コロナ禍で急加速するスポーツテック。最先端テクノロジーを活かしたファンコミュニティ形成とは

一部地域で緊急事態宣言が続く中、本日2月26日からサッカーJリーグが開幕します。新型コロナウイルス感染拡大により、外国人選手の入国が制限されるなど、大きな制約を受けているスポーツ業界ですが、スポーツビジネスはプロスポーツ興行やクラブ運営、グッズ販売などと多岐にわたり、特にスポーツ×ITの「スポーツテック」もここ数年注目を集めている領域です。

最近ではVR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった最新のテクノロジーを駆使し、まるで会場でスポーツ観戦しているような臨場感や熱気を味わえる、新たな体験価値を創造する動きも出てきました。去る2021年1月27日に開催されたTokyo Venture Conference 2021では、「2021年オリンピックイヤーに語る!コロナ禍で急加速するスポーツテックについて」と題したセッションが行われ、スポーツテックを代表するプレーヤーが集結。各スポーツ界の一線でビジネスを行う登壇者らが、スポーツテックのリアルについて議論を深めました。

プロスポーツチームが受けた新型コロナの影響

リーグ戦が中止となり、チケット収入が見込めなかった

野球やサッカー、バスケットボールなど、スポーツの競技を問わず「試合観戦」はまさに最高のエンターテイメントを体験できるものです。一方で、プロスポーツチームを運営する企業側にとっても、ファンがスタジアムに足を運ぶことで得られる「チケット収入」は、メインの収入源として位置付けられています。

しかしながら、新型コロナウイルスの世界的な流行によって、スポーツ業界を取り巻く状況は一変。一時期はリーグ戦がストップし、試合を行うにしても人数制限を設けた形での実施となるなど、チケットによる入場料収入が大幅に減ってしまったチームも少なくありません。

Jリーグ(J2)加盟の「水戸ホーリーホック」を運営する小島氏は、コロナの影響により観客数が大幅に減ったことについて言及しました。

「昨年はコロナの影響で、リーグ戦の試合開催を4か月ほど延期せざるを得ない状況でした。幸いにも、地元の水戸に根ざしたサッカークラブチームとして運営していたため、試合開催中はファンの方々にもよくスタジアムまで足を運んでいただいていました。しかし、4か月ほど試合が止まったことで、述べ4,000人以上がスタジアムからいなくなってしまった。チケット収入も減り、旧来のクラブ運営のやり方では未曾有の事態を乗り越えることはできません。そこで、スタジアムから足が遠のいてしまったファンの方々に戻って来てもらうべく、現在は色々なことにチャレンジしています。」

影響はスポンサー企業からの支援にも及ぶ

Bリーグ(B1)加盟の「横浜ビー・コルセアーズ」を運営する平野氏も、同様にチケット収入の減少に触れつつ、思わぬところにも影響が出ていることを明かしました。

「コロナで試合が中止となり、チケット収入も約50%減少しました。加えて今回のコロナ禍で改めて気付かされたのは、“スポンサー企業の優先順位”。要はこういった有事の際に、スポンサー支援をしてくれる企業側も、資金繰りを考えた上でスポーツクラブへの支援の打ち切りを行うケースが多くなります。そのため、我々クラブチームを運営する側からすれば、“どうすればスポンサー支援を続けてもらえるだけの魅力を感じさせられるか”が非常に大事だと考えました。」

チケット収入やスポンサー収入、グッズ収入など、これまでプロスポーツクラブチームの運営を支えてきた収益基盤がコロナ禍によって揺らぎ、抜本的に変革しなくてはならない状況に立たされていることを知る機会となりました。

ファンとチームを繋ぐスポーツテックの可能性

スポーツテックで新たに注目されるファンコミュニティのあり方

そんな現場のリアルな声がある中、スポーツテックの文脈で新たな収益性を見込めるサービスとして白羽の矢が立ったのが『Engate(エンゲート)』です。

ファンがスポーツチームやアスリートに対して、直接“応援する気持ち”を「ギフティング(投げ銭)」という形で届ける、今までにないスポーツ×ITのサービスとして、プロスポーツチームを中心に導入されているとのこと。同サービスを運営するエンゲート株式会社の城戸氏は、「世界にも例を見ないサービスを展開していて、コロナ前と比較して導入いただく企業数が2倍になった」と説明しました。

「ファンが応援するチームの『勝利』や、ファインプレーしたときの『賞賛』など、素直な気持ちをそのままデジタル上でギフティングとして贈る仕組みは、チームやアスリートにとって励みになりますし、新しい収益源としても可能性が広がります。コロナ禍でファンとプロスポーツチームとの関係性が希薄になったことから、オンラインでファンのエンゲージメントを高めたいと考える企業からお引き合いをいただくケースが増えました。現在、プロ野球では阪神タイガースに、またJリーグではJ1・J2合わせて9チーム、Bリーグは18チームにEngateを導入いただいており、オンラインでファンとのコミュニティを形成しようと画策するチームが増えてきている状況です。」

デジタルコンテンツでファンとの一体感を醸成する

Engateという最先端のスポーツテックを生かし、新たな取り組みを模索しているのが「水戸ホーリーホック」と「横浜ビー・コルセアーズ」です。まず、水戸ホーリーホックは「サポーターの声に応えたい」という想いのもとで、Engateを運用していると小島氏は言います。

「試合が開催できない状況の中、サポーターの間でも“何らかの形でチームを支えたい”と思っていただけていて、こういった声になんとか応えたいと思いEngateを導入しました。まだまだ道半ばですが、試合だけでなく、デジタル上でもチームの魅力を伝えたり、ファンの方々に応援してもらえたりするように、色々と試行錯誤しながらやっていますね。ただ、東京とかに比べ、地方ゆえのテクノロジーへの対応に苦慮しているのも事実。また、試合とスポーツテックをうまく融合しきれていない部分もあるので、どういったコミュニケーション設計が効果的なのかは、まだ模索している段階です。」

一方で、平野氏は「最先端のスポーツテックと、どう連携してやっていくかが課題」としつつ、次のようにスポーツテックの可能性を述べました。

「これはスポーツ業界全体に言えることですが、他の業界に比べてまだまだアナログの人材が多いと感じます。スポーツ×ITや最先端のテクノロジーを取り入れようにも、どう運用すれば効果を得られるのかが掴めないと、スポーツテックを導入しても結果が見えてこないでしょう。業界全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるために、スポーツテックを提供する企業と足並みを揃え、伴走してやっていくことが何より大事なのかもしれません。」

スポーツテックを通じてクラブ自体を“メディア化”する

試合の“スキマ時間”を生かした新たなエンタメ体験

他方、スポヲタ株式会社の家徳氏もスポーツテックサービス『Play Live』を運営しており、コロナ以前から「新しいエンタメの価値提供」ができるものとして注目を集めていました。

「試合前の時間やハーフタイムなどに、会場にある『大型ビジョン』と『観客のスマホ』を連動させたゲームコンテンツを導入することで、会場一体を巻き込んで新しい体験価値を提供できるサービスです。試合の切れ目に生まれる“スキマ時間”に着目し、試合観戦以外にも何か楽しめるコンテンツはないか考えたことがきっかけでサービスが生まれました。これまで日本プロ野球やJリーグ、NBA Japan Gamesなどで導入いただいており、来場者はスマホ1つでゲームに参加でき、スポンサー企業もロゴを表示させることで新たな広告枠として利用できます。コロナ禍になってからは、オンライン観戦で導入いただくケースも出てきており、スポーツテックの可能性を感じてもらえる機会が確実に増えたと感じています。」

また、家徳氏は日本とニューヨーク双方にオフィスを構えていることから、日本のみならず欧米のスポーツ業界のトレンドも追っているとのこと。セッションでは、コロナで変わった2つのトレンドとして「野球(MLB)はスタジアムへ足を運ばなくなったこと」と「スポンサーの予算がなくなっていること」を挙げました。

「コロナが流行したことで、旧来のようにスタジアムへ足を運ぶファンが明らかに減少しました。チーム側も『ファンがスタジアムへ来ないことを前提』にした上で、スマホやタブレットといったセカンドスクリーン上での体験を重視しているように感じます。また、スポンサーする企業も、ただプロスポーツだからとスポンサー費を出すのではなく、今後は費用対効果がしっかりと可視化できることを求めるでしょう。他にも面白いところでは、セカンドスクリーン上での新たなコンテンツとして、『スポーツベッティング(スポーツ賭博)』が盛り上がる兆しも見られますね。」

試合観戦以外の場面でもエンターテイメントを提供する

コロナによってさまざまな変化がもたらされたスポーツ業界。セッションの締めくくりとして、スポーツテックの可能性について議論がなされました。

城戸氏は「コロナによってデジタル化したものは、その後も戻らないと思っています。ファンとアスリートあるいはクラブチームのあり方が変わり、スポーツを取り巻く環境はどんどん進化していく」と語り、また同様に平野氏も「コロナという外部要因によって、クラブ側もファン側も、スポーツテックを通じたファンコミュニティの形成は今後さらに加速するとみています。SNSや映像、動画配信、クラブ自体がメディア化できるように取り組んでいきたい」と、新しいクラブ経営を目指す抱負を述べました。

そして小島氏は、「スポーツテックの波が広がれば、試合以外のコンテンツもどんどん増えてくると思います。サッカーや野球、バスケットボールなど競技スポーツの試合観戦の楽しみといえば、試合の行方を決める攻守攻防のプレーや、会場が一体となる臨場感を味わえることです。しかし、こうした試合観戦以外にも魅力的なコンテンツを探すために、各クラブを運営する企業同士、競争がより激しくなるのではと予想しています。デジタルとリアルの両方を踏まえたコンテンツ創出のために、トライ&エラーしながらクラブ運営を行っていきたい」と話し、スポーツテックを生かしたコンテンツづくりが求められる時代の到来を予見させる形となりました。

プロスポーツ選手が魅せる圧巻のプレーや、思わず息を呑むほどのゲーム展開、応援しているチームが勝利した時の最高潮に達するボルテージ。エンターテイメントとして今後も人々を魅了するであろうスポーツに、テクノロジーの力が加わることで、まだ見ぬ新たな感動体験や熱中できるコンテンツが生まれるのではないでしょうか。今後も伸びしろのあるスポーツテックの動向に目が離せません。

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