どの商品やブランドにも“コンセプト”があるのと同じように、ひとつのテレビ番組においても、常に企画の根底には番組独自の“コンセプト”があります。そのため、番組に情報提供を行う側としては、番組のコンセプトをしっかりと理解した上で、それにふさわしい情報提供を行う必要があります。
本記事は、先月マテリアルにて行われた『圧倒的な費用対効果!テレビ取材が殺到するストーリーマーケティングセミナー』のレポート記事第2弾として、制作会社「テレビマンユニオン」で老舗旅番組『遠くへ行きたい』のプロデューサーを務める、森明子氏の講演内容をご紹介します。
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『遠くへ行きたい』が50年間も視聴者から愛され続ける理由
第2部で登壇したのは、制作会社テレビマンユニオンで、老舗旅番組『遠くへ行きたい』のプロデューサーを務める、森明子氏。星の数ほどある旅番組の中で、なぜ『遠くへ行きたい』が50年も続き、今もなお愛され続けているのか、その裏側にある番組の強いコンセプトについて解説しました。
『遠くへ行きたい』について
いまから約50年前、ひとりの旅人(著名人)が日本各地に出向いて数日間旅をする紀行ドキュメンタリー番組、『遠くへ行きたい』の放送が始まりました。
番組開始当初は、まだ番組収録には固定型の大きなカメラしか使われておらず、スタジオ内でのみ収録が行われていた時代。しかし、“いま”外で何が起こっているかを捉えるために、持ち運び可能なカメラを開発し、スタジオから飛び出して収録することに初めて挑戦したのが、この『遠くへ行きたい』でした。
50年間続く番組の背景にあるコンセプトとは
森氏は『遠くへ行きたい』にははっきりしたコンセプトがあると説明しました。それは
<ディスカバ― ジャパン> = <日本を再発見する>
というコンセプトです。
例えば、旅先に行ってちらしずしを食べた際に、「おいしいね」「きれいだね」「変わってるね」では終わらず、「なぜそのちらし寿司がその場所で生まれたのか?」「なぜこの食材を使っているのか?」など、その土地ならではの理由を掘り起こすこと。”ここに行くとこんな経験ができる”という単なる紹介ではなく、旅人が出会った「情報」のその先に見えてくる「その土地ならでは」の納得感、それが<ディスカバー ジャパン>であると解説しました。
また、このコンセプトは、50年の間に何度同じ町を訪れることになっても、旅人や季節、切り口によって、常に新しい発見をし、知ったつもりでいた町が新しく見えてくる、という意味でもあるのだとか。
コンセプトを守りつつ時代の変化に適応
番組が生まれた当初は、画面にはなるべくテロップを入れない編集を行い、入れるとしても白黒で最小限、商品の値段も入れない、というドキュメンタリー要素の強い紀行番組でした。しかし、時代の変化や視聴者の好みの変化に合わせて、情報も大事にする編集方針に転換。視聴者が目で情報を収集する視聴スタイルに合わせて、同録フォローや、派手で動きのあるテロップも、今ではどんどん取り込んでいるのだそう。
なるべく沢山の人に見てもらい、伝えたいことをきちんと伝えたい。だからこそ、そのためにはどう見せたら伝わるか?を一生懸命考え、時代に合わせて「新しい情報」や「見せ方の工夫」を加えていると話した森氏。しかし、時代に合わせるあまりに<ディスカバー ジャパン>というコンセプトを手放してしまえば、それは『遠くへ行きたい』ではなくなってしまうと加えました。このコンセプトへのブレない強い想いこそが『遠くへ行きたい』が50年間続いている最大の理由かもしれません。
老舗旅番組プロデューサーが求める情報とは
番組が取り上げる情報に必要な要素
森氏は普段、地方新聞やインターネット、また地方地域が行う都内イベントなどに出向いて情報収集を行い、写メやカレンダー入力で常に情報をストックしているそう。加えて、ただ情報をストックするだけでなく、「情報は常に年間スケジュールと組み合わせて整理している」と話しました。なぜなら、テレビの取材では“何が撮れるか”だけではなく“いつが旬か”、つまり、“いつなら撮れるのか”ということが大事な情報であるためです。
また『遠くへ行きたい』では、収録から放送まで1か月近く時間が空くため、5、6年前までは、放送時にはすでに終わってしまっている「お祭り」の取材は避けられてきました。しかし、最近では旅に”華やかさ”を加える要素として、積極的に各地のお祭りを取り込むようになったのだそう。「こんな祭りのある町」という、旅先のプロフィールとして有効なので、大小様々な地方の祭りの情報も常に集めていると説明しました。
『遠くへ行きたい』でしか紹介できない情報が必要
以前のようなドキュメンタリー要素だけでなく、情報の必要性が強くなった分、情報をいかに仕入れるかが課題と話した森氏。『遠くへ行きたい』が求める情報について、①人の情報/②その地域ならではの暮らしの文化の情報/③今伝えることに意味がある旬な情報の3つを紹介した後、毎日多くのリリースを受け取る中でも、特に「人の情報」の入手が難しい、と情報収集の苦労を明かしました。
旅先の出会いには色々なものがありますが、その旅を彩る大切な要素のひとつが、「人」との出会い。「味」「景色」「芸能」「伝統工芸」など、様々なものから「その土地」は見えてきますが、旅を終えて一番印象に残るのは、“この土地だからこそ出会えた”という「人」との出会いです。
また、都道府県、企業、代理店などから沢山リリースをもらっているものの、それらの大半が「どこかで読んだ情報」であることが多いと説明。例えば、リリースで旅行雑誌に載っているような情報をもらったとしても、それば旅行雑誌を買えば済む話であり、後発として雑誌を超えることはできません。
たとえ情報収集に苦戦しようと、番組では<ディスカバー ジャパン>というコンセプトに見合う、『遠くへ行きたい』だからこその情報を得て、旅の中に取り入れていきたいと森氏は力強く話しました。
テレビPRでは自分の案件を知り、とにかく相手を理解する
相手を知ったうえで自分の特性を売り込むこと
『遠くへ行きたい』が求めている情報について紹介があった後、森氏はどの番組においても共通する、”PRパーソンが心得ておくべき情報提供の重要なポイント”について解説しました。
ひとつ目は、自分が持っている情報との親和性が高く、取り上げられることで効果が得られる番組を選定すること。やみくもに情報提供を行っても、その番組と親和性のない情報は取り上げてもらえませんし、取り上げられたところで宣伝効果も得られません。「その番組に取り上げられた場合、どんな扱いで放送されるか」というところまで想像して考えられるようになると、より適切な番組を選定しやすくなるでしょう。
ふたつ目は、相手を知って自分の特性を売り込むこと。ひとつ目のポイントで、狙いたいテレビ番組を選定した後は、その番組が取り上げるネタの特徴や論調を研究することが重要です。研究する中で、「制作者は、番組を通して何を表現しようとしているか」を掴むことにより、どのように自分の案件を伝えることがベストであるかを考えやすくなります。つまり、自分が持っている案件の内容は、番組が求めている要素とどの部分で重なるかを的確に掴み、その上で情報提供をすれば、制作者の心に届くプレゼンになるでしょう。
また、『遠くへ行きたい』では、番組のコンセプトと合わないものは、どれだけ熱心に紹介されたり、便宜を図ってもらえたとしても、取材はしないと加えた森氏。その理由として、目先の得を考えて番組にふさわしくない内容を放送した途端に、番組は力を失っていくためと説明しました。面白くない番組は、視聴者から愛されなくなり、やがて番組が終了していくことに繋がりかねないと考えているからだそうです。
じっくりと創り上げていく番組では”情報提供側の熱意”が重要
先述したように、番組宛てには毎日山のような数のリリースが届くため、その情報のポイントや良さが伝わらないものは埋もれてしまいます。もしも担当者に直接会える機会を得たなら、自分の持っている案件の良いところは何かを理解し、相手に気持ちをこめて伝えることが大切、とアドバイスしました。
その情報を本当に”いい”と思って話している場合と、”情報提供の仕事だから”と思って話している場合とでは、聞き手側の熱量にも雲泥の差が出るそう。報道番組のように、様々な情報を短時間で伝える番組とは異なり、『遠くへ行きたい』等の番組では、時間をかけてひとつの回を創り上げていくため、情報提供者と関わる機会も自然と多くなります。そのため、ぎこちないプレゼンであったとしても「この人の言うことは信用できそうだな、おもしろいものが見つかりそうだな」と思えるような、自信と情熱をもって地方の魅力を提供することが重要です。
テレビ番組にアプローチする際のポイントは、情報と親和性の高い番組を見定めて、狙いたい番組がどのような情報を求めているかを知ること。さらに、誰よりも熱意と愛着を持って情報提供を行うと、森氏のような担当者に振り向いてもらえるかもしれません。
次回公開の『圧倒的な費用対効果!テレビ取材が殺到するストーリーマーケティングセミナー』レポート3/3では、フジテレビ報道局報道センターにて、夕方のニュース番組『Live News it!』のリサーチャーを務める、宇野真由美氏の講演内容をご紹介。毎日いくつもの情報に触れているリサーチャーが目を止めるリリースはどのようなものなのか?また実際に番組内で取り上げられる情報はどのようにして選定されているのか?報道番組の裏側について解説します。併せてお読みください。
1995年生まれ大阪育ち。2018年同志社大学卒業後、株式会社マテリアルに新卒入社。1年目でウェブメディア『PR GENIC』を立ち上げ、記事の執筆と編集全般や、セミナーの企画など、コンテンツ作りを幅広く担当。半年間ハウスメーカーのマーケティング部への出向も経験。現在はオープンイノベーション支援に従事しつつ、外部アドバイザーとして編集のサポートを行っている。