無名の町工場→月間来場2,000人の人気企業へ。全員広報を実現する島田電機製作所の“ファンづくり活動”

昨年12月に授賞式がおこなわれた、『PRアワードグランプリ2024』(以下、PRアワード)。PR GENICでは、アワード受賞作品の実施背景やPRポイントを紐解いていきます。2024年度の受賞事例シリーズ第1弾は、ゴールドを受賞した島田電機製作所の「無名だったBtoBのニッチな下請け町工場を毎月2000人以上が殺到する人気企業に変えた”ファンづくり活動”」です。この取り組みでは、「事業活動はファンづくり」という基本理念のもと、インナーブランディングからパブリックリレーションズまで一貫した施策展開を実現し、社内外に大きな波及効果をもたらしました。

今回は、島田電機製作所の広報担当である小倉心愛さんにインタビューを実施。“ファンづくり活動”を始めたきっかけや、なぜ次々と効果的な施策を展開できるのか、「全員広報」を実現する島田流の広報活動を紐解きます。

PRアワードゴールド受賞の“ファンづくり活動”。注力した2つの背景

島田電機製作所が手掛ける製品(一部)


—はじめに、貴社の事業概要をお聞かせください。

当社は、1933年創業の中小メーカーです。おもに、エレベーターを呼ぶための押しボタンや、到着を知らせるホールランタンなどを、オーダーメイドで製造しています。おもな取引先は、エレベーターメーカーです。メーカーよりいただいた意匠図をもとに、私たちがボタンなどを製造していきます。エレベーターの意匠器具における国内シェアはおおよそ6割で、エレベーターメーカーを通じて、ホテルやオフィス、商業施設、リゾート施設などに当社製品を納入しています。東京スカイツリーなど、皆さまの身近にある著名施設のエレベーターボタンは、そのほとんどが当社製品です。

—2024年12月に発表されたPRアワードでは、ゴールドを受賞されました。貴社の取り組みのどのような部分が評価されたのですか?

当社は今回、「無名だったBtoBのニッチな下請け町工場を毎月2,000人以上が殺到する人気企業に変えた“ファンづくり活動”」をテーマに据えて、PRアワードに応募しました。審査員の方々からいただいたフィードバックによると、当社がPR活動を通じて目指した“ヒト中心”の組織づくりや、社員と顧客、社会から選ばれ続ける企業となることを目的とした一連の取り組み、社内が一丸となった「全員広報」の実現を高く評価していただいたようです。特に、売上向上を直接のゴールとするのではなく、当社の基本理念である「事業活動はファンづくり」という考え方を軸に、デザインやPRの力で、社内だけでなく社会に対してもさまざまな波及効果をもたらすことができた点は、大きく評価していただきました。

広報担当 小倉心愛さん


—なぜ「ファンづくり活動」に注力しようと思われたのでしょうか。

大きく2つのきっかけがあります。1つ目は、島田電機製作所のことをより多くの方に知っていただきたいという、純粋な想いが社内にあったことでした。今でこそ、当社の社会的な認知度は高まっていますが、2013年に本社を八王子へと移す前は、エレベーターボタンというニッチな領域で、人知れずものづくりと向き合うBtoBの下請け町工場のひとつでした。いくら熱い想いを持って良い製品を作り続けたとしても、エレベーターのかごやホールに当社の名前が刻まれるわけではありません。ものづくりにかける私たちの強い想いや、これまで生み出してきた製品をもっと世の中に知っていただくことができたら、従業員の仕事へのモチベーションが上がり、社内がより活気づくのではないかと思いました。そこで、「社外にファンを増やすためにはどうしたらいいか」ということを意識するようになりました。

2つ目は、本社移転のタイミングで、会社が大切にしている価値観をあらためて振り返ったことです。働くとは何か、仕事とは何かということを突き詰めて考えたとき、「働くとは、人を喜ばせることである」という定義ができました。このような流れもあって、会社として、単なる“ものづくり”に終始するのではなく、社内の組織づくりと社内外でのファンづくりの3軸で事業活動を進めていこうと意思決定をしました。

島田流・企業理念浸透を促す効果的なブランディング施策の数々

“島田人”であることを大切にする文化を醸成

オフィス内に設置されているビジョン


—活動のターゲットは、どのような層を想定しているのですか?

お客さまや求職者はもちろん、すべてのステークホルダーに当社のファンとなっていただけたらと考えています。中でも、従業員は重点ターゲットのひとつで、当社の一番のファンであってほしいと思っています。なぜなら、会社のブランドは、社内の一人ひとりの思いや行動から少しずつ醸成されていくものだからです。当社の従業員が「島田電機製作所をどうしていきたいのか」「社会からどんな会社として見られたいのか」といったことを自発的に考え、行動していかなければ、ファンづくり活動は上手く広がっていきません。そのため、2013年の本社移転をきっかけとして、ファンづくり活動に力を入れ始めた際は、まずはインナーブランディングに目を向けて、施策を展開していきました。

—インナーブランディングでは、どのような取り組みをおこなったのでしょうか。

最初は、事業の根底にある価値観や、代表・島田の想いなどを網羅的にまとめた「島田ブック」という冊子を作り、全従業員に配布しました。ただ、冊子を配布するだけでは、会社の考え方や価値観は浸透していかないため、当社では「島田ブック」を教材とした10問の穴埋め問題「ブックテスト」を年に1回実施しています。このテストで好成績を収めた場合、人事評価に少しポイントが加算される仕組みとなっており、今では全従業員がお互いに想定問題を作った勉強会を開くなど、楽しみながら「島田ブック」と「ブックテスト」を活用してくれています。

こうした仕組みを導入したことで、当社の「“らしさ”輝く世界をつくる」というビジョンや、「期待を超える実現力」「個性あふれる人間力」といったバリューを体現した、“島田人”であり続けることを大切にする文化が育まれたように思います。

左が事務作業などをおこなう事務所、右が工場スペースで、仕切りがないオフィス設計


—オフィスも部署ごとの仕切りがなく、オープンで風通しの良いつくりになっていますよね。

そうなんです。エレベーターボタンなどを製造する工場スペースから事務仕事をおこなう事務所まで、壁を一切設けずに、オープンでフラットなオフィスを設計しました。営業と製造、製造と仕入れ担当など、部署の垣根を超えた連携が日々生まれています。

さらに、最近始めた取り組みとして、「ハートビート共有会」というものがあります。これは、当社が掲げる「Heart-Beat Factory」というスローガンにちなみ、毎週水曜日に各従業員が持ち回りで「自分が人の心を動かしたエピソード」や「自分が誰か、何かに心を動かされたエピソード」を全従業員の前で発表するというイベントです。感情が揺さぶられた体験を一人ひとりが社内にシェアすることによって、会社全体がよりポジティブな空気へと変わっていくことを期待しています。

いたるコト・バショでのCI浸透の仕掛けが「全員広報」を実現

社内で掲載されている、島田電機製作所のCI


—貴社は、ビジョン、ミッション、バリューなどのコーポレート・アイデンティティ(CI)を、社内に浸透させる仕掛けづくりが、非常に
長けている企業なのだと感じました。

ありがとうございます。実は、現在のCIは、2024年2月にリニューアルしたものです。それまで、20年に渡り使ってきたものがあったのですが、それらはどれも社内に向けた言葉ばかりでした。ですが、2013年にファンづくり活動をスタートさせてからというもの、近年は、おかげさまで当社の認知度もかなり上がっています。社会からの期待も高まってきているとの認識から、2022年夏頃に、CIのリニューアルプロジェクトを立ち上げ、外部企業と連携をとりながら、当社のコアな価値観をより多くの方に伝えられるようなビジョン、ミッション、バリュー、スローガンを設定しました。

実は、CIのリニューアルにともなって、会社の公式サイトも作り替えました。「Heart-Beat Factory」というスローガンにちなみ「ハートビートボタン」をつけるなど、遊び心も交えながら、多くの方に当社のことを理解し、親しんでいただけるようなサイト構成を実現しています。

そうしたサイトづくりからもお分かりいただけると思うのですが、当社では、CIは「作って終わり」にしてはいけないものだと考えています。社内の従業員に、いかにCIを自分ゴト化してもらえるかを常に意識しながら施策を展開し続けていることが、当社のインナーブランディングの特徴と言えるのかもしれません。

オフィスのあらゆる箇所に組み込まれているCIの一例


—そうしたインナーブランディングの成果は、どのような点
感じていますか?

私は2021年入社なのですが、この4年間だけを見ても、従業員がまとう空気や意識はかなり変化したように思います。もともと、人前での発言が苦手だった方が「ハートビート共有会」でいきいきと話をしていたり、はじめは一歩引いて会社のさまざまな施策に参加していた方が、今では率先してイベントに加わっていたりする姿を見ると、地道な取り組みを続けてきてよかったと心から嬉しくなります。

また、インナーブランディングの成果として大きいのは、「全員広報」が実現できるようになったことです。以前から当社では、全社に関わる取り組みには、従業員が全員で参加する文化がありましたが、広報においてもそれが叶えられるようになったのは本当にありがたいと感じます。

代表例としては、「ファンチーム」という工場見学会を運営する組織が挙げられます。ファンチームはもともと、総務や広報など、外部への発信が得意なメンバーが集まって結成されていたのですが、最近では、製造を担当するメンバーも加わり、56名の従業員のうち3分の2がファンチームに参加するまでになりました。会社のことを自分の言葉で外部の方に説明することは、自社の魅力や特徴、将来像をあらためて考えるきっかけになります。全員広報は結果として、インナーブランディングの強化にも繋がっていると感じます。

≫後半 『OSEBA』に月2,000人の来場!社外広報3つの効果とは

 

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