「面白くて役に立つ商品を社会に提供する」をミッションに掲げ、ユニークな家電製品を次々と世に送り出すサンコー株式会社。充電式で首回りを冷やせる「ネッククーラー」シリーズは、累計120万台を売り上げる大ヒット商品となっており、同製品をはじめ、サンコーの家電製品はテレビで1,600回以上、そのほかメディアでも年間で数百ちかい取材を獲得するなど、驚異的なメディア掲載数を誇っています。
この圧倒的な実績を支えているのが、2017年に広報部を立ち上げた、「伝わるの本質」の著者である﨏晋介さんです。「ekky」の愛称で親しまれる彼は、自らをキャラクター化し、テレビ出演200回以上を実現。独自の手法で話題を創出し、地道な活動を積み重ねながら、メディアに寄り添った情報発信を続けることで、同社の成長に寄与しています。今回は、サンコーの広報活動の舞台裏や、メディアとの関係構築のポイント、そして今後の展望について詳しく伺いました。
サンコー株式会社 執行役員 広報部長 﨏 晋介/ekky(エッキー) 大学を卒業後、自動車ディーラー、輸入家電メーカー、韓国資本の雑貨商社を経て、2015年に営業としてサンコーへと入社。前職での経験を活かしながら広報業務も担う中で、2017年に広報部を設立し、ひとり広報として奔走。メディア視点での企画提案力を武器に、自分自身を「ekky」というキャラクターに仕立て上げ、さまざまなメディアにも出演中。自社製品のテレビ紹介実績は1,600回、自身のテレビ出演実績は200回を超える。『広報ekky流「伝わる」の本質』の著者。 |
年間およそ200件のメディア露出を実現するサンコー広報・ekkyさん
生活者の心を掴むアイデア家電を多数創出。サンコー株式会社とは
ーはじめに、サンコーの事業内容について教えてください。
当社は、2003年創業の家電メーカーです。「面白くて役に立つ商品を社会に提供する」というミッションのもと、さまざまな家電商品を自社で企画・開発し、個人から法人まで幅広いお客さまにお届けしています。実は、2015年頃までは、パソコン周辺機器や雑貨を中心に販売していましたが、2016年に大きく方針を転換。コンセントから電源供給がおこなわれる、いわゆる「家電」の分野に進出し、自社開発もスタートしました。その結果、消費者向け家電製品の売上が全体の8割を占めるほど成長し、多くの方に当社のアイデア家電を愛用していただいています。
ー代表的な商品について教えていただけますか?
2015年に開発し、提供を開始した「ネッククーラー」シリーズは、当社を代表する大ヒット商品です。細やかな改良を重ね、これまでに累計120万台を販売し、『日経トレンディ』などの著名なメディアにも取り上げられました。
ーサンコーの製品は、メディアでよく見かける印象があります。
ありがとうございます。今年はメディアへの露出が少し減ってしまったものの、それでも毎月平均で15件ほどは、テレビ・雑誌・ラジオ・新聞で取り上げていただいています。今年に入ってから今日まで※のメディア露出数は、テレビが111回、雑誌が51回、ラジオが25回、新聞が16回にのぼります。こうして振り返ると、今年もたくさんのメディアに商品を紹介していただき、本当にありがたく感じています。
※2024年10月24日時点
自身をキャラクター化!企業成長にも寄与するメディア露出の在り方とは
ーekkyさんご自身も、よくメディアに出演されていますよね。
そうなんです。苗字の﨏にちなんで、耳に残りやすい「ekky」という愛称で自分をキャラクター化し、これまでさまざまなテレビ番組に200回以上出演させていただきました。最近では、BSテレ東『NIKKEI NEWS NEXT』でテレビ東京のスタジオからコメンテーターとして出演させていただいたり、豊洲レインボータウンFMの毎月第4金曜日10時半から放送される『Crystal ism 伝言板168』にて、レギュラーコーナーを持って活動したりしています。また、メディア出演がきっかけで、ドラマや映画、ミュージックビデオ、CMなどにも出演させていただいたことがあります。
ー自分自身をキャラクター化してメディアに出るという活動は、いつ頃から、どのような理由で始まったのでしょうか。
自分をキャラクター化してメディアに出るスタイルは、2018年に『タモリ倶楽部』へ出演したことをきっかけに、少しずつ形作られていきました。当初は、営業部らしいシンプルな服装でしたが、より目立つ見た目を意識して、コーポレートカラーであるオレンジのシャツや蝶ネクタイ、デニムのオーバーオールを取り入れるようになりました。そして2021年、TBSの『グッとラック!』での定期出演を通じて「ekkyポーズ」を考案し、印象に残る挨拶を追求しました。このようにして、「ekky」というオリジナルキャラクターが完成したのです。
ーekkyさんのメディア出演も含めて、多数のメディア露出を獲得した効果は、どのように感じていますか?
自社製品の売上が伸び、会社の業績に良い影響があったのはもちろんのこと、採用活動でも応募が増えるという副次的な効果が生まれました。それこそ、『タモリ俱楽部』で当社の商品企画の様子を特集していただいた際には、放送後にエンジニアやプロダクトデザイナーの方から複数の応募があり、当社とマッチした方を採用することができたんです。その結果、これまでは自社だけでは開発が難しかった製品の実現が可能となり、「ネッククーラー」シリーズの大幅な改良にも取り組むことができました。さまざまなメディアへの露出は、当社の成長と拡大に大きく寄与していると言えますね。
圧倒的な成果の裏側。いかにメディアの関心を引いているのか?
自作資料を約250の制作会社に送付!ひとり広報で築き上げたメディアとの信頼関係
ーサンコーの広報部は、なぜそれほどの成果を出せるのでしょうか。
2017年に僕が広報部を立ち上げて以来、地道な活動を積み重ねてきたからかもしれません。実は、当社はずっと「ひとり広報」で広報業務を回してきた会社です。2020年頃に、SNS担当のメンバーが1名在籍していた時期もありましたが、プレスリリースの作成や配信、メディアアプローチ、メディア対応など、社内外のコミュニケーション業務は、基本的にすべて僕ひとりで手がけてきました。そのため、広報部としては、予算もほとんど投じていません。社内各所との関係を深めつつ、メディアにいま“旬”な情報をお届けする。これらに注力してきたことで、現在のようなメディア露出が実現しているのだと思います。
ーこれだけ多くのメディアに取り上げられるということは、メディアとの関係の築き方にも何かポイントがありそうです。2017年に広報部が設立された当初、どのようなことから着手したのでしょうか。
プレスリリースを書くだけでなく、テレビ番組に取り上げてもらうための仕掛けづくりとして、時節ネタをまとめた資料を自作し、番組制作会社に送付していました。具体的には、Wordで毎月の記念日やイベントを一覧にし、各イベントに関連する商品を、他社のものも含めて画像入りで客観的に記載していきました。そうして作成した数十ページにわたる資料を、1社につき代表用と現場用の2部印刷し、約250社の制作会社に送っていました。
すぐには反応がありませんでしたが、半年から1年ほど経って、資料を送付した制作会社から少しずつ連絡をいただくようになりました。当時からお付き合いが続いている会社もあり、この取り組みは我ながら一定の成功を収めたのではないかと自負しています。
ーメディアにアプローチする上で、もっとも大切にしていることはありますか?
相手の立場に立ち、「この人とまた仕事をしたい」と思ってもらえるような動き方をすることでしょうか。たとえば、メディア関係者は非常に多忙なので、こちらからの連絡は基本的にメールのみでおこない、電話や訪問は避けています。どちらも相手の時間を奪う行為ですし、興味を持っていただければ向こうから連絡が来るため、「いかにメディアの関心を引くか」を考えることに力を注いでいます。
また、プレスリリースを書く際も、文字ばかりで読む気を失わせるものにはしません。メディアの方が興味を持ちそうなキーワードをしっかりと検討し、それを散りばめながら、商品の魅力が伝わる写真を効果的に配置して、「取り上げたい」と思っていただけるよう工夫しています。
さらに、そもそもメディアに情報を提供する際には、「その媒体の視聴者や読者が喜ぶネタは何か」を吟味してお送りするようにしています。メディアが自社を取材してくださるのは、媒体を通じて商品や会社そのものを紹介したいのではなく、世の中に伝えたいことがあり、それをもとに視聴者や読者を喜ばせたり、示唆を与えたりしたいからです。その目的を踏まえ、ざっくりでも良いので、メディアの特性を研究し、その番組や雑誌、新聞が求めている情報を届けることが重要だと感じています。
企画提案のコツは“相手の発想が入り込む余白”を残すこと
ーekkyさんからメディアに対して企画提案をすることはありますか?
あります。企画提案は、メディアと関係を築く上でもっとも効果的な方法だと思っています。企画書が添付されたメールは、どんなに忙しい方でも、後から読んでもらえる確率が高くなるのでおすすめです。たとえ採用されなかったとしても、メディアの方はアイデアを提供した人のことを覚えてくれることが多く、のちに取材依頼が来ることもあります。
企画といっても、難しく考える必要はありません。業界の動向や、製品に関連したトレンドを事実に基づいてまとめ、記事や番組の切り口として提供するだけです。たとえば、今年の梅雨時には、「2023年の折り畳み傘の輸入量が過去最高」というデータをもとに、増加の背景をいくつか考察し、自社製品を最後に小さく紹介したところ、いくつかのメディアから反響がありました。一般的にあまり知られていないような事実を掘り起こし、その背景を自社ならではの視点で簡単にまとめるだけでも、メディアにとっては十分に企画のタネとして活用してもらえます。
大切なのは、作り込みすぎず、相手の発想が入り込む余地を大きく残しておくことです。番組の構成案や記事内容の詳細まで自分で決めるのではなく、「こういう事実があって、今トレンドのようですよ」と耳寄りな情報を提供することが、メディアと良好な関係を築くポイントだと思います。
ーそうした企画提案をおこなうためには、最新情報の把握が大切ですね。ekkyさんは、普段どのように情報収集をおこなっていますか?
新聞は欠かさずチェックしています。あとは、パソコンの画面と2台のモニターを使い分け、最新情報を即時に把握できるよう工夫しています。メイン画面では仕事用の画面を開き、サブモニターにはメールアプリとXのトレンド画面を常に表示させておきます。こうすることで、メールにすぐ返事ができるのはもちろん、一日に何度も更新されるXのトレンドも見逃さずにチェックできます。
ーちなみに、自社から送った情報に対して、メディアから反応をもらえる確率は、肌感覚でどれくらいですか?
1割あるかどうか、というところでしょうか。これまでに1,000件以上のメディアアプローチをおこないましたが、取材につながったのは約100件です。ただ、季節ネタ、特に天候が絡むネタは、取材を急いでいることが多いので、反響が大きいですね。当社でも気温が大きく変わる時期や熱中症対策など、季節ごとの体調管理に関連する話題については、タイムリーな情報提供を心がけ、取材先として選んでいただけるよう意識しています。
社内において広報の価値を示すためには
広報体制構築の第一歩!まずやるべき2つのアクション
ーekkyさんは、広報部の立ち上げから多岐にわたる活動までをお一人で担当されていますが、自社に広報体制を構築するために、まずやるべきことを教えてください。
大きく2つあると思います。1つ目は、経営陣が「広報に何を期待しているのか」を把握することです。広報活動を広告やプロモーションと同じものだと考えている方も多いため、自分の仕事の前提となる「会社から求められている広報活動とは何か」の認識をすり合わせておくことが必要です。
2つ目は、社内の各部署やメンバーに、広報活動への理解を得ることです。メディアに取材してもらう際、他部署の協力が必要になるケースが多くあります。関係部署と円滑に仕事が進むよう、日頃から社内メンバーと積極的にコミュニケーションをとり、広報が担う役割を理解してもらうことが大切です。
ー社内での基盤づくりが重要になってくるのですね。加えて、広報は目標設定が難しい部門の1つかと思いますが、サンコーではどのようにKPIを設定していますか?
KPIとしては、メディア露出数を1つの指標にしていますが、当社が特に大切にしているのは「いかに会社を特集して、深く取材をしてもらえるか」という点です。たとえば、『ガイアの夜明け』のような番組で単独取材をしてもらったり、ニュース番組で10分枠の特集を組んでもらったり、日経MJのような専門紙で一面に掲載してもらえたりするような活動を意識しています。
ただ、KPIはそれほど厳密に管理していません。前年との比較を振り返り、翌年のKPI策定に活かすことはありますが、やはり、メディア露出はタイミングにも左右されるため、掲載数が目標に届かなくても気にしすぎることはないと考えています。その他のKPIでいうと、今年はラジオ番組へのアプローチも掲げていました。昨年の媒体種別ごとの掲載数をチェックしたところ、ラジオ番組がまだ開拓できていなかったんですね。このように、昨年の活動や、広報としてアプローチが不足している領域に対して、柔軟にKPIを設定していくことも、ひとつの方法かと思います。
企業の成長を支える広報。会社の垣根を超えた連携で新たな可能性が生まれる
ー広報部の今後の展望をお聞かせください。
今後は、自社の広報部の枠を超えた取り組みを強化していくつもりです。そのひとつとして、グループ会社間の広報連携を考えています。実は、当社は2022年11月、大阪に本社を置く東証プライム市場上場の毛織物メーカー・日本毛織株式会社グループの傘下に入りました。これからは、グループ各社の事業でシナジー効果を発揮することを見据え、広報同士が連携を強化し、グループ全体で広報力を高めていくことが必要だと考えています。その実現に向け、「グループ広報会」を企画し、今年7月には第1回を開催してさまざまな情報を共有しました。
これからは、サンコーだけでなく、グループ会社や親会社の日本毛織株式会社も、『カンブリア宮殿』や『ガイアの夜明け』といった、ビジネスの最前線を追う番組に取り上げてもらえるようになりたい。グループ連携を基盤に、広報としてさらにスケールの大きな活動ができるようなビジョンを描いています。
ーekkyさん個人の目標はいかがでしょうか。
僕個人としては、現在の「ekky」としての活動を続けていくつもりです。サンコーの広報としてはもちろんですが、僕を入口に会社や製品を知ってもらえたらと思っているので、今後も引き続きアニメやドラマへの出演、個人での番組出演をできる限りおこなっていこうと考えています。
ーさいごに、全国の広報担当者に向けて、メッセージをお願いします。
僕は、広報活動に唯一の正解はなく、それぞれの企業にあったやり方があると考えています。広報担当者が抱える悩みは共通することも多いため、ぜひ他社の広報とつながり、相談・連携を図ってほしいです。僕も、広報同士が交流できるイベントを主催していますので、何かあればぜひXのekkyアカウントまでご連絡ください。広報は、会社全体に関わる重要な役割を果たしており、会社の成長に欠かせない存在です。自分たちの会社を盛り上げられるように、一緒に頑張っていきましょう!
広報歴7年のフリーライター。中堅大学、PR会社、新規事業創出ベンチャーにて広報・採用広報を経験。2021年より企業パンフレット、オウンドメディア、大手メディア、地方メディアなどでインタビュー記事を執筆中。書籍の編集・ライティングも行う。