近年、SNSでよく見る“映え”を意識した投稿。目を奪われてしまうような画像も多く、若い世代を中心に高い関心を得ています。しかし、変化の激しい現代において、“映え”は諸刃の剣でもあり、プラスアルファの魅力がなければ、一過性のブームとなってしまう懸念もつきまとってきます。
そんな中で異彩を放っているのが、『旅する喫茶』です。SNSに美味しそうなカレーとクリームソーダを投稿して徐々に人気を集めていき、現在では地方自治体と組んだ活動をしたり、大手企業とコラボイベントを開催したりして、多くのファンを楽しませています。今回は、株式会社旅する喫茶 取締役 副社長の玉置直樹さんに、『旅する喫茶』の活動内容から、どのように地方と連携しているのか、また、長期的な人気を集める工夫について伺いました。
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全国でカレーとクリームソーダを提供する『旅する喫茶』とは?
ーはじめに、『旅する喫茶』の活動内容について教えてください。
『旅する喫茶』は、「いろいろな地域を旅しながら、その土地の食材を使ったカレーとクリームソーダを提供する」というコンセプトではじめた、いわば出張喫茶店です。僕がカレーを担当し、クリームソーダはtsunekawaが担当しています。スタートは2019年で、その後コロナもありましたが、全国40か所以上で実施してきました。そして、2021年3月に高円寺で『旅する喫茶』の実店舗を、2023年7月に福岡県うきは市で『旅する喫茶うきは店』をオープンしました。うきは店は、喫茶だけでなく宿泊も可能な店舗です。今はこの2つを拠点として、出張喫茶店を含めた『旅する喫茶』の活動をおこなっています。
ーどのような背景で活動を始められたのでしょうか?
各々、カレーとクリームソーダを作ることが趣味だったんです。はじまりは、tsunekawaから「一緒にイベントをやらないか?」と声をかけられたことでしたが、そこから2人で『旅する喫茶』の構想を広げていきました。「旅」の要素を入れたのも、2人とも旅が好きだったことが理由です。特に、僕は昔から、「旅をしながら仕事ができたらいいな」と考えていて、会社員時代は、その実現に向けていろいろと模索していました。『旅する喫茶』というネーミングも、定期的に地方を旅しながら喫茶店を開くという目的から名付けました。宿泊ができるうきは店を作ったのは、食だけではなく「旅の体験」も提供したかったことがきっかけです。
出張喫茶を通じて『旅する喫茶』が地方と生活者の架け橋になる
ー旅好きが根本にある活動とのことですが、現在では地方創生の役割も担っています。地方創生に目が向いたきっかけは何だったのでしょうか?
おっしゃる通り、活動をはじめた当初は、ただカレーとクリームソーダと旅が好きで、たくさんの人にふるまって喜んでもらえたらという気持ちが大きかったです。しかし、いろいろな地方を旅して現地の人々と交流するうちに、その土地によって異なる文化やそこに根付く歴史などの魅力があることに気づきました。僕は香川県の出身で、地方で育ちましたが、地元にいる時には気づかなかった、地方の懐かしさや温かみなどの魅力にあらためて気づいたんですね。そこから、漠然と「地方の持つ魅力をたくさんの人に知ってほしい」と考えるようになりました。
ーそのような気付きから、「地方創生」をどのように活動に落とし込んでいったのでしょうか。
『旅する喫茶』の活動2年目に入った頃、僕たちが得意としていたSNSを通じて何かできないかと感じ始めたことがきっかけです。いろいろとこだわりを持ちながら運用してきたのですが、イベントや出張喫茶を重ねるごとに認知度が高まり、フォロワーも増えていきました。活動の反響も少しずつ大きくなっていくなかで、「SNSをうまく使えば、地方のPRに貢献できるのでは?」というのが頭の片隅にありました。次第に、活動が目に留まった自治体さんからイベントの依頼をいただくようになり、「僕たちの想いを叶える方法のひとつがこれだったんだ」と思いました。
ーそこから地方の観光PRもおこなうようになったのですね。具体的には、どのような取り組みを行ってきたのでしょうか?
先方からの依頼にご協力する形をとっていて、基本的には、お招きいただいた地方での出張喫茶を開店しています。特に印象に残っているのは、大分県豊後高田市と山口県長門市の俵山温泉です。
大分県豊後高田市は、別名「昭和の町」ともいわれる場所で、本当に昭和時代で時間が止まっているかのような、昔ながらの風景が残るノスタルジーな町です。この時は、豊後高田の「」のインスタグラム公式アカウントをフォローしてくださった方に、先着でHIGHTIDEさんとのコラボグッズ(オリジナルクリームソーダの巾着)をプレゼントするという企画をおこないました。雪が積もるほど寒い12月の開催にも関わらず、県外からも多くの方が足を運んでくださって、開店前から待ちの行列ができるほどでした。
山口県長門市の俵山温泉では、長門市地域おこし協力隊による“俵山を「アート×癒し」のまちへ”をコンセプトとする企画『TAWARAYAMAプロジェクト ぼくらのひみつ基地』の第2弾に参加させていただきました。具体的には、『旅する喫茶』の出張開店イベントに加え、俵山温泉の中心に位置する『ゲストハウス ねる山』さんとコラボした宿泊イベントをおこないました。食事に関しては、整理券を配り、指定時間までの待ち時間は、俵山温泉の町散策を楽しんでもらうプランを提供しました。宿泊に関しては、現地の食だけでなく体験も楽しんでもらえるよう、俵山温泉の散策や山菜採り、またクリームソーダの制作体験なども盛り込みました。
かなり実験的なイベントだったので、はじめはどうなることかと思っていましたが、宿泊の方はすぐにソールドアウトするなどの反響がありましたね。期間中は、県内・県外問わずたくさんの方がいらっしゃいましたし、普段の俵山温泉の町中では見かけないような若い人たちの姿もあったと、運営の方からお声をもらいました。お客さんはもちろん、現地の方々にも大変喜んでいただけましたし、観光客を呼ぶための理想的な導線が作れた、いいイベントだったと思います。
ーどちらもとても楽しそうですし、素敵なイベントですね。出張喫茶では、その土地の食材を使ってメニュー開発をしていると伺いました。
よく驚かれるのですが、実は何も考えずに現地に行って、その場で食材を見ながらメニューを決めているんです(笑)。というのも、「この地域では、〇〇という食材が特産だからカレーに使おう」と先に考えていても、実際に現地で調達できない、なんてこともあります。なので、現地に着いた日に、市場などをまわって、美味しそうだなと思った食材からメニューを考えるようにしていますね。
クリームソーダも同様で、現地の市場で売っているフルーツを見てからメニューを決めています。何が食べられるのかは、当日に行ってみないと分からないですし、“その時しか食べられない”というのも、お客さんの興味を引いているのかもしれません。
人気を集め続けるポイントは、徹底的に世界観を崩さないこだわり
実際のtsunekawaさんのポスト
ーSNSを得意とされているとのことでしたが、『旅する喫茶』のコンテンツにおいて、どのような要素が生活者に刺さっていると考えていますか?
今の時代、やはり「映え」という要素は大事ですよね。そこに惹かれて来店いただいたり、出張喫茶に来ていただいたり、コラボグッズを買ってくれたりする人も多いと思います。加えて、どこか心の奥にある感情へ訴えかけられるような
世界観の演出で言うと、メニューのネーミングも関係していると思います。たとえば、クリームソーダのメニュー名は「青空のクリームソーダ」「茜空のクリームソーダ」といったように、唯一無二の名前を付けたり。他にも、雨の日限定で販売している「雨日和」、デザートの「夜空のレアチーズケーキ」など、お店の雰囲気やメニュー、ネーミングをすべてひっくるめた世界観が、刺さっているのではないかと感じますね。
ーネーミングからは、ちょっとした遊び心も感じますね。来店者の客層としては、どういった方が多いのでしょうか?
若い女性がメインですが、カップルや中年の方もいらっしゃいます。男性客のほとんどは、カレー好きな人だと思います。利用シーンとして多いのは、推し活ですね。好きなアニメや漫画のキャラクターのぬいぐるみやアクリルスタンドと一緒に記念撮影をされている方をよく見ます。自分の推しのカラーに合ったクリームソーダを頼んで、撮影を楽しまれているのでしょう。これは、店舗でも出張開店先でも同じです。
ーありがとうございます。さいごに、今後の挑戦や展望を教えてください。
目標としては、『旅する喫茶』で全都道府県に出張開店をするこ
東京在住のフリーライター。 派遣社員として大手広告代理店(の制作部門)で大企業のPRに従事、国内大手電機メーカーでコンテンツディレクターなどを経験し現在に至る。美容、健康、介護、ライフスタイル、グルメ、企業PR誌、イベントレポート、求人、歴史、お笑いなど、幅広い分野で活動中。