企業(ブランド)がメディアを通じて社会とより良い関係を築いていくためには、メディアへの深い理解と、報道関係者との日頃の付き合い、また広報部門と記者との信頼関係構築が欠かせません。日本中の全メディアを理解しようとすると、どれだけ時間があっても足りませんが、各企業の広報部門が担当する産業分野に限って言えば、それほど多くのメディアがあるわけではないと思います。まずは、担当の産業分野の中でも特に重要視すべきメディアに絞り、そのメディアの編集方針や、対象としている読者層などをしっかりと把握した上で、良好な関係づくりを目指しましょう。
メディアリレーション・パーフェクトガイド第1弾となる本記事では、メディアリレーションを1から学びたい方々に向けて、情報流通構造の最上流にいる「新聞記者」の、仕事の流れや関心ごとについて解説していきます。
CONTENTS
新聞記事はこうやってできている
新聞大国の日本では新聞起点のニュース伝達が欠かせない
日本は「新聞大国」と言っても過言ではないほど、新聞が多く読まれている国です。
「いまさら新聞なんて!誰が?どれだけ読んでいるの?」と思われる方も多いかもしれません。たしかに新聞の発行部数は、年々減少傾向になってきていますが、発行部数が減ったからと言って、読者が減っている、またメディアの影響力も弱くなっている、というわけではありません。新聞記事を様々なスタイルで読む人が増えているだけなのです。新聞“紙”は読まなくとも、ヤフートピックやブログ、またSNSなどで新聞“記事”を読む機会は、むしろ増えています。
また生活者の新聞記事への信頼度は、他のメディアと比較しても非常に高いのが現実で、全国規模での新聞の影響力、また世論への影響が高いことも証明されています(情報通信研究所2016年「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」メディアの信頼度調査1位新聞70.1%2位テレビ65.5%3位インターネット33.8%)。時差も宗教による宗派の違いもなければ、言語の違いもない日本では、全国で毎朝確実に自宅に新聞が届けられており、全国の新聞宅配率はなんと95.29%もあります(一般社団法人新聞協会平成28年調べ)。
全国新聞は朝日、毎日、読売、産経、日経の5種、経済紙は5種、ブロック紙は4種、地方紙(県紙)は59紙の、計73種が毎日発行されています。それぞれの県には最低でも一種の県紙があり、その購読率は60%を超えるものから、沖縄のように90%を超えるものまであるため、絶大な影響力を持っていると言えるでしょう。また日刊発行のすべての新聞を合わせると、1日の発行部数は4000万部を超えると言われており、1億2千万人口の成人に対する閲読率は非常に高いことがわかります。
この発行部数の多さは、アメリカやフランスなどの諸外国と比較しても明確です。この事実からも、日本では実に多くの人々に共通の新聞が読まれていて、情報伝達力が非常に高いメディアであることがわかります。また先述した通り、最近は新聞紙を読まずとも、ネット上で新聞社発表の新聞記事が多く読まれています。インターネットの流通構造の中で、各新聞社発表のニュースが自動転載されているため、情報発信の戦略設計を行う上では、新聞起点のニュース伝達が欠かせないのです。
新情報が記事になるまでの流れ
新聞社の組織の中にある記者クラブには、地方支社の記者や、海外に派遣されている記者など、多数の記者が所属しています。中でも日本経済新聞社は、経済分野の記者を多く抱えて、企業報道部、産業部合わせて200名以上の記者を配置しています。また全国新聞社は、東京、名古屋、大阪、九州の各本社制を取っており、それぞれの本社から毎日朝刊と夕刊を発刊しています。
現場の記者から送られたニュース原稿は、本社のキャプテン(通称キャップ)に届けられ、その原稿をもとに事実の裏付け調査や発表タイミングの打ち合わせが日々行われています。その後完成した原稿は、部の責任者であるデスクを経て整理部に回り、そこで初めて記事原稿に見出しが付けられます。ここで付けられる見出しの大きさと紙面の掲載レイアウトによって、記事の重要度が格付けされます。記事の格付けは、グルメガイドのランキング同様、見出し文字の級数や紙面に占める大きさによって判断できます。
また整理部では、レイアウト構成によって記事原稿の後半から終わりまでの部分をカットすることもあります。これはつまり、新聞記事は「5W1H」のスタイルで、結論を先に表現するよう編集されていることを示しています。ニュースの重要な要素は冒頭から順番に述べられているため、後半部分をカットしても記事の文脈には大きく影響しません。
公式情報を提供する企業広報から発信されるニュースリリースも同様に、起承転結の文章構成ではなく、冒頭で結論を述べています。また記事の全文を読まなくともそのニュースの全容が分かるように、各センテンスに見出しが付けられています。
新聞原稿印刷の〆切
整理部を経て、記事原稿は校閲を受けます。日本語の正しい使い方、表現方法、正式名称、専門用語の使い方…など、徹底した原稿チェックを受けてから、印刷工程に回されます。朝日新聞朝刊の場合、早い〆切から順番に11版、12版、13版、最終版の14版と、順次印刷所から遠い順番に仕上げていきます。そのため、スクープは当然最終版に載ります。
一方日経新聞では、スクープとなるような話題の記事は、夕方6時に電子版から先に発信されます。今までは最終版の〆切以降では、後追い記事が印刷できませんでした。しかし各社の「デジタルファースト」方針への転換により、最終版での掲載に先駆けて、夕方早い時間に電子版でスクープ発表するように変化しました。
各社の締め切り時間は、おおよそ横並びです。これは降版協定と呼ばれる紳士協定によるもので、スクープ合戦への歯止めとして、最終版の〆切を深夜25時ごろと定められています(ただし国政選挙や国際紛争、政権の重大発表などの特例を除く)。
朝日新聞の場合は、東京、名古屋、大阪、西部の4本社体制で、それぞれの朝刊を発行しているため、
〆切に応じて各社から同じ日付で4種類の朝刊が発刊されています。つまり全国では、毎日16種類もの朝日新聞朝刊が発刊されているのです。
通信社の役割
続いて通信社とは、新聞社の組織から広告部と印刷部門を省いた組織のことを指します。取材した記事や画像を加盟社に配っているのが、一般社団法人共同通信社、地方新聞やテレビ局に記事や画像を有料配信しているのが、株式会社時事通信です。ニュースの卸問屋といえます。
通信社は、テレビ、新聞、ウェブニュースを通じて、世界中にニュースを伝える機能を備えています。なかでも強みを発揮できるのは、日常生活、教育、医療分野での評論です。一つの記事が多数の地方紙に配信されることで、全国にくまなくニュースを届けることができます。
共同通信社の編集委員兼論説委員久江雅彦さんによると、「どんなニュースでも見出しが重要だ。見出しがすべてを語ることができる。企業広報であれ基本は同じで、公式情報の見出しは10文字前後で収めるべき。」と企業広報にアドバイスしています(公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会定例研究会での講演にて)。
また通信社は、日本から海外に向けて、公式情報の発信や取材誘致を行う窓口としても機能しています。アジアで言えば、中国韓国の在京支社が読売や朝日新聞の社内にあります。新聞社、通信社には日本語の話せるスタッフや日本人スタッフもいますので、海外に向けたニュース配信や情報提供、取材誘致に関しては、直接編集部に問い合わせることをおすすめします。さらに共同通信社は、2020年の東京五輪パラリンピックの国内公式通信社に指名されているため、大会のレポートを記事や画像で世界中に届ける重要な役割も担っています。
メディアリレーションでは記者の向こう側にいる「読者」を理解する姿勢が肝
全国新聞記者と日本経済新聞記者の違い
全国新聞と日本経済新聞社の記者を比較してみます。この2つには、入社してからのキャリア形成にちょっとした違いがあります。
朝日、読売など全国新聞社に入社すると、まずは地方の支局記者として配属されます。支局では地域の社会、経済、政治、警察…など、テーマを問わず取材活動を行い、地元地域の出来事なら何でも取材できるオールラウンドプレーヤーとして経験を積みます。その後、地方の支局から中央首都圏の出来事を見据えるようになり、いくつかの地方支局を経てから本社に配属され、経験と共に視野も広がるように成長していくのが、全国新聞社の主なキャリア形成です。
一方、日本経済新聞社に入社した記者は、産業グループの新人として配属されます。そのグループは、経験を積んだ先輩記者5名から10名程度で構成されており、例えば家電やアパレルといった産業グループの中で、専門知識を学びながら経験を積んでいきます。そのグループをいくつか経験することで、国内産業や経済に関する知見を重ねていくようトレーニングされるのです。
メディア媒体ごとの記者の違い
次に記者の考えていることを比較してみましょう。業界紙の新聞記者は、自分が担当している産業の現在と未来のことを考えています。日本経済新聞社にとっては、国内の上場企業の株価の安定と適正評価が、最大の関心事です。極端な言い方をすれば、新聞記者は新聞が売れることは考えていません。むしろ自分だけが知りえることができる情報、つまりスクープを気にしています。
一方、雑誌の編集者は何を考えているのかというと、「自分たちが出版する雑誌が売れること」を考えています。どんな編集企画が読者に響くのか?競合誌と違うトレンドを先読みした企画を常々考えています。テレビの制作担当者となると、いちばんに考えるのは視聴率のことです。テレビ番組にはそれぞれスポンサー企業がついているため、どれだけ視聴率を獲得できるかが命になります。
このように、新聞記者と雑誌編集者、またテレビ制作者の関心ごとや判断のよりどころは、それぞれ大きく異なることがわかります。
相手の立場や関心ごとまで気を配ったコミュニケーションがマスト
メディアリレーションの基本は、メディアを深く理解した上で自分を売り込み、記者との信頼関係を築いていくことです。
例えば、記者発表会場で記者と名刺交換する際に、どのように自身を売り込みますか?ここで自分の広報業務ばかりをしゃべっても「押し売り」になるだけなので、初対面の場ではちょっと場が和むような話題を挟むことが大切です。
なにが言いたいかと言うと、PRパーソンが記者と話すときや、自分を売り込みたいときには、「相手の記者によって関心事が違う」ことを肝に銘じる必要があるということです。むしろ記者個人と話すという意識より、その記者の背後にいる読者、オーディエンスを意識してください。相手とその背景のことを考えて会話するだけで、一気に記者との距離は縮まります。
メディアリレーション・パーフェクトガイド#1 のおわりに
『メディアリレーション・パーフェクトガイド#1』は以上になります。メディアについて、少しでも理解を深めていただけたでしょうか?次回公開予定の『メディアリレーション・パーフェクトガイド#2』 では、メディアリレーションの実践方法をご紹介。ニュースリリース作成のポイントや、掲載イメージを描くゴールイメージメソッドなど、メディアリレーションの構築に欠かせないノウハウを解説します。
また本記事の内容は資料としてダウンロードできるようになっておりますので、お手元の勉強材料としてぜひご活用ください。
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