メディアと企業は「Twitter」を活用できているのか?データサイエンスの視点で捉えるSNS上の“真実”

毎日4,500万人ものユーザーが利用しているTwitter。Twitterを起点に情報発信されたものが、ユーザーの行動に影響を及ぼすことは少なくなく、今やTwitterは、どの企業にとっても避けて通れない存在となっています。しかし、Twitterで発信される情報の中には、真実として価値あるものもあれば、個人的な考えに偏ったもの、また大きなバズを生むものから炎上を巻き起こすものまで、実に様々です。そのため、Twitterをビジネスに活用する立場の人々は、発信内容について全てそのまま受け止めるのではなく、情報の真意を見定め、慎重に扱う必要があります。

そんな中、「第3の通信社」と呼ばれるJX通信社はSNSに着目し、”どこよりも早い報道”を実現させました。今回は、そんなJX通信社でマーケティング・マネージャーを務め、データサイエンティストとして活動されている松本健太郎さんに、メディアがSNSと共存する方法と、企業のマーケティング活動にTwitterを活用する方法について伺いました。

“個人のニーズに合わせた情報配信”はもう古い?

「テクノロジーで『今起きていること』を明らかにする報道機関」をミッションに、2008年に設立されたJX通信社。報道機関導入数No.1のAI緊急情報サービス『FASTALERT』や、ニュース速報・地震速報・災害速報を網羅したニュース速報アプリ『NewsDigest』の開発をはじめ、他のメディアとは一線を画した「第3の通信社」として、今注目を集めています。

報道ベンチャーであり、同時にテックベンチャーでもあるJX通信社は、どのようにして記者を持たない「仮想通信社」のモデルを確立させ、読者にとって価値のある情報を配信しているのでしょうか。

AIが判断する、生活者にとって”価値ある”情報とは

-JX通信社が定義する”価値ある情報”について教えてください。

メディアが報道する情報は、大きく「フロー型」と「ストック型」の2種類にわかれます。前者の「フロー型」は、“今”こそ知りたい情報のことであり、賞味期限が短く、すぐに価値が劣化してしまいます。代表例が「ニュース速報」です。反対に「ストック型」は、ずっと役に立ち続ける情報であるため、賞味期限が長く、価値も劣化しにくいと言えます。代表例が「調査報道」です。

これら2種類のうち、我々が扱っているのは賞味期限の短い「フロー型」の情報です。速報は非常に価値が高い一方で、後から読む速報は、価値がかなり落ちる性質を持っています。そのため、“どこよりも早い速報”を最大の価値として捉え、それを実現するためのテクノロジー活用を行っています。

-そのスピード感を担保しつつ、『NewsDigest』ではAIが“読者にとって価値ある情報”を自動で判断しているとのことですが、読者にはどのようなニーズがあると仮定されているのですか?

人間の中には、善悪両方の心理があります。この善のニーズのひとつとしてあげられるのが、「生存欲求」です。今回の新型コロナウイルス流行もそうですが、台風などの自然災害が起こった際に、人の「生存欲求」は高まります。そのため、この生存欲求に対しては、“スピード感”が最も重要な価値になってくると捉えています。

また、反対に悪の心理に反応しやすいのが、「ゴシップ」です。芸能人の逮捕報道などはやはりPVが伸びる傾向があるので、データから見てもそこにニーズがあることがわかります。

しかし、正直なところ“読者にとって価値ある情報”の定義は、今もまだ暗中模索している状態です。一時期、AIが自動で読者の興味関心に合わせて、最適なニュースを選定してくれる「レコメンド機能」が流行りましたよね。これまでは“個人のニーズに合わせた情報を配信する”ことが理想とされてきましたが、最近ではもうそれが古くなってしまっています。メディアはさらに次のステップに進まなければならないでしょう。

マスコミに敵対心を持ってしまう生活者の心理

-なぜ“個人のニーズに合わせた情報配信”はもう古いのでしょうか?

実際に何が起こっているかと言うと、現在Yahoo!トピックスのトップには8本の記事が掲載されていますが、マーケティングリサーチをした際に「トップトピックスの選定が偏っている」というコメントを見つけたんですね。

これは、認知心理学で言う「敵対的メディア認知」が原因で、“常にメディアは、自分が信じているものと反対のことを報道している”と思い込む心理状態によって発せられるものです。読者がファクトをファクトとして受け入れられなくなり、Yahoo!ニュースはあくまでコンテンツプロバイダーでしかないのに、「情報の価値判断が偏っている」と見られていました。

最近では、共同通信社が発表した世論調査で、「安倍内閣の支持率が上がった」のと同時に、「石破茂氏が支持率1位である」という報道が行われました。その結果、「安倍内閣支持率は事実」「石破が1位は嘘」というコメントがSNS上で散見されました。このように、報道に対して「それはフェイクだ」「情報操作だ」という意見が通用してしまっているのが、SNSの現状です。

-生活者の「敵対的メディア認知」は、以前から存在していたのですか?それとも最近になってその傾向が強まってきたのでしょうか。

SNSが普及したことで、自分中心に物事を考え、自分の意見を補完できる人が急速に増えました。なぜなら、自分と同じ考えを持った人と簡単に繋がることができ、タイムラインには自分と似通った趣味嗜好を持つ人々が集まっているから。自分の信じている情報しか信じない傾向、つまり「信念バイアス」自体は昔から存在しますが、特にSNSは、自分の信じている情報だけを最も手っ取り早く集められる手段です。そのため、このように自分の意見に自信を持ってしまう人が急増しているのだと思います。

そもそも、メディアの報道内容に対して、“フェイクなのかファクトなのか”っていう見方が間違っています。正しい見方は「ファクトか、ファクトじゃないか」です。ファクト以外は全て記者のオピニオンなので、それをどう思うかは自由。報道内容の“事実”を見極めた上で、それがファクト(=真実)なのか、それとも誰かのオピニオン(=意見)なのかという視点を持つことが重要です。

また、見る側も報道する側も人間なので、完全に偏っていない人など存在しません。読者の中で「偏っている」と認識されてしまわないためにも、メディアは対策を打っていかなければならないでしょう。

SNSに混在する事実と意見を見分けられるか

情報流通構造の起点となるSNS

-「速報」を重視する観点から、Twitterのタイムラインからもニュースを吸い上げていらっしゃると思うのですが、Twitterに投稿された個人の投稿がニュースになるまでの流れを教えていただけますか。

先月、福島県の郡山市で起こった飲食店のガス爆発事件で、いちばん最初に速報を流したのはJX通信社でした。なぜそれが実現できたかと言うと、爆発に関する投稿をTwitterでいち早く検知したからです。そして、その情報や画像が嘘ではないという裏付けを行うために、他に同様の投稿がないかを確認し、そこで複数人の投稿から検知できて「嘘ではない」ということがわかったので、ニュース速報として報道しました。

このようにSNSを活用できているメディアは、まだまだ少ないと感じています。しかし、情報流通構造はますます進化していて、現在は多くの情報がSNSを起点に回っています。そのため、今メディアとして一番強いのはSNSと言っても過言ではありません。このようなフローが出来上がっている中で、我々はそんな”情報発生源”に迫ろうとしているのです。だからこそ、その情報が誤報となってしまわないようにも、個人の発言に対して裏取りを行うだけでなく、常に「ファクト」と「オピニオン」の区分を重要視しています。

“ファクト”と“オピニオン“は混ぜるなキケン

-個人の発信を「ファクト」と「オピニオン」に区別する際に、松本さんご自身が意識されていることはありますか?

実際に僕がデータ分析を行う際に気を付けていることが、「ファクト」と「オピニオン」は全く違うということです。データは、「ファクト」を表している場合もあれば、「オピニオン」の顔をしていることもあります。個人の意見を全て「ファクト」だと真に受けて分析すると、的外れなことになってしまいます。これはデジタルマーケティングにおいても同じ。仮説立てをするときに、「ファクト」と「オピニオン」が混同すると、考察や仮説内容がおかしくなってしまうのです。

例えば、ある飲食店に対して「あそこの店舗の接客が悪かった」というツイートがあったとします。これはあくまで個人的な意見であり、ひとつのオピニオンでしかありません。大切なのはここからの深堀りで、その人がどういう人物なのか、それはどのようなシーンで起こった出来事なのか、実際に客と店員の間でどのようなやり取りがあったのか…これらの「ファクト」と、何をきっかけにそう感じたのかという「トリガー」を探っていく必要があります。ここまで行ってやっと、SNS上で「ファクト」を拾い上げることができるのです。SNSでどこまでそれを収集できるのかが、難しい部分ではあるのですが、この「ファクト探し」こそが、企業のマーケティング活動でも最も重要になってくると思います。

そのため、まずTwitterのタイムラインは、ほとんど「個人の意見」であふれているということを認識しておかなければなりません。それを理解した上で、個人のツイート=オピニオンの中から、どれだけファクトを導き出せるかが大切です。

企業が情報提供すべき先はもうメディアではない

“自社を知ってもらう努力”を怠るべからず

-ここからは、企業のマーケティング活動についてお話を伺いたいと思います。いま情報流通構造の中で「SNS」が起点になっているとおっしゃっていましたが、企業はこのSNSをどのように活用できることが望ましいのでしょうか。

まずは、どの会社ももっとSNSをやるべきだと思います。現代においては、SNSをやることのデメリットよりも、やらないことのデメリットのほうが大きいです。

情報をいかにして届けるかという観点で言うと、今までの“企業がメディアに対してニュースリリースを発信し、取り上げてもらうのを待つ”というやり方は、もう終わっていると思います。これまで述べてきたように、SNS上にも貴重な情報が溢れているため、ニュースリリースだけで報道してもらうことはもはや難しいです。だから、メディアに報道してもらって初めて生活者に情報を届けるのではなく、メディアの人に知ってもらうことは当然大事ですが、それ以上にもっと企業自らが知ってもらう努力をするべきだと思います。その努力というのは、決して広告を買うことだけではなくて、企業自体がTwitterなどを使ってコミュニケーションするとか、ユーザー起点で発信してもらえるようなキャンペーンを企画するとか、そういうことではないでしょうか。

例えば、Twitterでフォロワーが2,000人ついているだけで、ひとつ投稿するたびにそれだけの消費者に情報をリーチさせることができますし、誰かが「使ってみた」という投稿をしてくれていたら、それに対してリアクションすることもできますよね。なんだそんなことか、と思われるかもしれませんが、それすらできていない企業がまだまだ多いです。

また、企業の方はよく、Twitterアカウントを作る目的として、「SNSはユーザーにファンになってもらうために運用する」と言いますが、そもそも特定商材のファンになってもらうことってすごくハードルが高いんですよ。マーケティングの現場では、商品を使ってくれるユーザーを“ファン扱い”していることが多いですが、実際は“なんとなく”や“暇つぶし”で使っているだけだったりもします。だからこそ、まずは知ってもらう努力、使い続けてもらう努力が必要です。

人は非論理的に動く生き物である

-SNSを活用した上で、どのようなことを意識してコミュニケーションすべきだと思いますか?

人は基本的に理屈では動きません。人は論理的ばかりではなく、非論理的に動くときもあります。特にBtoCのマーケティングでは、訴求内容が論理的になればなるほど、購買行動につなげることは難しくなるのではないでしょうか。人々の「理性」ではなく「感受性」に訴えかける、なんとなく動きたくなる、そんな説得力のほうが大切です。

例えば、数十年前に、省エネルックとして半袖のスーツジャケットが登場しました。しかし、物理的には涼しくても、実際に着るのにはハードルが高かったことから、普及しないまま終了。その後、当時環境大臣だった小池百合子氏が「ノーネクタイ」を提唱したことによって、クールビズが一気に普及することとなりました。これはまさに、合理性だけでは人間が動かなかった例です。

また、極端な話ですが、「GUCCIのカバンが好きです」という人に対して、別のカバンメーカーが機能性を訴求したアピールを行ったとしても、そのカバンを購入する人はほとんどいないですよね。なぜなら、彼らは“GUCCIを買っている自分”も買っているからです。このような情報伝達の仕方では効果が得られないので、まずは購買者となりうる“人”をしっかり見定める必要があります。その上で、自分たちが伝えたいストーリーばかりではなく、物を買ってくれる人のストーリー起点で考えること。そして、人をもっと洞察し、商品を使っていないときの行動まで想像を膨らませることが大切です。

“ユーザー”ではなく“ヒト”を見よ

-さいごに、企業のマーケティングやPRに携わる人々に対して、一言メッセージをお願い致します。

数字ではなく、人を見よ。これが非常に大切なことだと思います。個人でも集団でも、解像度高く人を見ること。人を見ることは、つまりファクトを見ることに繋がります。

たとえば『NewsDigest』のアプリで、「コロナダイジェスト」を見ているユーザーがいたとします。その人はアプリを見ていない時にどんな生活をしているのか、その人の属性や普段のライフスタイル(働き方、シーン、子供の有無、ライフスタイル、等)によって、機能を使うシーンは大きく異なってきますよね。

だから、マーケティングでもコミュニケーション活動でも、ターゲットを「ユーザー」や「消費者」としてではなく、ひとりの「人」として見ること。その商品を使っている瞬間をピンポイントで見るのではなく、使っていないときにどんな生活をしているのか、そこまで思考を巡らせることを意識してみると良いのではないでしょうか。


松本健太郎
1984年生まれ。マーケター。データサイエンティスト。
2007年に新卒で効果測定ツール「ADEBiS」で知られるイルグルムに新卒入社。アドテク、デジタルマーケティング業界に長らく従事した後、2018年にインサイト発掘専門のコンサルティングファーム「デコム」にR&D担当として入社。複数の新規事業立ち上げの後、2020年に「NewsDigest」「FASTALERT」で知られるJX通信社にマーケティング担当として入社。
本業の傍ら、日経ビジネスオンライン、ITmedia、週刊東洋経済、AgendaNoteなど各種メディアにAI・データサイエンス・マーケティングに関する連載を持つ。テレビ・ラジオ番組の企画出演も多数。著書に『誤解だらけの人工知能』『なぜ「つい買ってしまう」のか』(光文社新書) 『データサイエンス「超」入門』『人は悪魔に熱狂する』(毎日新聞出版)『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)など多数。

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