皆さんは「性格診断」を取り入れたマーケティング手法をご存じでしょうか。『ディグラム診断』という性格診断を用いてマーケティング支援を行っているのが、ディグラム・ラボ株式会社です。「性格診断」というコンテンツが、どのようにマーケティングやビジネスで活かされているのか。今回は 代表取締役 木原 誠太郎さんにインタビューを実施し、近年の日本人の性格の変化から、性格診断のビジネスでの活用方法などについてお伺いしました。
ディグラム・ラボ株式会社 代表取締役 木原 誠太郎 統計学の専門家として、広告代理店などで調査を中心としたマーケティングを担当。その後、起業を経てサラリーマンに戻り、ミクシィに入社。様々な業務を担当する中で「性格診断」というコンテンツに着目し、『ディグラム診断』を軸としたディグラム・ラボ株式会社を設立。 |
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性格診断を統計で“見える化”する
―はじめに、ディグラム・ラボの概要について教えてください。
ディグラム・ラボは、私が独自に行った日本人の性格調査がきっかけで設立された会社です。当時、「あなたはこういう性格ですよ」という診断結果しか出せなかったものを、統計で“見える化”し、事業化/ブランド化につなげたものになります。つまり、日本人の性格や行動がどういったものなのかを、数値でわかるようにしたんですね。たとえば、「失恋を引きずる人はこんな性格の人だ」とか。こういった数値化できるデータを蓄積していきました。
また、ディグラム・ラボでは、「最少人数で最大の利益を出す」というコンセプトを立てています。そして、それを成し遂げるために、自分自身をタレント化すると決め、先述したようなデータを基に、性格についてさまざまな場所でお話をしました。結果、テレビへの出演を果たし、タレントとしての役割も担えるようになりました。
―それでは、ディグラム・ラボの軸である『ディグラム診断』とは、どのようなものでしょうか。
ディグラム診断を一言でいうと、「心理学と統計学を合わせた画期的な性格診断」です。ベースとなっているのは、心療内科医や臨床心理士などの間で非常に有名な性格診断である『エゴグラム』です。 皆さんの中にも、就職活動の際にSPIの性格診断を受けられた方が多くいらっしゃると思いますが、実はあれもエゴグラムに基づいた診断なんです。このように、世の中にある性格診断のほとんどがベースにしているエゴグラムを基に、数万人規模のアンケート調査や、対面による心理テスト診断(実証実験)を行い、改良を重ねて独自に開発したものがディグラム診断です。
エゴグラムの「CP(厳しさ)」「NP(優しさ)」「A(論理性)」「FC(自由度)」「AC(協調性)」を基準に診断される性格の波形パターンは、31種類あります。たとえば、「M型」の波形の人は“気が多い楽天家”、「W型」は“悩める合理主義”、「台形型1」は“模範的な優等生”と表現しています。
性格の変化はビジネスにどのような影響を与えるのか
コロナ前後で変化した日本人の性格
―『ディグラム診断』を用いて、長きにわたり日本人の性格を分析されてきたと思いますが、近年で見られた変化などはありますか?
コロナ前とコロナ後で変化がありましたね。正確には、日本人全体の大きな単位でみると変化はないのですが、若年層と年配者の細かい単位で地殻変動が起きたような状態です。まず、若年層、つまり10~20代くらいの特に男性において、非常にやる気がある人とない人の二極化が起きています。コロナという時勢を受けて、チャンスだと思って力を蓄えている人がいる一方で、諦めてしまっている層も一定数存在するようになりました。
また、年配者、特に「アクティブシニア」と呼ばれているような人たちも、劇的に性格が変わっています。これまで、エゴグラムでいう「NP(優しさ)」は、老化が進むにつれて上がっていく傾向にあったんです。「みんなで仲良く過ごしたい」という気持ちが強くなっていくのですが、今の60代の人たちはまだまだ物事に意欲的な人が多いです。よく言われている「人生100年時代」などの言葉も影響していると思いますし、現役の人が圧倒的に多い。ですが、先述したとおり、全体でみるとその割合なども変わっていないんですね。
統計のプロとして間違ってはいけないと思うのが、この結果を受けて「変化がありません」と言ってしまうことです。表面上は変わっていないけれど、中身は変わっていますということをしっかり伝えなければならないと思います。
生活者に刺さるコミュニケーションも変化する
―性格の変化を受けて、企業の活動や生活者へのコミュニケーションで気を付けるべきことはあるのでしょうか。
先述した若年層に起きている変化でいうと、とてもやる気のある層に富や情報などの一極集中がなされています。ディグラム診断の波形だと、「M型」や「台形型1」のような人たちですね。ひとつ例をあげると、マクレガーというアメリカの心理/経営学者が唱えた『X理論Y理論』という理論があります。これは、マズローの欲求5段階説をもとに、「人間は生来怠け者で、強制されたり命令されなければ仕事をしない」というX理論と「人間は生まれながらに嫌いということはなく、条件次第で責任を受け入れ、自ら進んで責任を取ろうとする」というY理論の2つの軸があるというものです。
これまで、XとYの人口の比率は2:8と言われていましたが、その比率も先述した性格の変化を見る限り、Xが減ってYが増えていると思います。今後、Xは3%くらいにまで減少するかもしれませんね。そしてその分、富や情報も集中します。その極化した状態で、97%のYの人たちに向けて、どのようなメッセージを出していくかは難しくなると思います。
―具体的には、どう難しくなるのでしょうか?
刺さらない広告や当たらないマーケティング施策が増えていくと思います。今までの成功法で打ち出しても、成功しないような世の中に変わっていくと思いますね。では、その状況が訪れた時にどのような発信をすればよいのかというと、しっかりと誰に向けたメッセージなのかを明確化して発信することです。「なんとなくこの辺りの人に届けばいいな」ではなく、「どの層に向けて、誰に届けたいのか」を考え抜いた文脈作りをしていかなければならないと思います。
ディグラム診断で広がるビジネスの可能性
得意とするのは“場の空気を読むコミュニケーション”
―それでは、ディグラム・ラボはどのようにビジネスに寄与しているのでしょうか。
ひとつ、コロナ禍において特に寄与している部分で言うと、「営業のセールストーク」が挙げられます。お客様とのコミュニケーションもオンラインが主流になり、営業のDX化も進んでいる中で、自分たちのアプローチに対してのリアクションが見えず、困っている企業の方が多くいらっしゃいました。そこで、ディグラム診断を活用した“DX化の波に乗ったセールスコミュニケーション”を打ち出したんです。
もう少しかみ砕いて説明すると、ディグラム診断でわかる波形を見れば、「この波形の人にどのようなコミュニケーションをすると相手が一番心地いいのか」がわかるため、その分析を用いて、相手とのコミュニケーションを作っていくという手法です。これはBtoBでもBtoCでも変わらないですし、仕事だけではなく、恋愛でも使えるものです。そのような、“場の空気を読むコミュニケーション”を最近得意としていますね。
―なるほど。実際にどのような依頼を受けることが多いんですか?
今依頼されることが多いのは、やはり「企業の社員さんがお客様とどう喋ればいいのか」だったり、「経営層が社員さんたちとどうコミュニケーションを取ればよいのか」だったり、そういったコミュニケーションに関する相談が多いですね。
ディグラム診断は“セールストーク”でどう活きるのか
―ご説明いただいた「DX化の波に乗ったセールスコミュニケーション」に関して、最近の事例があれば教えてください。
ある保険会社の営業セールストークで、ディグラム診断を活用した事例があります。これまでは、電話でアポイントメントを取ってご自宅にお伺いするスタイルが主流だった営業が、コロナの影響でお客様と会うことができなくなったと悩まれていました。そこで私たちが提案したのが、お客様とのLINEでのコミュニケーションです。
やり方としては、まず健康診断の見かけをした性格診断をお客様に行ってもらいます。そこで出てきた結果が、表向きの話のネタになるんですね。たとえば、「あなたはすごく優しくて、ノリが良い性格なんですね」と言うと、「当たっている!」もしくは「いや、それは合っていないですよ!」という具合に話が進んでいくと思います。そして、この裏側で、診断された性格を基に“この人に何を話せば保険に加入してもらえるのか”というトークスクリプトを準備するんです。
一例を挙げると、「この性格の人には、いきなり保険の話はせず、世間話や保険と全く関係ない話をしてください。この人は“商品”ではなく“人”で購入の判断をするタイプなので、商品の話はしなくて大丈夫です。逆に、相手から『なんの話をしに来たんでしたっけ?』と聞かれたら勝ちです。」というようなことを裏で指示します。これは、ディグラム診断でわかる波形の数だけやり方があるため、相手によって営業のトーク内容を変えてもらうんです。
企業規模が大きくなるほど、過去の知見からトークの勝ちパターン/負けパターンをきちんと把握されているので、私たちがやっているのは診断結果に基づいて「このようなアプローチをしてみてはどうでしょうか?」という提案ですね。答えはその会社にしかないので、それを掘り出すツールとして性格診断を活用している状態です。
性格診断マーケティングのNo.1としてこれからも進化し続ける
―ありがとうございます。それでは最後に、今後の展望についてお聞かせください。
私たちが最近掲げているのは、「サイコグラフィックマーケティングのNo.1」です。つまり、性格ベースのマーケティングでは、日本でNo.1だと自負しています。他に誰もやっていないということは大きいですが、ディグラム・ラボとして、さまざまな活用ができる性格診断というコアの部分を抑えているので、この分野に関しては圧倒的な優位性が取れているのではと感じます。あとは、どう見せていくかだったり、私たちの協力を求めていただく方に対してどう応えていくのかだったり、そういったところが今後チャレンジしていく部分かなと思います。
また、ディグラム・ラボを設立してから約10年間で、震災やアベノミクス、コロナなど私たちを取り巻く環境は激変しています。そうなると、言っていることは同じでも、実際の活動はどんどん変わっていかなければなりません。その変わり続ける姿勢は持ち続けたいと思います。
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。