オールナイトニッポン55周年という節目のタイミングにサービス開始が発表された、オールナイトニッポンのアーカイブサブスクリプションサービス『ANN JAM』。ニッポン放送内に眠っていた過去の番組を聴くことができるこのサービスが、ラジオリスナーを中心に話題を呼んでいます。ここ数年でラジオの人気も急増するなか、このタイミングでアーカイブサブスクに踏み切った理由とは。
今回は、株式会社ニッポン放送 デジタルビジネス室の澤田真吾さんにインタビューを実施。『ANN JAM』実施の裏側から、年々変化するラジオと生活者の関係性や、熱量の高いファンを生むラジオの魅力についてお聞きしました。
株式会社ニッポン放送 デジタルビジネス室 澤田 真吾 2013年新卒入社。デジタルソリューション部に配属されてから現在に至るまでの約10年間、デジタル関連の業務に携わる。ホームページ周りの運営・管理から、自社ラジオにおけるオウンドメディアの立ち上げ、ポッドキャストのウェブラジオ制作や派生イベントの運営など、さまざまな業務を担当。 |
CONTENTS
リスナー待望のサブスク『ANN JAM』を紐解く
「放送して終わり」のラジオシステムに一石を投じる挑戦
―オールナイトニッポン(以下、ANN)55周年というタイミングで、さまざまなイベントやコンテンツの発信をされています。なかでも話題を呼んだ『ANN JAM』は、どのような背景で実施に至ったのでしょうか。
澤田:『ANN JAM』の実施には、私が制作を担当しているポッドキャストが関係しています。4~5年前あたりから世の中に注目され始めたポッドキャストですが、ニッポン放送としては2005年から発信を行っていました。まだポッドキャストが下火だった当時でも、ニッポン放送のポッドキャストは多くの方に聴かれていたため、そこをしっかりとビジネス化していきたいという思いのもと、広告モデルでのマネタイズシステムを導入しました。
しかし、この広告モデルがうまく回り始めた最中、新型コロナウイルスの影響で、広告案件が中止になるなどの事態が起きてしまったんです。そこから、会社として、ラジオ局として、BtoCのマネタイズも考えていかなければならないと思い立ち、今回のサブスクリプションサービスの開発をスタートしました。
加えて、以前から「放送して終わり」というラジオの仕組みがもったいないと感じていたところも、『ANN JAM』実施への後押しになっています。現在は『radiko』のタイムフリー機能で1週間分の放送をさかのぼれますが、それ以降でも「あの放送をもう一度聴きたい」というリスナーからの需要は多くいただいていました。その「需要はあるのにチャレンジできていない」「リスナーの期待に応えられていない」というところを打破していきたい想いは強かったですね。
―コロナ禍は、ニッポン放送やラジオ業界にとっても、大きな変換のタイミングになっていたのですね。
澤田:そうですね。一方で、在宅期間やテレワークの増加により、「ラジオを聴きながら何かをする」という需要も一定数生まれました。やはり、ポッドキャストのダウンロード数や『radiko』のユーザー数、ユーザの聴取時間などは大きく増加しましたね。
―ANN55周年というタイミングでのリリースには、何か理由はあるのでしょうか。
澤田:ANN55周年という記念すべきタイミングを一緒に盛り上げていきたいという想いが前提としてありつつ、こういった区切りとなるようなイベントは、社内の意思統一がされやすいタイミングでもあります。『ANN JAM』は、スピード感をもって進めていきたい企画でもあったので、ANN55周年にあわせて作り上げていった側面もありますね。
ラジオは“続きもの”。過去の放送への需要は必然だった
―『ANN JAM』において、1番ボリュームのあるユーザー層はどのあたりになるのでしょうか。
澤田:リリース前は、当時学生で聴いてくださっていた30~40代の方々に「あの頃のラジオをもう一度聴きたい」という需要で注目いただけるのではないかと思っていましたが、ふたを開けてみると20代のユーザーが多かったですね。これは、長年番組をやられているパーソナリティの昔の放送を、若いファンの方々がアプリを通して聴いてくださっていることが要因かと思います。
たとえば、オールナイトニッポンパーソナリティであるオードリーさんは、幅広い世代の方に愛されていますが、いま20代のオードリーファンの方が、番組開始当初の2009年の放送を聴きたいと思っても、その手段はありませんでした。それが、『ANN JAM』を通して聴けるようになった。リリース前の想定とは異なりましたが、YouTubeなどにアップロードされているような違法な音源も存在する現代で、20代や若年層の方がお金を払って聴いていただけていることがとても嬉しいですね。
―『ANN JAM』内で人気の番組も気になります。
澤田:現在放送中の番組だと、『オードリーのオールナイトニッポン』や『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』は、人気ですね。昔に放送していた番組だと、伝説のラジオと言われている『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』や、今回のサブスクをきっかけに話題となっている『久保ミツロウ・能町みね子のオールナイトニッポン』が多くの方に聴かれています。
―リスナーや生活者の方々からは、どのような反響がありましたか。
澤田:昔の放送を正しい形で届けられていることに対して、嬉しく思っていただけています。やはりラジオは、過去のトーク・先週のトークを踏まえて今週のトークがあるように、“続きもの”のコンテンツなので、「これまでのトークが聴きたい・聴き直したい」という需要は生まれて当然です。そういった部分でも、今回のサブスクは喜んでもらえています。
また、『ANN JAM』で配信しているラジオは、ニッポン放送にあるマスター音源を使用しているので、音質が良いというところも、ご好評いただいているポイントかなと思います。『radiko』がサービスを開始したのが2010年からなので、それまではラジオの電波に乗せたノイズ交じりの音声しかお届けすることができませんでしたが、『ANN JAM』の音声はノイズなどが一切入っていません。当時のリスナーの方々からは「あの回の放送がこんなにクリアに聴けるのか!」と嬉しいお言葉もいただいています。
時代と共に変化するラジオの楽しみ方とリスナーニーズ
―ここ数年でラジオを聴き始めたリスナーも多いとのことですが、昔からラジオを聴いている層との棲み分けや、特に意識されていることなどあるのでしょうか。
澤田:昔からのリスナーと新規リスナーの大きな違いは、聴いてくださる「尺の長さ」です。担当しているポッドキャストでも、昔からのリスナーは生活の一部として長尺のコンテンツを聴いてくださるのですが、時代の流れは短尺ですよね。特に、若年層の新規リスナーなどは、長尺のコンテンツを出しても再生してくれないので、そこの入り込みやすさは意識していますね。たとえば、10分強の尺のコンテンツを出しつつ、慣れてきたタイミングで徐々に長尺のものもアピールしていくような。そういったコミュニケーションは大切にしていきたいです。
―今回の『ANN JAM』をきっかけに、ラジオと生活者の関わり方はますます多様化していくと思いますが、その点についてどうお考えでしょうか。
澤田:『ANN JAM』やポッドキャストのサービスを提供していく理由のひとつになるかと思いますが、とにかく忙しい方が増えていますよね。そのため、これまで以上にリアルタイム型からストック型へとサービスの仕組みが変化していくと思います。先述した部分とも重なりますが、“その場限りのコンテンツ”ではなく、“自分のタイミングで自由に楽しめるコンテンツ”を提供していくというところには、放送局全体で取り組んでいるので、リスナーのどのような生活スタイルでもコンテンツに触れてもらえるような形を目指していきます。
私たちとしても、「ラジオでラジオを聴いてもらう」という部分にこだわっているのではなく、あくまでも放送を聴いてもらうためにどうしたらいいのかを考えているので、リスナーや時代に寄り添いながらどんどん進化していきたいです。
―リスナーを含め、生活者の方々に向けて行った『ANN JAM』認知獲得のための施策などはありますか?
澤田:ラジオは通勤時間に聴いている方が多いため、地下鉄のディスプレイにCMを流したり、交通広告を打ったりしました。そこで『ANN JAM』のリリースを知ってくださった方も多かったです。あとは、先日発表した「夏休みはANNJAMを聴こう!ノベルティ復刻プレゼントキャンペーン第1弾」です。
ノベルティは、いわゆるメールを送ってくれた方へのプレゼントのことで、いまはもう手に入らない昔の番組のノベルティをプレゼントするキャンペーンになっています。当時の番組リスナーをはじめ、『ANN JAM』ではじめて番組を知った方もノベルティをもらえるチャンスなので、これを機にいろいろな番組を聴いて欲しいですし、これがひとつの盛り上がりになるといいなと思います。
―テレビなどの視聴に比べて、ラジオの聴取ハードルは高いように感じますが、『ANN JAM』のリリースは、そういったハードルを下げることにもつながりそうです。
澤田:今の時代において、ラジオが家に置いてある家庭って少ないですよね。テレビはあるけど、ラジオはないというのが当たり前で、たしかにラジオへの導入ハードルは高かったと思います。そこから、『radiko』の登場でラジオを聴く時間や場所のハードルが少し下がって、今回の『ANN JAM』のリリースにより、過去の放送を含めた聴きたいラジオを好きな時に聴けるという部分で、また少しハードルを下げられたのではと思いますね。
パーソナリティとの距離の近さがコアファンを生む
―ラジオは、他のメディアにはないリスナーと「共創していくコンテンツ」として、リスナーからの支持を得ることは重要です。支持され続けるラジオの魅力はどこにあるとお考えですか。
澤田:やはり、テレビをはじめとした他メディアでは見られないような、パーソナリティのトークや雰囲気を味わえるところが1番の魅力ではないでしょうか。基本的に、パーソナリティはラジオ好きの方が多く、事前にしっかりトークを持ってきてくれるなど、ラジオに対して力を入れて活動してくださるんです。
加えて、ラジオ好きということは、昔はリスナーという立場でラジオを聴いてくださっていたため、リスナーとのコミュニケーションや関係値を築くのも上手なんですよね。そういったラジオでしか生まれないコミュニケーションがあるところが、皆さんが虜になってくださる魅力のひとつだと思います。
―また、取材に同席いただいた広報担当の方には、次のように魅力を語っていただきました。
広報担当:たとえば、テレビ等はあくまで「画面の向こうで起こっていること」で、傍観者としてみている側面が強いと思います。一方でラジオは、パーソナリティが自分に対して語りかけているような感覚があったり、時にはメールを通じてラジオに参加できたりと、心理的な距離が近いところがありますよね。これは他のメディアと一線を画すところであり、ラジオならではの魅力だと思います。
―たしかに、芸人さんや俳優さんの“素の一面”が見えたり、他のメディアより近い距離に感じたりするのは、ラジオならではですよね。
澤田:そうですね。たとえば、俳優さんがテレビや雑誌で露出をする時は、ゲストとして招かれていたり、Q&Aのコンテンツがベースにあったりと、「100%自分発信」にはならないですよね。それが、ラジオで自分の番組を持つとなると、フリートークの時間があって、自然とプライベートの話になって…というように、自然と素の部分が出ていくような環境が生まれます。そういった意味では、ラジオはコアなファンが生まれやすいコンテンツですよね。
―最後に、55周年を迎えたANNの今後の展望やリスナーの皆さんへメッセージをお願いします。
澤田:まずは『ANN JAM』を皮切りに、現代のラジオから昔のラジオへと歴史をさかのぼっていただいて、どんどんラジオを好きになってくれたらいいなと思います。チャレンジという意味合いでは、権利の関係で、BGMなど過去の音源を100%そのまま出せているわけではありません。また、放送における表現も放送当時と今では異なっているので、そのあたりに気を付けながらも、放送当時の雰囲気をリスナーに届けられるように尽力していきたいと思っています。そして、ANNだけではなく、「ニッポン放送で放送している他番組の過去の放送を聴きたい」という要望もいただいているので、そういったリスナーの声にも応えていきたいです。
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。