています。もともと、「広告会社における人材育成」をテーマに、広告クリエイターの育成に必要な組織環境について、調査・分析を行ってきましたが、最近はそれに加えて、「企業内で広報人材をどのように育成すべきか」という点を明らかにしたいと考えています。

また、人材育成に限らず、企業や教育機関の広報活動についても、いろいろと研究を重ねてきました。たとえば、建学の精神や教育方針が体現されていることの多い部活動を、高校の広報でどのように活かしているのかの調査や、東京五輪の理念浸透がどのように行われ、レガシーをどのように残していくのかについて分析したりもしています。

―伊吹先生は、教育・研究活動の中で、さまざまな企業を見てこられたと思いますが、「広報・PRの仕事に向いている人」はどのような人物だと思いますか?

好奇心旺盛でコミュニケーションが好きな人は、広報の仕事に向いていると思います。さらに、「自立して成長し続ける広報人材」という観点で言うと、過去の経験を第三者的に振り返り、一見関係のない経験を結びつける「メタ認知」ができる人は、伸びしろが大きいのではないでしょうか。

広報の現場は、世の中のトレンドなどにも影響されるからこそ、毎回、少しずつ状況の異なる仕事を手掛けることが多いと思います。それらの経験を、一つひとつ違うものとして置いておくのではなく、やってきたことを抽象化・一般化し、ほかの場所でも使えるような知見として自分の中にストックしておく。過去のあらゆる経験から学びを抽出して次に活かせる人は、やはり優秀な広報になることが多いと思います。

―なるほど。「メタ認知」によって自分を客観的に振り返り、異なる環境下でも学びを活かせることが大切なのですね。

そうですね。要するに、広報の仕事には“物事の本質を見抜く力”が大切なのだと思います。他社事例の勉強のために「PRアワードグランプリ」をチェックする方も多いですが、受賞した企業の取り組みを見て、「すごい」という感想で止まっていてはいけないのです。賞を獲得した企業の仕事から、優れている点と自社でも応用できそうなポイントを見極めて、実践に移していけることが重要です。しかも、単なる猿真似ではなく、考え方を応用させるというのがポイントだと思います。

また、広報としてトレンドを押さえることも大切ですが、ただ流行に乗るだけでなく、それがなぜ流行っているのかを社会的、経済的、生活者心理的な観点から自分なりに分析できると、取り組む広報施策にも深みが出てくるように思います。

―広報人材に欠かせない「本質を見抜く力」を、特に広報初心者はどのように身につけたら良いのでしょうか。

個人レベルでできることとしては、世の中のあらゆる物事に興味を持ち、「ひっかかってみる」ことが役立つのではないでしょうか。「ひっかかる」とは、身の回りにあるさまざまな工夫に気付くということ。たとえば、今回の取材で出していただいたペットボトルの水も、「キャップにQRコードが書かれているのはなぜ?」とか「水の製造元はどこなのだろう?」といったことに「ひっかかる」と、新たな知識を得るきっかけになります。世の中のあらゆる物事にアンテナを張って疑問に思える人は、いち早く「本質を見抜く目」を養えるように思いますね。

広報の目的理解と非公式な場でのコミュニケーションが人材育成の鍵

―企業で広報・PR担当者を育成する際のポイントは、どこにあるのでしょうか?

まず、人材育成を考えるとき、「育成期間(短期・長期)」と「場所(教育機関・企業)」という2つの論点で要素を整理する必要があります。今のご質問で考えるべきは「短期」に、「企業内」で育成するということですね。

知識の習得については、外部や社内の研修、書籍などで十分だと思います。一方で、「メディアリレーションのコツ」といった、広報ならではの“論理的に言語化することが難しい知見”については、雑談や食事を共にするコミュニケーションの時間が大切だと、私は考えています。

雑談のような業務に直接関係ない時間、経営学的には「組織スラック」と呼ばれる概念の一例ですが、広報のようなクリエイティブな仕事においては、一見無駄に見える、ゆるいコミュニケーションの時間も、後進育成に意外と重要な役割を果たしているのです。非公式な場だからこそ、過去に経験したことの背景やコツのような感覚的なものを時間をかけて伝えられる。物事の本質を理解して行動できる広報の育成には、先輩や上司とのさまざまな形でのコミュニケーションが重要な鍵を握ると思います。

―なるほど。ほかに意識すべきポイントはありますか?

あとは、きちんと「企業内での広報の目的」や「広報担当者が果たすべき役割」についても理解しておくことが大切です。広報は、元の英語が『Public Relations(パブリックリレーションズ)』というように、本来は企業と世間との間に良好な関係をつくることが目的の活動です。企業が言いたいことを発信するだけではダメで、世間が受け入れたくなるようなメッセージを投げかけることが、まずもって必要です。さらに、世の中の感覚や考え方を企業内に取り込む役割もあります。場合によっては、広報目線から経営戦略に意見や提案をすることも求められるため、広報は最終的に「経営」が分かっていないと、本来の役割が果たせないのです。

しかし、広報の目的と手段が逆転し、「広報=プレスリリースをつくる人、メディアとの取次を行う人」という認識の方が多いように感じています。広報活動において、プレスリリースの作成やメディアリレーションはあくまでも手段のはず。短期的な目線で手段のスキルアップにばかりに注目していると、刹那的な仕事に終わってしまいます。広報の仕事は、長い時間をかけて会社に利益をもたらす性質があるからこそ、きちんと広報の目的や役割も示した人材育成を行うことが必要なのだと思います。

人材育成や組織づくりを主テーマに、広報“で”教育する

伊吹ゼミ 13期生


―「広報部門における人材育成」をテーマとされている伊吹先生のゼミナールでは、学生にどのようなことを教えていらっしゃるのでしょうか?

私の専門は「広報」ですが、学生たちにはプレスリリースの書き方やメディアリレーションの構築方法といった「広報の専門知識やスキル」よりも、広報を使って社会人として必要な能力を鍛えることを意識した教育活動を行っています。広報“を”教育するのではなく、広報“で”教育しているという感じでしょうか。これは、広報の専門スキルを高めるよりも、コミュニケーション力や課題解決力、論理的思考力、リサーチ力など、どの業界の企業に就職しても活かせる力を身につけてほしいという思いからきています。

―なるほど。広報人材としてだけでなく、普遍的な力を身につけられるような教育を行っているのですね。

そうですね。京都産業大学経営学部では2年次からゼミが始まり、私のゼミでは、どの学年も基本的に何らかの「課題解決」に取り組んでもらっています。2年次では、自分たちで自由にアイデアを出し、1つのプロジェクトを動かします。2021年度の2年生は、食糧問題の解決策として世界的に注目されている「昆虫食」に注目し、認知度向上や虫を食べることへの嫌悪感の改善につなげるべく、『昆虫食カフェ』を開催しました。

3年次にあがると、企業等から課題をいただき、1年かけてその解決に取り組んでもらいます。2021年度は、IT企業から「女性エンジニアを増やしたい」という課題をいただいて、エンジニアを女性の人気職種にする方法を検討。「音楽×SNS」をキーワードに、TikTokを活用したプロモーション活動を行いました。4年次は、卒論に取り組んでもらっています。

―伊吹先生のゼミでは、課題解決の実践を通じて学びを深めるのですね。

そうですね。そのため、私のゼミでは、昔の大学のように1冊のテキストを輪読するスタイルはとっていません。自分から興味を持って学ぼうとしない限り、知識や理解は深まらないと考えているからです。自分でその必要性を感じれば、学生は自ら本を読むようになります。だからこそ、ゼミの学生発表では、自ら必要な知識に気づいて学んでもらえるよう、考え方のポイントについて、指摘とアドバイスを行うようにしています。

また、参加は任意ですが、ゼミの中で課外活動も積極的に行っています。たとえば、韓国の釜山で行われる国際広告祭の学生コンペティション部門を学生たちに案内したところ、2020年は3年生のゼミ生4名が審査員特別賞を受賞しました。ほかにも、他大学の教員と連携し、企業からもらった課題をもとに、学生コンペを行うこともあります。外の世界でさまざまな人に出会い、経験を積むことも大切にしてほしいため、あえて他流試合を積極的に行うようにしていますね。

広報・PR職を目指すなら、“おもろい人生”を生きてほしい

―さいごに、これから広報・PR職を目指す方へメッセージをお願いいたします。

広報・PR職を目指す方には、ぜひご自身の人生を楽しんでいただきたいなと思います。なぜなら、人生を「おもろがる」視点が、広報の仕事にも活きてくるからです。たとえば、広告上手で知られるサントリーの広告担当者は“面白い広告”ではなくて“おもろい広告”をつくることを意識しているのだそうです。関西弁のニュアンスなので、少し伝わりづらくて申し訳ないのですが、関西の人からすると「面白い」という言葉は、頭で論理的に考えて分かる面白さを示していて、「おもろい」は、そこはかとなく感じるおもしろさを意味しています。また、笑えるかどうかだけでなく、興味深いかどうか、知的好奇心をくすぐられるかどうかという点が、大いに含まれる言葉です。広告をつくる上で、多くの人の心が自然と動くクリエイティブを追求しているのがサントリーの宣伝部です。

このような「おもろい」ものを仕事で実現しようとするとき、やはり自分自身が人生を楽しんでいないと、良いアイデアも企画も出てこない。生活者向けにさまざまな発信を行ったり、メディア向けにネタを提供したりする広報も、同じことが言えると思うんです。

今、世の中には暗いニュースや悲しいニュースがあふれ、多くの人が疲弊したり、苛立ったりしている現状があると思います。また、2022年になった現在も、解決できていない社会課題がたくさんあります。広告クリエイティブが社会を少しだけ明るくしたり、課題解決に結びつくような提案ができたりするように、広報も世の中を豊かにする仕事ができるはずです。自分たちの仕事がどのように社会に切り込めるのかを考えることは広報のやりがいだと思いますし、「おもろさ」もそこにあるのではないかと思います。

人生を「おもろがって」楽しく愉快に生きていくことができれば、いずれ広報として世の中に一石を投じるような、やりがいのある仕事に携われるようになるのではないでしょうか。

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