テレビCMにタレントを起用することは、企業のイメージづくりに大きなインパクトを与えたり、見た人の印象に残りやすくなったりなど、さまざまなメリットをもたらすことが期待できます。しかし旬なタレントを使ったからといって、CMや企業への好感度が必ず高くなるとは限りません。より効果的なCMタレントキャスティングを行うには、何に気を付けたら良いのでしょうか?
本記事では、先日6月20日に行われたCM総合研究所(以下CM総研)主催セミナー、『CMタレントの効果検証~2018年度CMタレント好感度ランキングより~』のレポートとして、CMタレントの最新トレンドと、CM好感度分析から見る効果的なタレント起用についてご紹介します。
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CMタレントを起用するとCMのパワーは2倍以上になる
テレビCMの好感度について、数多くのデータベースを抱えているCM総研。そんなCM総研が独自の方法で行っている、CM好感度分析の結果から、有名タレントを起用しているCMは、ノンタレントCMの約2.3倍ものパワーを持っていることがわかっているそう。
いつの時代でもタレントを起用したCMは好感を得やすい
2018年は、新たに10,225作品もの新CMが公開されましたが、その中で有名タレントが起用されているのは意外にも35%のみ。しかしCM好感度で見ると、全80,228票のうち76%もの票に、タレントを起用しているCMが記述されていました。
またこのCM好感度の要因についてアンケートを取ると、全体の65%が「出演者・キャラクター」にチェックを入れる結果となったそう。これは30年間不動の結果であり、いつの時代においても、有名タレントやキャラクターを起用したテレビCMは、好感を得やすいことがわかります。このタレントパワーについて、CM総研は「CMタレントは企業にとっての”記号”であり、意味のかたまりである」と解説しました。
2018年度のCMタレント好感度ランキング
CMタレントの新トレンドはズバリ「お笑い芸人」
第2部では、CM総研が毎年発表している『CM起用社数ランキング』と『CMタレント好感度ランキング』を発表。2018年でCM起用が多かったタレントについて、以下のように公表しました。
男性においては、嵐を中心とした人気アイドルや俳優が多くランクインしていた前年度と比較して、お笑い芸人の起用が増えていることが見て取れます。その理由として、企業側が機能性や商材価値を押し付けるCMは、生活者に振り向いてもらえないことがわかっているため、身近で愛される存在であるお笑い芸人を使って、商品を訴求することが増えていると説明。また俳優にとってNGの演出も、お笑い芸人であればやってくれる場合も多いため、理想の演出を実現するためにお笑い芸人を起用する企業も増えているのだそう。
一方女性の結果を見ると、2017年はベテラン女優の起用が比較的多かったのに対して、2018年は白石麻衣を中心とした、乃木坂46メンバー起用の増加が目立っています。また前年度と比較すると、広瀬すず、芦田愛菜、清野菜名といった若いタレントが上位に入ってきており、この若手女優の起用も新トレンドして挙げることができます。
CMタレント好感度ランキングの上位は大手携帯キャリアが独占
続いて発表された2018年のCMタレント好感度ランキングは、以下の通りです。
この結果から、継続してauの『三太郎シリーズ』が根強い人気を誇っており、大手携帯キャリアのCMは好感度の高いものが多いということがわかります。また人気若手俳優に混ざって、千鳥のノブが上位にランクインしていますが、このことについてCM総研は「千鳥は非常にテレビCM向きのタレント」と説明。その理由として、千鳥の芸風的につっこみが短く、また独特な岡山弁が聴覚的にも印象に残りやすいためと加えました。
一方女性の結果を見ると、20代前半の若手女優がランキングの半数を占めていることがわかります。
その他ランキングは以下の通りです。
昨年はCMタレント好感度が計測されなかったタレントを見ても、いま旬のタレントや最近注目を集めているタレントが誰であるか把握することができます。
CMタレントの効果的な起用方法とは?
ここまでタレントのトレンドについて紹介してきましたが、起用社数ランキングを見てもわかる通り、違う企業が同じタレントを起用することは多々あります。しかし同じタレントが出ていたとしても、その好感度に大きな差が出ることもあり、ランキング上位に入っている旬のタレントを起用すれば、必ずCM好感度が上がるとは限らないのです。
そこで重要になってくるのが、「誰を起用するか」はもちろんですが、それ以上に起用したタレントに「何をさせるか」という演出内容です。実際にCM総研のデータからは、同じタレントを起用していても、演出内容によってCM好感度が大きく変動することがわかっています。実際に演出内容の変更によって、高いCM好感度を獲得した事例を見ていきましょう。
ノンタレントからタレント起用によって効果が上がったCM
Indeed×斎藤工+泉里香
求人情報サービスのIndeedは、アニメーションを用いたノンタレントのCMから、斎藤工と泉里香を起用したCMへとシフトチェンジし、CM好感度を一気に上げたそう。タレントの起用を始めただけでなく、季節性のある新CMを打ち続けたこと、また耳なじみの良い「幸せなら手をたたこう」に乗せてサービス名を繰り返し歌ったことが、生活者に強い印象を与える要因になったと考えられます。
またCM総研は、タレントの2人が各職業になりきって真顔で歌う”シュールさ”が生活者に受け、結果として高いCM好感度が得られたと分析しました。
東京ガス×深田恭子
続いて東京ガス株式会社は、ガス自由化が始まった2016年から、テレビCMの配信を開始。配信当初はオリジナルキャラクターの「パッチョくん」を登場させていましたが、なかなか契約数が伸びず、CM好感度ランキングも低迷していたため、2018年から深田恭子をメインキャラクターに起用し始めました。
その結果、CM好感度ランキングは総合6位(2018年8月度・銘柄別)までジャンプアップし、新規契約数も予定より早く目標件数に達成。その要因として、深田恭子というタレントパワーだけでなく、歌とダンスによる直感的なわかりやすさ、また”ダサ可愛い”歌のお姉さんという設定の親しみやすさが、CM好感度アップに貢献したのではないかと分析しました。
ノンタレントにシフトチェンジして好感度が上がったCM
反対に、タレントを起用したCMからノンタレントCMに変更して、順位を上げたCMもあります。代表的な例は、ゼスプリ インターナショナル ジャパン株式会社のキウイブラザーズシリーズです。
2015年まで、石原さとみや剛力彩芽、また瀬戸朝香といった人気女優を起用したCMを展開していましたが、キウイの栄養価値などの情報が詰め込まれたCMは好感度が伸びにくく、なかなかCM好感度上位にはランクインしませんでした。
そこで2016年にCMイメージを一新し、愛嬌のある実写キャラクター「キウイブラザーズ」を登場させ、自虐のユーモアでキウイが持つ栄養価値を訴求しました。その結果、低迷していたCM好感度は跳ね上がり、その後も演出内容を切り替えながら「キウイブラザーズ」の起用を続け、2019年5月度には総合トップ10入りを果たしました。
タレントの「意外性」を活かして好感度を上げたCM
ここまで紹介してきたように、CM好感度の分かれ目はCMの演出内容にあります。特にCMタレントを起用した場合には、タレントの「意外性」や「ギャップ」を狙うのか、それともタレントの「らしさ」を活かすのか、ここの見定めによって、CM好感度が大きく変わってきます。「意外性」と「らしさ」のそれぞれを活かした事例を見ていきましょう。
バイトル×乃木坂46
ディップ株式会社が運営する求人情報サイト『バイトル』では、2017年の5月から乃木坂46のメンバーをメインキャラクターに起用しています。2018年から現在まで、「アルプス一万尺」にのせてサービス名を歌うフォーマットで続けいているバイトルですが、それ以前はなかなか好感度が上がらなかったそう。
現在のフォーマットになる以前は、サービス内容の訴求は一切なく、乃木坂46のプロモーションビデオに近い映像でしたが、この演出では”彼女たちらしさ”は出ていたものの、その世界観や魅力がファンにしか伝わらず、CM好感度は172位(2017年6月度・銘柄別)という結果になっていました。
そこで乃木坂46の既存曲の使用をやめ、サービス名を連呼するオリジナルソングに乗せて、乃木坂メンバーが様々なアルバイトを体験するような内容に変更。“彼女たちらしさ”ではなく、彼女たちがまだ見せていない部分を見せる演出、つまり「意外性」を狙った演出に路線変更した結果、順位は27位(2018年2月度・銘柄別)まで向上しました。馴染み深いリズムに乗せた歌と、見る人に親近感を持たせる演出で、CM好感度を上げながらサービス内容を訴求することにも成功した好例です。
いち髪×川口春奈
クラシエホームプロダクツのヘアケアブランド『いち髪』では、2016年から川口春奈を起用しています。当初のCM演出内容は、川口春奈らしさが活かされた”クール”なイメージのCMに仕上がっていましたが、好感度は伸び悩んでいました。
そこで2019年2月、川口春奈が元気いっぱいに歌いながらシャンプーするCMに路線変更。楽曲のパワーも加わって、これまでの「女優」としての川口春奈のイメージとは異なる、「素」に近いような振り切った演技が”新たな顔”として意外に感じられ、高いCM好感度を獲得しました。
タレントの「らしさ」を活かして好感度を上げたCM
LINEモバイル×本田翼
本田翼らしさと言えば、「くしゃっとした笑顔」や「かわいらしさ」という印象が強いですが、いつも通りの”かわいい”だけではインパクトは与えられません。他企業のCMでも、本田翼の”かわいらしさ”は表現されていますが、他とは一線を画した演出で本田翼のらしさを最大限に引き出したのが、『LINEモバイル』のCMです。
本田翼は2018年度、8社20作品のCMに出演していますが、その中でLINEモバイルのCM好感度が圧倒的に高かったそう。LINEモバイルのCMでは、アップテンポな音楽に合わせたコミカルなダンスで、本田翼のかわいさだけでなく”はじける元気さ”も引き出されており、多くの人の心を掴む結果となりました。
吉岡里帆
続いて「若手勢のCMタレント好感度ランキング」で男女総合2位にランクインしている吉岡里帆でも、演出内容によって好感度に大きな差が出ているそう。人々が吉岡里帆に持っているイメージとして、「ユーモラス」「心が和む」などが挙げられますが、吉岡里帆が出演する中で特に好感度が高いCMには、“吉岡里帆が何かのキャラクターに扮している”という共通点があります。
吉岡里帆がストレートトークをしているCMよりも、きつねを演じている『日清どん兵衛』のCMや、ちびまる子ちゃんを演じている『DAIHATSUミラトコット』のCMなどのように、何かのキャラクターになり切ることで、吉岡里帆「らしさ」が引き出されることが、CM好感度調査から明らかになっているのです。
CMタレントを起用する際は「誰を」だけでなく「何をさせるか」を意識すること
同じタレントを起用していても、演出内容によってCM好感度に大きな差が出ることをおわかりいただけましたでしょうか?セミナーの最後で、CM総研は「誰を起用するかと同様に”何をさせるか”も重要」と、タレントパワーを活かすCM演出のポイントについてまとめました。
CMでどのようなことを訴求したいのか、その世界観に合う有名タレントは誰で、その人にどんな演出をさせたら人々に印象付けられるのか。様々な要素を統合的に考えて、より好感度が高く認知度や売り上げの向上に繋がるCMづくりを心がけましょう。
タレントキャスティングに関する情報は、こちらの記事も併せてお読みください。
『タレントキャスティングとは?タレントをCMやイベントに起用するメリット』
『広告契約だけじゃない!タレントをキャスティングする際のポイントと手順』
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1995年生まれ大阪育ち。2018年同志社大学卒業後、株式会社マテリアルに新卒入社。1年目でウェブメディア『PR GENIC』を立ち上げ、記事の執筆と編集全般や、セミナーの企画など、コンテンツ作りを幅広く担当。半年間ハウスメーカーのマーケティング部への出向も経験。現在はオープンイノベーション支援に従事しつつ、外部アドバイザーとして編集のサポートを行っている。