先月、世界で初めて韓国が導入し、世間を騒がせた「5G」。5Gが導入されることによって、日本の動画マーケットもさらなる拡大が期待されていますが、8年も前から動画メディアの可能性に注目していた編集長は、いま何を考えているのでしょうか?今回は、連載企画『メディアのホンネ』第2弾として、テレビディレクターの経験を持ち、芸能動画メディア立ち上げの先駆者である『フィールドキャスター』編集長・田中政和さんに突撃インタビューしてきました!(聞き手・森奏子)
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YouTubeチャンネルから始まった動画メディア
立ち上げのきっかけは東日本大震災
-はじめに、フィールドキャスターについて教えてください。
スマホ視聴に特化した芸能動画ニュースメディアです。著名俳優が登壇する映画の舞台挨拶や、タレントの写真集発売イベントなどを、撮影・編集を行って公開しています。フィールドキャスターは、もともと2011年8月に開設したYouTubeチャンネルからスタートしていて、現在では弊社YouTubeチャンネルの合計再生回数は2億回を超え、チャンネル登録者も約13万人になりました。幅広い芸能人を取り上げているので、チャンネル登録者の属性に偏りはあまりないです。
-動画メディアを立ち上げたきっかけは何だったのですか?
動画メディア立ち上げのきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災にあります。もともと自分は、TBSの夕方ニュース番組のディレクターを担当していたのですが、震災から2日経った夕方ニュースの放送後に、ある生中継動画配信サービスのお手伝いとして初めて配信現場を見て、衝撃を受けたんです。
スタジオ出演者は6人もいるのに、配信スタッフはたったの3人ほど。これほど少人数なのに、震災被害を受けた現地の人に電話で状況を聞いたり、各局のテレビ番組で放送されている情報を伝えたりと、インターネットを使って価値のある配信をしていることに大変驚きました。この体験がきっかけで、地上波でなくても価値のあるニュースを提供できること、そしてウェブ専門の動画ニュースメディアへの可能性を感じました。
初めてYouTube上昇ランキング1位を獲得したのは、壇蜜が〇〇した動画?!
-東日本大震災の時から、ウェブ動画の配信が行われていたんですね。2011年はまだウェブ動画があまり普及していなかった頃だと思うのですが、何か苦労したことはありますか?
初めの頃は、平日はTBSの夕方ニュース番組の制作、土日にフィールドキャスターの取材をしていました。ただ、フィールドキャスターとしての公開先は、YouTubeのみ…。ユーチューバーという言葉もまだ登場していない時ですから、TBSのディレクターとして取材する時と同じ機材で撮影・編集し、原稿を書くこともできるのに、イベント関係者やPR会社から信用してもらえず、プレスリリースをもらうことすらできませんでした。ただ、中には写真集発売イベントやアイドルイベントの告知を、事前にHPでしてくれる書店などもあったので、アポ無しで現場に行って、直接交渉をして取材会場に入れてもらっていたんです。
そんな中、2013年3月に、タレントの壇蜜さんが、自身の写真集「蜜パンティ」の発売イベントで、突然カメラに向けてセクシーな格好をしたことがありました。それを編集した動画をYouTubeにアップしたところ、その日1番再生された動画として急上昇ランキング1位を獲得したんです(笑)。この動画がきっかけで、いろんなポータルサイトから「ニュース配信をしないか」という依頼がきはじめ、配信先が増えたことで著名芸能人も取材することができるようになりました。フィールドキャスターの成長は、イベント中に壇蜜さんがセクシーな格好をしてくれたおかげなんです(笑)。
メディアバリューのあるPRイベントとは?
スマホ撮影OKなPRイベントはありがたい
-まさかそんなきっかけで広まったとは驚きです(笑)。でも壇蜜さんのようにサービス精神旺盛なタレントさんだと、取材側としても撮りがいがありますよね。田中さんにとって、どのようなPRイベントにバリューを感じますか?
バリューのあるPRイベントは、タレントの顔アップ撮影のNGがないことや、イベントのスマホ撮影を禁じていないイベントですかね。ウェブ動画のメディアとして、テレビの時よりもタレントの顔をアップを多く撮ることを意識しているので、顔アップNGはできるだけなくしてほしいです。
スマホの撮影に関しては、まだまだスマホ撮影を許可しているPRイベントは少ないですが、スマホで動画撮影をして、すぐにTwitterに動画をアップしたいこともあるので、これからもっと増えてほしいと思います。
タレント力がなくても取材したくなるPRイベントや動画とは?
-ウェブメディアの強みは、何といってもそのスピード感ですもんね。フィールドキャスターは芸能動画メディアですが、著名なタレントを起用していない場合でも取材したくなるようなPRイベントやウェブ動画はありますか?
著名なタレントが出ていなくても、タイトルの立てやすい動画が撮れるPRイベントや、これまでのウェブ動画の常識を覆すような動画は取り上げたくなります。1年半くらい前から、振り切った動画や最新技術を使った動画が増えてきていて、最近ではマイクロドローンで撮影された『オンナノコズ』という動画が面白いと思いました。
(新しい動画表現として注目を集めている『オンナノコズ』)
PRイベントに関しては、中途半端に地上波に出ている人よりも、ティックトッカーやインスタグラマーなど、ウェブ上で活躍している人たちが登壇するほうが動画の再生回数が伸びることが多いので、そういう人を取り上げたいです。
プレスリリースよりも重要なのはずばり“メール”!
プレスリリースを開かなくてもメールで内容がわかることが重要
-旬なタレントを起用できなくても、ニュースになるチャンスは十分にあるんですね。田中さんのもとにも毎日たくさんのプレスリリースやPRイベントの招待状が届くと思いますが、どのようなプレスリリースが届くと取材したくなりますか?
弊社にFAXは無いので、メールで受け取ることを前提に話します。弊社に届くプレスリリースの案内メールはすべて読んでいますが、実はプレスリリースではなく、プレスリリースを添付しているメールが勝負です。大量のリリースをダウンロードして読むのはかなり時間がかかるので、メールの冒頭に、リリース内容の3行サマリーを記載してくれていたり、メールの本文中に詳細を書いてくれていたりすると、メディア側への配慮を感じます。
その他にも、フィールドキャスターは動画メディアなので、動画素材付きで送ってくれるメールや、イベントの事後レポートと共に、オフィシャル映像を送ってくれるメールは、そのままニュースとして取り上げやすいです。
上級者は“ニュースタイトルを5つ考えて送ってくれる人”
-「こんなメールが嬉しい」っていうのはありますか?
これをやってくれるPRマンはまだ少ないですが、ウェブメディア向けに『ニュースタイトル』を5つくらい考えて記載してくれているメールは、非常にありがたいです。またメイキング映像などは、リリースの内容を記事に反映する部分が多いので、コピペしやすいようにPDFだけでなくWordファイルなども添付してもらえると、とても助かります。
来たる5G時代の動画メディアの可能性
接触媒体が変わっても視聴者が好むコンテンツは変わらない
-ここ最近で一気に注目度の高まっているウェブ動画ですが、田中さんはウェブ動画の未来についてどう考えていますか?
自分が仕事をしている楽しさは、テレビからウェブ動画へ視聴習慣がどう変わっていくか、間近で見られることです。映画からテレビへ、映像コンテンツの視聴環境が変わっていったのと同じように、テレビからウェブ動画へ、どのように視聴環境が変化していくか、現場でリアルに感じたいと思っています。
近年テレビ離れが叫ばれていますが、テレビを見る機会が減るだけで、テレビで放送されるようなコンテンツは好まれ続けると思っています。接触媒体がテレビからウェブに変わったとしても、ドラマやバラエティは観られていますし、反対にそれまでテレビでニュースを見ていなかった人が、ウェブに変わったからと言って突然ニュース動画を見るようになるということも、あまり考えられませんから。ウェブ動画はテレビの延長線上にあって、家で見ているものを外でも見るようになると思うので、これからもエンタメ動画は求められるのではないかなと思います。
動画飽和の時代だからこそバズりそうな動画や企画が必要
-最近テレビで、ウェブ上で話題になっているものが取り上げられているのを目にする機会も増えました。これはウェブの価値が向上した証拠ですね。
昔はウェブ上で話題になっても「テレビで伝えることではない」と、ウェブニュースは無視される傾向にありましたが、ここ2~3年でその価値は大きく上がりました。今年から来年にかけて、インターネットがさらに高速化する5Gの時代が到来します。動画メディアとしては、追い風が吹いてくる状況です。どこでも安く動画が見られる時代になるので、これからももっと動画が増えていくことが予測されます。タクシー内やデパートのショーウィンドウなど、デジタルサイネージが大きく増えることが予想され、動画が見られるシーンや、情報との関わり方に変化が起こるかなと。
それに伴って、今後ライバルとなる動画メディアも増えていくと思うので、ほかの人たちが使っていないソフトや、その時代に合わせたプラットフォームを使って、速報性とオリジナリティを大事にしていきたいです。だからこそ、再生されそうな画が撮れるイベントを企画したり、バズりそうな動画を送ってくれたりする方と一緒に仕事をしたいと思います。
いまのPRマンに求めるのは“ITリテラシー力”
-そのためには、PRイベントもスマホ撮影をOKにするなど、時代に対応していかなければなりませんね。いま田中さんがPR会社やPRマンに求めることはありますか?
ITリテラシーを高めてほしいですね。PRイベントのスマホ撮影もそうですし、せっかく撮影したオフィシャル映像も生かしきれていないケースが多いと思います。イベントの2日後とかでもいいので、動画メディアだけにでも送れば、掲載してくれるメディアもあるのではないでしょうか。
あと、イベント後に事後リポートが送られてくるのですが、そのメールに「オフィシャル素材」とだけ書いてあって、それが「スチール素材」なのか、「動画素材」なのか、ダウンロードしてみるまでわからないことが多いです。動画は容量が大きく時間もかかるので、ファイル名には特に気を使っていただきたいです。また、動画のオフィシャル素材がある時は、ぜひ事後リポートにダウンロードアドレスを記載していただき、イベントに行かなくても紹介できるようにしていただけるとありがたいです。よろしくお願いします(笑)。
またPRマンとはフランクに関係を築けたらと思いますので、お仕事でご一緒した方とはぜひ飲みに行きたいです。最近、仲が良くなったPR会社の方から、メディアに配信する前のリリースを添削してほしいという依頼が増えてきています。そこで、メディアが興味を引きそうなリリースの小見出しなどを考えてあげていますよ。ただ、そこまで協力をしてあげた内容は、フィールドキャスターとしても紹介したくなってしまいます。もしかして、これはPR会社の「リリース添削してください」戦法じゃないかと時々勘繰っています(笑)
突撃インタビューを終えて
まだYouTubeが怪しいものとして存在していた時代から、動画メディアの可能性に目を付け、フィールドキャスターを立ち上げていた田中さん。その立ち上げのきっかけや、動画メディアとしての地位を確立した出来事は意外なものでしたが、テレビディレクターとしての経験はもちろん、常にトレンドにアンテナを張り、新たなことにもどんどん挑戦する田中編集長の姿勢は、目まぐるしく変化するIT環境の中で輝き続ける最大の武器であるように感じました。
また芸能動画メディアということもあって、著名タレントが出演するCMや映画の予告編も重要なコンテンツとなるため、リリースは1通1通大事に読まれているらしく、これまで何万枚ものプレスリリースに目を通している編集長からのアドバイスは、大変貴重で参考になるものばかりでした。まだ実践していないものがあった方は、さっそく今日送るメールから実践してみても良いかもしれませんね。
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1995年生まれ大阪育ち。2018年同志社大学卒業後、株式会社マテリアルに新卒入社。1年目でウェブメディア『PR GENIC』を立ち上げ、記事の執筆と編集全般や、セミナーの企画など、コンテンツ作りを幅広く担当。半年間ハウスメーカーのマーケティング部への出向も経験。現在はオープンイノベーション支援に従事しつつ、外部アドバイザーとして編集のサポートを行っている。