メディアリレーションズが難しいからこそ本質的なPRに迫ることができる
小林:対メディアへの広報が難しい二社だからこそ、「情報を発信する広報」ではなく、「世の中とのリレーションを築くための本質的な広報」に近づいている気がします。
菅原:原田さんも同じだと思うのですが、事業の構造的にメディアリレーションズが難しい会社になぜ入ったのかというと、遅かれ早かれ、企業がメディア以外のステークホルダーとも、自ら関係構築しなければならない社会へ変わると思っているからなんですよね。むしろ、いまのような環境に身を置いたことで、よりPRのコアな部分に迫れている感覚もあります。
原田:おっしゃる通りですね。企業広報として、一方で経営者と、一方でメディアの方々と話すだけでなく、エンジニアのリーダーやプロダクトマネージャー、メディアや出版社とのパートナーシップを担っているセクション、コンテンツ編成チーム、広告事業部…など、様々な部署とのコミュニケーションも欠かせません。そうすることで、チャンスがどこにあるのか、あるいは、我々スマートニュースと、その周りに存在する生活者感情やメディア感情とのギャップが、どこで生じそうかを考えることもできます。日々、メディアの方々と接する中で、いまの世の中がどのような空気なのか感じ取り、社内にフィードバックすることもPRグループでは心掛けていますね。
また、個人的に、大変かつ貴重なタイミングで入社できたなと感じたのは、2021年9月の資金調達(シリーズF)のPRを担当できたことです。ファイナンスのニュースという、今まで遠い世界だと思っていたものを、世の中に対して一番意味のある形で伝えるためにはどうしたらよいか、と考えました。これはまさにストーリーテリングであると言えますし、そういう意味でいうと、広報/PRはプロダクトやファイナンスに限らず、すべての企業アクションに必要な考え方ですよね。
菅原:一般的な企業広報の方とは異なる私たちの共通点として、メディアは“ニュースを取り上げてくれる相手”ではなく、“いなければビジネスが成り立たない存在”というのが挙げられます。そのような、大切なパートナーとお互いwin-winな関係であり続けることが大事ですし、それこそが、会社としてパブリック・リレーションズを実践できている状態のひとつなのではと思いますね。
これまでのさまざまな経験が今のポジションで活きている
小林:いまのお二人の活動には、これまでのスキルがかなり活かされていそうですね。
菅原:まさに、その通りだと思います。私はもともと、どうやったら日本のPRパーソンの給料を高められるか、という部分に興味がありました。そのため、これだけパブリシティ獲得が難しい会社の中でどこまで自分のバリューを発揮できるかは、大きな挑戦ポイントになっています。
小林:広報/PRの人間がやりたいのは、その会社やブランドが本来どうあるべきかを経営者と一緒に創造し、そこに対する正しい行動を、世の中の様子を見ながら考えていくことだと思うんです。しかし、それを行うチャンスが中々ないことも事実ですよね。
原田:難しい悩みですよね。そこが、私が事業会社側へ行ってみたいと思った理由のひとつでもあるのですが、広告会社での経験がなければ、今の自分がないということもまた事実です。そのため、ある切り取られた領域のプロフェッショナルになるということは必ず必要だと思いますし、それがあったからこそ、スマートニュースにジョインできたと感じています。
菅原:私も、仮に起業をしておらず、PR会社の経験だけだった場合、いまユーザベースで広報責任者をやれている自信はありませんね。
原田:それで言うと、菅原さんが冒頭におっしゃっていた、“当事者意識”の持ち方を、起業することで得られた部分があるんですか?
菅原:あると思います。あくまで個人的な意見なのですが、やはり、広報の経験やスキルだけでは、得られないものもあると思うんです。いまの広報責任者という立場は、会社や事業に価値を感じてくれている顧客や投資家など、様々な人のことを知らなければ、務まらないポジションですよね。この視点を、起業などの経験を経て得られていることが、自分の中での強みだと感じています。
小林:お二人の話を聞いて、これまでの経験で得たスキルを発展させることで、ここまで色々なことができるんだなと勇気をもらえる人も多そうです。
原田:クリエイティブ、PRパーソンの皆さんには、その肩書にとらわれなくていいんだよと伝えたいですね。いまの経験から得たスキルは、経営の根幹にも活きますし、その考えをもっと広めていきたいです。私、恐らく菅原さんも、クリエイターやPRパーソンの皆さんには、自分自身の背中を通して、「こんなこともできるよ!」と語りたいと思っているところはあります。(笑)
菅原:そうですね。(笑)経営者の方や、ビジネスで活躍している方は、自分が時間を投資できなかった分野に対して、その部分に精通している人間をちゃんとリスペクトして信じてくれると思うんです。なので、私自身が10年以上の時間を投資してきたPRという分野においては、その分責任は大きくなりますが、信頼してもらえているという感覚はありますね。
経営者層とより近い立ち位置で働く広報の役割と責任
小林:「経営の近くで仕事がしたい」という思いが芽生えるPRパーソンも多いと思うのですが、実際にそのポジションになられてみて、どう感じているのか率直に聞いてみたいです。
原田:PRグループのメンバーが代表の鈴木とのコミュニケーションで意識しているのは、鈴木が時間を使うべきものに集中してもらえるようにすることですね。加えて、私が入社するまでPRグループはなく、鈴木自身がPRを行っていた部分もあったため、まずは、今までのスマートニュースと鈴木がやってきたことをトレースして、鈴木の考え方を理解することを、個人的ミッションとして頑張ってきました。
また、コミュニケーションについても密にやり取りできているのではないかと思います。鈴木自身が、様々なCEO業務を抱える中で、先を見据えたPRのことばかりに時間が割けるわけではないので、その“サーチライト”の役割はこちらで担う必要がある。そのため、来年の事業フェーズがどうなるのか、世論がどうなるのかの両軸から考えることは常に怠ってはならないと思いますね。さらに、広報として取り組みたいことも無限にある中で、優先順位をつける部分に関しては、鈴木と密に連携を取っています。時間や人材という有限なリソースをどこにどれだけ使うのかという話は、しっかり認識を合わせるようにしてますね。
小林:なるほど。他に工夫していることはありますか。
原田:かなり細かい部分にはなりますが、できるだけ素早く判断してもらえるように、メッセージの送り方ひとつも工夫しています。たとえば、取材依頼が来た際に、「このメディアから取材依頼が来ましたが、受けられますか?」と打診するだけでは、経営者が判断するために考えるポイントは無限にあり、時間を多く奪ってしまいます。なので、「今、世の中の動きが○○になっている中で、NewsPicksさんから○○のような意図の取材依頼が来ています。我々がお話を伺ったところ、取材で鈴木さんが答える内容は○○といった内容になると思います。取材を受けていただきたいですが、いかがでしょう?」という部分まで提案するようにしています。
時には「答えるべき内容は全く違う」となる事もありますが、検討が第一段階先に進めたわけですから、それで良いと考えるんです。ここには、情報を端的にまとめて意思決定を支援するなどといった、広告会社で得たスキルも活かされていますね。
菅原:お話を聞いて、通ずる部分と逆の部分があるなと思いました。私の場合、自らが経営者を経験しているので、「自分だったら」と勝手に想像してしまうこともあるんですよね。先輩経営者としてこれだけ大きな会社と事業を作った人たちは、この状況でどのような判断をするのかを学びたいという欲求があります。
小林:なるほど。菅原さんも、代表の方々とのコミュニケーションで意識されていることはありますか。
菅原:私が2人とのコミュニケーションで特に意識しているのは、判断を仰ぐ時ですね。原田さんは、代表に何かしらの判断を仰ぐ際に、「あなたはどう思うんですか」と必ず聞かれませんか?
原田:確かに、「PRグループとしての考え方を聞かせてください」と言われますね。こちらの意見を聞かれることはわかっているからこそ、あらかじめそれも伝えた上で判断を仰ぎますよね。
菅原:そうなんです。先ほどの、取材依頼が来た場合で考えると、「○○というメディアから取材依頼が来たのですが、受けた方が良いと思います。なぜならば…」というように、理由を添えることは基本ですね。この、“なぜならばの強度”が私たち広報には求められている気がします。そこに対する説明責任が果たせれば、「あなたの言うようにやってみましょう」というコミュニケーションをしてくれると思います。
原田:“なぜならばの強度”が求められているのは、本当にその通りだと思います。この強度が高ければ、1度のやり取りで済みますし、忙しい代表の時間を余分に取らなくてよくなりますよね。細かい部分ではありますが、こういった些細に思える積み重ねが、信頼関係をつくっていくと考えています。
小林:本日は、貴重なお話ありがとうございました。
広告会社クリエイティブディレクターとスタートアップ経営者という立場から、企業の広報へと転身されたお二人。これまでのキャリアで得た経験やスキルが、いまの広報の活動で活かされており、また、ご自身の強みとなっていることが分かりました。 双方のような、メディアリレーションズが難しい事業で、積極的に広報活動を行わなければいけない中、どう社会と良好な関係を築いていくのか。この思考はまさにパブリック・リレーションズの本質に迫っているのではないでしょうか。ご自身のキャリアについて悩まれた際には、“あるひとつの分野のプロフェッショナルになる”ことは必要ですが、現在の肩書きにとらわれず、自分の経験やスキルがどのような仕事で活かせるのか、考えてみてはいかがでしょうか。 |
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。
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