昨年12月に授賞式が行われた『PRアワードグランプリ2022』。PR GENICでは、アワードを受賞された作品の実施背景やPRポイントを紐解いていきます。受賞事例シリーズの第2弾は、ユニークなアイデアから生まれる斬新な企画で、世の中を驚かせるクリエイター集団、面白法人カヤック。PRアワードグランプリでは、全14の受賞作品のうち、3エントリーにカヤックが携わるという快挙を達成しました。
なぜカヤックは、ユニークな企画を次々と生み出せるのか。PRアワードグランプリを受賞した『Art Beef Gallery』『もしも、令和ギャルがカヤックの決算説明会資料をつくったら…』の制作秘話と、カヤックならではの発想法について、広報の梶陽子さん、コピーライターの合田ピエール陽太郎さんにお聞きしました。
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老舗日本料理店から生まれた新しい体験ギフト『Art Beef Gallery』
初応募で3エントリー受賞!コロナ禍で生まれた『Art Beef Gallery』とは
―この度は、PRアワードグランプリの受賞おめでとうございます。受賞した14のエントリー中、カヤックさんは『Art Beef Gallery』および『もしも、令和ギャルがカヤックの決算説明会資料をつくったら…』の2エントリーがブロンズを受賞するという快挙を達成されました。
梶:ありがとうございます。実は、ゴールドを受賞されたサントリーさんの『社長のおごり自販機 PR』にも弊社は関わっておりまして、それも合わせると3エントリーで受賞できたことになります。カヤックとしては、今回が初めての応募でして、合田が1人でエントリーシートを作成しました。この結果には驚いていますし、非常に嬉しく思っていますね。
―そうだったのですね。今回はそのなかでも、カヤックとして受賞された『Art Beef Gallery』と『もしも、令和ギャルがカヤックの決算説明会資料をつくったら…』について、なぜこのようなユニークな発想が生まれたのか、企画の背景や反響などをお聞きしたいと思います。まずは『Art Beef Gallery』ですが、どのようなきっかけで本施策が生まれたのでしょうか。
梶:『Art Beef Gallery』に取り組むきっかけとなったのは、コロナ禍です。当時、多くの飲食店が営業自粛を余儀なくされ、それまで飲食店に卸されていた食材が行き場を失っていました。日本三大和牛に数えられる近江牛も例外ではなく、せっかく育てた近江牛を、生産者が処分しなければならないような事態が起きていたんです。
そんななか、私たちにオファーをいただいたのが、滋賀県の近江八幡市にある老舗日本料理店の『ひょうたんや』です。ひょうたんやさんは、自らも売上が減少して苦しいなかで、生産者さんを応援したいという想いを持っていらっしゃいました。近江牛を今までとは違う形で広められないかと考えられたのです。
もっとも、コロナ禍で生産者も飲食店も大変だとはいえ、それは消費者の方々には関係のないことです。「大変なので買ってください」というメッセージをストレートに伝えるのではなく、あくまでも消費者の方が楽しんで、価値を感じて購入いただけるような試みが必要だと考えました。
―当時、多くの飲食店が取り組んだ新しい試みといえば、テイクアウトやECサイトでした。
梶:そうですね。ECを強化するという方針は、ひょうたんやさんも考えておられました。ただ、ECを単に強化するだけでは、なかなか話題にも上りません。何か話題をつくれるような面白いアイデアが必要だということで、私たちにご依頼いただいたのです。
近江牛=“食べる芸術品”から浮世絵を連想
―『Art Beef Gallery』は、近江牛の赤身の色を活用し、浮世絵をモチーフとした印象的なパッケージデザインに仕上がっています。どのようにして、アイデアが生まれたのでしょうか。
合田:オファーをいただいてから、私たちは近江牛について色々と勉強を行いました。近江牛の歴史や生産者さんの想い、育成の仕方やさばき方に至るまで、事細かに調べた結果、「近江牛は長い歴史を持つ“食べる芸術品”である」という考えに至ったのです。日本が世界に誇る芸術品といえば浮世絵ですから、近江牛と浮世絵をかけ合わせて、新しい体験ができるギフトが作れるのではないかと考えました。そこから生まれたのが『Art Beef Gallery』です。
―芸術品と一口に言っても、浮世絵以外にもさまざまなものがありますよね。赤富士に決まるまでに試行錯誤されたのでしょうか。
合田:最初の段階でコアにあったのは「芸術品」という部分だけで、色々な芸術品を検討しました。そのなかでも、特に近江牛の赤身の色を生かせる題材ということと、日本人なら誰もが知っているという知名度の点で「赤富士」が候補に挙がり、実際に作ってみるとインパクト抜群で、しかも美味しそうに見えたため、これでいこうと決定しました。日本一の和牛の自負があるので、日本一の山を描くということにもつながったと思います。そういう意味では、試行錯誤というよりも直感的だったと思います。
―かなりユニークなアイデアですが、ひょうたんやさんの反応はいかがだったのでしょうか。
合田:とても良い反応をいただきました。もともと、ひょうたんやさんは、他にはない珍しいことをどんどんやっていきたいという社風だったので、『Art Beef Gallery』のようなアイデアもすんなり受け入れてもらえたのだと思います。ちなみに、「豚しゃぶ」という料理がありますが、あれを最初に作ったのはひょうたんやさんなんですよ。それくらい、新しいことに挑戦される風土を持っている方々なんです。
とことん「世界観」にこだわったデザインで海外にも波及
―そうだったのですね!『Art Beef Gallery』はウェブサイトも独特ですよね。一般的な食品のECサイトとは異なるスタイリッシュなイメージです。
合田:おっしゃる通り、かなりこだわりを持って演出をしました。目指したのは、美術館に来たような体験ができるウェブサイトです。本来、食品のECサイトは、人が商品を食べている写真などを大きく出しますよね。ただ、『Art Beef Gallery』は“芸術品”がテーマでしたから、美しく商品やお肉、素材などが感じられることを目指しました。
―『Art Beef Gallery』は、まるで額縁のような包装がなされており、パッケージも非常に凝ったものになっています。
合田:浮世絵と近江牛をかけ合わせることはすんなり決まったのですが、パッケージはゼロからの制作だったので、じっくりと時間をかけました。やはり食品ですから、衛生面は注意しなければなりません。なおかつ、過剰包装にならないようにも気をつけました。デザイナーがこだわってくれて、何度も試行錯誤を繰り返して完成したデザインです。
―『Art Beef Gallery』に対する反響はどうだったのでしょうか。
合田:テレビで取り上げられたり、SNSで話題になったりと、大きな反響をいただきました。海外の方からも注目いただいているようです。特に、中国や香港、台湾といったアジア圏では、Instagramで拡散され大反響となりました。生肉のため、現時点で輸出することは難しいのですが、これから日本に旅行でいらっしゃる海外の方などには、ぜひ楽しんでいただきたいですね。
「決算報告書」と1番ギャップがあった「ギャル」を起用
ニセモノは見抜かれる時代。大切なのは“本物を届ける”こと
―続いて、『もしも、令和ギャルがカヤックの決算説明会資料をつくったら…』についてお聞きします。こちらは、どのような経緯で生まれた企画だったのでしょうか。
梶:企業が発表する決算説明会資料は本来、堅苦しいものが多いです。ただ、最近だとZOZOさんが「漫画で解説する決算説明会資料」を発表されるなど、ユニークな取り組みをされる企業も増えてきました。それでいうと、私たちも“面白法人”を名乗っているわけですから、やはり何かしら面白い試みをしなきゃいけないよね、という話が出たのがきっかけです。
合田:そこで弊社の社長が持ってきた案が、「ものすごくネガティブな決算説明会資料を作ってみてはどうか」というアイデアだったんです。決算説明会資料というのは、基本的にポジティブに書くものなので、反対をやってみたら面白いんじゃないかという発想ですね。ところが、実際に作ってみたところ、これがびっくりするくらい面白くなくて…(笑)。どうすれば面白い決算説明会資料になるかを考えたところ、「他のキャラクターに、決算説明会資料を説明させてみるのはどうか」という案が出たのです。
―そこから、どのように「ギャル」に行き着いたのでしょう?
合田:ギャル以外にも、歴史の偉人や俳人、YouTuberなど、色々なキャラクターをあてがって試作してみたのですが、ギャルが1番ギャップがありつつも、難解な言葉を短くて柔らかい表現に翻訳できることから、説明に向いているとなりました。
梶:実際に、5名のギャルの皆さんに集まっていただき、6時間ほどかけて決算説明会資料を一緒に作成していきました。具体的には、決算説明会資料で「最高売上最高益」と書くところを「最大もうかった」という切れ味のある言葉に言い換えてもらうなどしましたね。
―実際に、作成された資料を拝見しましたが、たしかに面白く、なおかつわかりやすくなっている印象でした。オウンドメディアで企画のメイキング風景を公開されていましたが、実際にギャルの方を呼んで実施されていたのには驚きました。てっきり、そういう“体”でやるだけで、実際には社員の皆さんで作られたのかと思ったので…。
合田:そこは、本当にギャルの皆さんにお願いしてしっかり作成しました。というのも、本物のギャル以外の人がギャルっぽさを出して書こうとしても、ニセモノ感が出てしまうからです。そのことを教えてくれたのが、元ギャルの経歴を持つ弊社のプロデューサー・板井綾子です。一度、私の方でギャルっぽい決算説明会資料を書いて彼女に見せてみたのですが、「これはおじさん構文ですよ」とダメ出しをされてしまいました(笑)。それで、やはりちゃんとギャルの方にお願いすべきだろうとなり、その元ギャルプロデューサーのツテを使って、ギャルの皆さんをアサインしたというわけです。
―やはり、本物か偽物かはわかるものなんですね。
合田:そうですね。特に、今はネットで拡散されると、その道の専門家の方に検証されることも少なくありません。「こんなもんでいいだろう」という生半可な気持ちで作ったコンテンツは必ず見抜かれますし、炎上につながる恐れもあります。逆に、しっかりと作った本物のコンテンツは、「これを作った会社はわかってるね」と受け入れて楽しんでもらえるんです。労力はかかっても、本物を届けるというのは大事なことだと思っています。
…ただ、本物感を押し出しただけに、かなり尖りすぎた決算説明会資料が完成してしまい、社長に見せたところ「さすがに決算説明会では使えない」という話になりました(笑)。
カヤックの色が出る企画がインナーブランディングにも寄与
―そんな『もしも、令和ギャルがカヤックの決算説明会資料をつくったら…』には、どんな反響があったのでしょうか。
合田:最初に反応していただいたのは、他の会社の経営者の皆さんでした。そこから、IRに興味のある一般の方にもコメントをいただき、広告系やPR系の方々にも広がっていったという流れです。
梶:嬉しかったのは、多くの弊社社員がTwitterなどで反応してくれたことですね。「こういうことをやってしまう会社にいれてよかった」とか、「なんだこの資料、最高だな」とか。期せずして、インナーブランディングにもつながったのかなと思います。
合田:実は、「令和ギャルが決算説明会資料を作る」というコンテンツは、現在、ビジネスとしても展開しているんです。依頼をいただいたら、ギャルの方を実際にお呼びして資料を作ってもらうというサービスです。いっそ、ギャル事業部を作ったらどうかという話も出ています。
ー面白いですね!1つの企画から思いもよらぬ形でビジネスが生まれ、展開していく可能性があるわけですね。
合田:こうした展開ができるのは、先ほども話に出た、元ギャルのプロデューサーの存在が大きいです。彼女が私たちとギャルの間に立って、“翻訳家”のようにつないでくれたことが1番のポイントかなと思います。
話題を呼ぶカヤック企画の秘訣は“真逆の掛け算”と“ブレスト文化”
―ここまで、PRアワードグランプリを受賞された、2つの企画についてお聞きしました。御社が今回の施策のような企画やアイデアを発案する際に、大切にしている考え方やポイントについて教えてください。
梶:『Art Beef Gallery』や『もしも、令和ギャルがカヤックの決算説明会資料をつくったら…』に限った話ではありませんが、普段から心がけているのは既存のアイデアでも掛け合わせによって新しいアイデアが生まれる“真逆の掛け算”という発想です。牛肉とアート、決算説明会資料とギャルのように、正反対の予想もしない組み合わせから化学反応が起こり、ユニークな企画が生まれます。
そもそも、カヤックは“面白法人”を名乗っていますが、この名前自体が異質な要素の組み合わせなんです。法人という真面目なものに、“面白”をつけるという。その社名になぞらえて、「世の中を面白くしたい」という部分に機軸を置いてPR活動も行っています。
合田:「世の中のイメージが凝り固まっているものに対して、カヤックが手を入れて面白く変化させる」ということが得意な会社だからこそ、真面目でお堅い「決算資料」と反対の「ギャル」を組み合わせることができたと思います。「面白法人」という真逆の掛け算を、一つひとつのプランニングに落とし込んでいるイメージですね。どんな題材でもやわらかく掛け合わせていく、柔軟な発想を大切にしています。
―発想法などは、日頃から社内でトレーニングされているのでしょうか。
梶:カヤックに根付いているブレスト文化が、アイデアの源泉になっています。ブレストでのルールは2つ。まず、とにかく数をたくさん出すこと。それから他の人のアイデアに乗っかっていくこと。あとは、部署やチームの垣根を越えて、それぞれの案件にあったメンバーでブレストを行っているところもポイントだと思います。たとえば、女性向け商材の場合、広報の私がブレストに参加したりもします(笑)。会社をあげてブレスト合宿をしたり、合いの手を練習したりするくらい、ブレストを大切にしています。
―カヤックのユニークなアイデアの根底には、ブレスト文化が根付いているのですね。さいごに、今後どんなチャレンジをしていきたいかについて教えてください。
梶:いま、「新しい資本主義」といった言葉を耳にしますが、カヤックとしても、既存の資本主義のルールを変えることに挑戦していきたいと考えて、地域のコミュニティや自然や文化に着目した「地域資本主義」という考えを提唱しています。ただ、やはりカヤックですから、少しでも皆さんが「面白い」と思って主体的にまちづくりに参加いただけるように、面白いアイデアでチャレンジできたらいいなと思っています。
―合田さんはいかがでしょうか。
合田:次の8月3日で、カヤックが25周年をむかえるので、そのタイミングで面白い周年イベントの企画をしています。いわゆる周年イベントと聞くと、会社の歴史を振り返ったり、ノベルティをつくったりしますよね。カヤックの周年イベントではそれだけにとどまらず、「決算報告書って第三者に説明させてもいいんだ!」と同じテンションで、「周年イベントでそんなことしていいんだ!」と思ってもらえるような企画にできたらいいなと絶賛思考中です。ぜひ、ご期待ください!
2001年からマルコ名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちにいつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。