PR費用0円で密着系テレビ露出を複数獲得!3つのポイントから見るChaptersのメディア戦略

ベンチャーやスタートアップ企業の成長要因として、広報・PRの重要性が高まっています。しかし一方で、特有の人的リソース不足やPR戦略・広報におけるノウハウが蓄積されていないばかりに、パブリシティの獲得ができず悩んでいる企業も少なくないのではないでしょうか。こうした状況の中、サービス開始前からメディアに取り上げられ、創業まもないスタートアップながら、ウェブや雑誌、テレビの密着取材など、多くのパブリシティ獲得に成功しているのが株式会社MISSION ROMANTICです。

同社は「本棚で手と手が重なるような偶然の出会いを叶える」をコンセプトにした、“本×出会い”のマッチングサービス『Chapters(チャプターズ)』を運営しています。今回は、代表取締役を務める森本萌乃さんに、PR活動で抑えるべき勘どころやマインドセット、PR費用0円でのテレビ露出やパブリシティ獲得のポイントについてお話を伺いました。

株式会社MISSION ROMANTIC代表/Chapters書店主 森本 萌乃
2013年、株式会社電通に新卒入社。プランナーとして従事したのち、My Little BoxやFABRIC TOKYOといった新進気鋭のスタートアップでパラレルキャリアを歩む。『Chapters』のプロトタイプ『MISSION ROMANTIC book』を1年間アナログで運用後、2020年12月1日「本棚で手と手が重なるように出会えるオンライン書店」『Chapters β版』をローンチ。2021年6月7日から『Chapters bookstore(チャプターズ)』のサービス提供を開始し、現在に至る。

大きなドメインで“自分が語られること”がパブリシティ獲得のカギ

ペルソナは自分自身。自を救うサービスを目指して

はじめに『Chapters』は、どのようなきっかけで立ち上げられたのでしょうか。

『Chapters』が生まれたきっかけは、私自身が仕事の傍らで素敵な出会いを求めてマッチングアプリを使っていたことです。利用する中で、既存のマッチングアプリは、肩肘張りながらお相手とやりとりを続けなければならず、自分の性格的に合わないと思っていました。ある種、成果主義というか、出会えなければ0点みたいなところに後ろめたさを感じてしまい…。

そんな風に考えていたある日、スタジオジブリの名作映画『耳をすませば』を観る機会があり、「この世界観こそ、私の求めていたものだ!」と思ったことから『Chapters』の構想が始まりました。なので、サービスのペルソナは、当時の私です。自分自身を救うサービスを作ろうとアイデアを巡らせ、2021年6月に正式版となる『Chapters』をリリースしました。

『Chapters』は、サービスをローンチする前の「α版」の頃からメディアに取り上げられていたとお伺いしました。創業間もないベンチャーやスタートアップ企業では、特にメディア露出の機会を得ることは容易ではないと思いますが、なにか意識的に活動されていたことはあるのでしょうか。

大きなドメインで“自分が語られること”を意識していましたね。情報発信をする際、リリースをはじめ、TwitterやInstagramなどのSNSや、noteを使うことが多いと思います。これはもちろん大事なことですが、どうしても“自分語り”になりがちで、メディア視点や時流が抜け落ちてしまう。そのため、私の場合は、当初から発信力の高いメディアで連載や寄稿ができるように動いたんです。自分でゼロから企画書を起こし、たとえば、連載の場合はサンプルの文章と各連載のテーマを全て書き出すなど、編集者が見てわかりやすいように心がけました。

この時に重要だなと思うのが、『PowerPoint』を使わないこと。期待感を持たせるために素敵な企画書を仕上げることも可能ですが、結局はゴールを共有できること、発信したい内容が解像度高く伝わることが、他社を巻き込み、企画を世に出す際に大切です。実は、今でも基本的にはパワーポイントを使わず、テキストとわかりやすい画(写真)のみで企画書を作っています。

このように、私自身がライターとしてドメインパワーの強い媒体で連載を持つことで、起業家としての活動や、『Chapters』としてやりたいことが、ネットの検索に引っかかるようになります。それらが何かのタイミングでメディアの編集者の目に留まり、取材獲得につながっているのだと捉えています。

メディアに取り上げられるようになってからも、ドアノック活動は欠かさない

具体的には、どのようなメディアで連載されていたのでしょうか。

はじめは、朝日新聞社が運営する『telling,』で連載を持たせてもらい、起業した経緯や本を通じて人と出会うマッチングサービスを始めたきっかけを、ロマンチックに記していきました。いくつかのウェブメディアで取り上げていただいた中で、『VOGUE GIRL』のオンライン版にもご掲載いただいたのですが、当時、同メディアで連載されていた『しいたけ占い』がちょうど流行ってまして(笑)。

今でも大人気な『しいたけ占い』ですが、当時はLINEで閲覧ができたんですね。そのため『しいたけ占い』の通知と合わせて、『VOGUE GIRL』に掲載いただいた弊社の情報がLINEで配信されたんです。その際に『しいたけ占い』を見に来られた多くの方に認知いただき、それまで細々成長していたサービスのウェイティングリストが一気に1,200名を超えました。プロトタイプでサービスを運営していた時期は、身近な知人に声がけをするなど本当に全てアナログで活動していましたが、こうしてドメインの強いメディア取材があってからは自然と認知度が高まっていきましたね。

編集者への認知拡大には大きく寄与しそうですが、ライター経験やメディアでの執筆経験がなかったり、営業の当たり先がなかったりする場合は、かなりハードルが高そうにも感じます。

アプローチは、シンプルにお問い合わせフォームからメールを送っています。ドアノック型の営業を恥ずかしがらずに行い、泥臭くやっていくことが大事ですね。加えて、『気持ちを込めてメールを書く』ことには留意する必要があります。コピペで送った文章は、受け手が人である以上簡単に見抜かれてしまいます。効率性を求めず、自分の想いが伝わるように熱量をかけて書くことが肝です。

ありがたいことに、最近では多くのメディアに取り上げていただけるようになりましたが、実は今でもお問い合わせフォームからメールを送っているんですよ。今日も先ほどメールし終えたところです(笑)。情報の内容によって、都度ご案内をお送りするメディアも変えていますね。会社には広報・PRという機能がありますが、駆け出しの段階で自社の魅力を知ってもらうには、代表が自ら『自分しかいない』という覚悟を持ち、成功するしないに関わらず、まずはやってみる姿勢が大切だと思います。思いのこもったメールの末尾が代表取締役だと、「お?本気だぞ?」って少しだけ興味をそそられませんか?

PR費用0円のテレビ露出、3つの成功理由

『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)や『セブンルール』(フジテレビ系)、『サンデー・ジャポン』(TBSテレビ系)といった密着系のテレビ取材もPR費用0円で獲得できたそうですが、その成功理由についてお聞かせください。

『Chapters』のようなスタートアップが立て続けにテレビ取材を獲得できたのは、「ウェブ上で自分を語らせておくことに集中した結果」だと思っています。テレビのディレクターには、本当に数多くの売り込みが来てると思うんです。ただ、私の場合は「自社を取り上げてください」と売り込みにいくのではなく、繰り返しになりますが、オンライン上の大きなドメインのメディアで“自分を語ってもらうこと”をひたすら考えていました。

加えて、テレビには「今と過去のギャップや、なぜ事業を始めたかのストーリーに興味を示しやすい」という特性があります。この特性を活かし、大手広告代理店の電通を辞め、パラレルキャリアで働いていたスタートアップでリストラを経験しながらも、ロマンチックに起業したという背景をなるべくオープンに発信していました。何かを手放した時、あるいは退路を断つ時に人は本気になれるので、そこの人間味やヒューマニティの部分は報道価値が高いんです。なので、人らしさが滲み出るようなちょっと恥ずかしいことでも、正直にさらけ出す方がテレビ受けしやすいのだと思います。私自身も、見られたい自分というより、現在進行形のダサさや切実さ・正直さを発信していくことは大切にしていました。

バックグラウンドを含めた多くの露出実績があったからこそ、リサーチ会社の目に留まり、テレビ露出の機会を得ることができたのですね。

そうですね。あとは、ベンチャーキャピタルや事業会社が主催するビジネスコンテストよりも、メディア主催のコンペやイベントに参加することが、テレビ露出につなげるための仕込みとして有用です。『ガイアの夜明け』に露出できたのは、同番組が主催する「オンライン企画会議」に応募したことがきっかけでした。そこで大賞を受賞したことで、密着取材につながったんです。イベント翌日からいきなりカメラが家に来て、結果O.A.までの9か月間一緒に過ごしましたね。

スタートアップだと、ビジネスコンテストに出場し、成果を上げることができれば、サービスの認知度は広まると思います。しかし、これをPR活動を軸に考えると、メディア主催のイベントに参加すれば、もれなく番組担当者とのパイプが作れたりします。すぐには露出につながらなくても、何かの拍子でお声がけしてもらえるかもしれないので、そういったアクションはおすすめですね。

KPIの設定や合理性は追わない、偶然の出会いを創出する体験設計

さまざまなマッチングアプリが台頭する中、メディア露出を得るためには、差別化が必須だと思います。やはり「本を通じた出会い」という部分が他のマッチングアプリとは大きく異なる点でしょうか?

そうですね。出会いまでのワクワク感や高揚感の醸成を意識し、直感やフィーリングといった数値化されない読書体験を追求しているのが『Chapters』の特徴です。他のマッチングアプリのように、成婚率や交際率といったKPIの設定や、合理性の追求は行っていないため、実は特にベンチマークなどもしていません。

本来、出会いは偶然生まれるものです。たまたま居合わせたイベントで意気投合したり、帰り道が同じ方向で会話が始まったりと、人と人が出会う瞬間は予期せぬタイミングで訪れますよね。『Chapters』では、こうした出会いの偶発性を大事にし、出会いそのものに喜びを感じ、気分が浮き立つようなワクワクを創出できるように心がけています。

また、サービスへのこだわりという部分でいうと、現役の書店員や出版社の方から、毎月厳選した文庫本をピックアップしてもらい、私自身が100ページほど読んで「もっと読みたい!」と思ったものだけを4冊選書し、ユーザーにお届けしています。さらに、選書された本が届いた時の喜びや嬉しさを創出するため、他の書店よりも質感の高いブックカバーや、ラッピングを使うなどの工夫もしています。

▲実際にユーザーに届くブックカバー

マッチングアプリだと、利用価値は「人との出会い」にありますが、『Chapters』の場合は、その前にまず「面白くて素敵な本との出会い」があります。もし人との良いご縁がなかったとしても、本との出会いがあることで敗北感が生まれにくく、サービスを継続して使ってもらう動機にもなるんです。あくまでユーザーの読書体験に重きを置き、「その先に人との出会いがあればいい」というスタンスで、これからもサービスを運営していたいです。

≪取材後記≫
現在、Chaptersのユーザー数は述べ3,000人を突破し、今後はさらにサービスのUI・UXをブラッシュアップすることや機能の拡充を図っていくとのこと。MISSION ROMANTICのPR戦略は、非常に参考にするべきものがあったのではないでしょうか。

 

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