クチコミの多い飲食店には”ストーリー”がある。離島キッチンから学ぶ、ファンを集めるお店づくり

飲食店に限らず、自分の店舗を持つ人なら一度は頭を悩まされる「集客方法」。生活者によるクチコミが有力な集客ツールとして機能する現代、店舗のSNSアカウント運用はもちろんですが、それ以上にお客さんにSNSに投稿してもらう=クチコミしてもらう工夫が求められています。今回はテレビをはじめさまざまなメディアで取り上げられ、Instagramでのハッシュタグ投稿も6000件を超える人気料理店、「離島キッチン」の日本橋店マネージャー・辻原真由紀さんに、広報活動における重要なポイントやこだわりを聞いてきました。
聞き手=田代順 / 文=森奏子

届ける相手のことをいちばんに考えた地域密着型の情報発信

店舗ごとにSNSアカウントは必ず分ける

離島キッチン

インタビューにご協力いただいた、離島キッチン日本橋店マネージャーの辻原真由紀さん

―はじめに、メディアやSNSで話題を集めている離島キッチンはどのようなお店なのでしょうか?

離島キッチンは、日本中の離島の食事や、その食の背景にある「文化」「歴史」「物語」を一緒に楽しめることをコンセプトに、現在神楽坂店、日本橋店、福岡店、札幌店、海士店の、全国5か所に展開しているお店です。島根県の離島にある海士店のみ、違う会社が運営しているのですが、私もいくつかの店舗のオープンに携わらせていただきました。

―お店からの情報発信で心掛けていることはありますか?

常に届ける相手(=お客様)のことを考えて情報発信することです。Instagramひとつを取っても、どのような情報が響くかは相手にとって異なるので、誰に向けて何をアピールしたいのかを必ず考えて投稿するようにしています。たとえば日本橋店だと働いているお客様が多いので、働く方々に響く伝え方を考え、神楽坂店であれば、より健康に良いものを食べたい、またもっと生活を豊かにしたいというお客様が特に多いので、そのような方々に響く情報の発信を心掛けています。

もともとSNSは、4店舗合同のアカウントで運用していたのですが、現場から「地域ごとのお客様に向けた情報発信ができない」という声が上がってきたんです。それ以来、店舗ごとにアカウントを持って運用することが、ひとつのSNS運用のルールになりました。

開放感のあるお洒落な内装が特徴

―日本橋店と相性の良いSNSはありますか?

日本橋店の場合は、InstagramよりもFacebookを見て来て下さるお客様が多いです。特にイベントの集客においてはFacebookが有力ですね。働いている方々は、Facebookを使う機会が多いことが理由かもしれません。他の神楽坂店、福岡店、札幌店はInstagramのほうが多い印象です。

もうひとつ、地域ごとにハッシュタグのキーワードが異なることも特徴です。日本橋の場合は、「#日本橋ごはん」「#日本橋グルメ」などといったキーワードで飲食店を探す方が多いので、地域ごとに異なるキーワードは特に意識しています。

広告宣伝にはお金をかけられない飲食店。どうすれば情報が広まる?

広告よりもクチコミやSNSを重視する広報戦略

―広告宣伝でお金をかけてやっているものはありますか?

なるべくお金をかけずに広報するためにどうすれば良いかを考えているので、お客様が自然に宣伝してくれることが一番理想です。そのため、お金をかけた広告や宣伝よりも、お客様のSNS投稿や口コミのほうが集客において重要だと考えています。

離島キッチンには、他のお店にはないテーマや、それぞれの料理に込められたストーリーがあるので、様々な媒体で誤った情報が伝わるよりも、自分たちでSNSを運用したり、お客様に感じたことをありのまま投稿してもらったりと、信頼できる情報のみ発信していきたいんですよ。

―お客さんにInstagramに投稿してもらうためにやっていることはありますか?

以前札幌店では、Instagramでハッシュタグを付けて投稿すると、裏メニューが無料で食べられるというキャンペーンを期間限定で実施しました。お客様がInstagramに投稿するきっかけをこちらで作ることで、新たな集客が得られるだけでなくお客様にも喜んでいただくことができます。

全面ガラス張りの入り口が目印です

―そのキャンペーンで実際にお客さんが増えた実感や効果は得られましたか?

私がホールに立つときには、「どこで離島キッチンを知ったのか」をお客様に聞くようにしているのですが、このキャンペーンを実施している時は「Instagramを見て」と言って下さる方が多かったです。お客様の数と共に、インスタの投稿数も増えていった実感がありました。

また離島キッチンは、ふらっとお店に立ち寄るというよりも、「島に行くのが好き」「離島出身」「SNSで見た」など、何かしらのきっかけがあってご来店されるお客様が多いです。だからこそ、お客様の自然なInstagram投稿を促すことで、新たなお客様の来店きっかけをつくることができていると考えています。

お店の特色を生かしたファンの獲得方法

日本の離島

―自治体とのイベントは具体的に何を行っていますか?

以前は、離島キッチンのことを知っていた東京都の方からお声がけをいただいて、2か月間日本橋店と神楽坂店でフェアを実施しました。

スタッフが様々な島を訪れて、1カ月間「今月の島」という特集をする月があります。このようなイベントを開催すると、その離島出身の方が来て下さったりするので嬉しいです。

お店のアピールポイントがお客さんに伝わるお店作り

島料理や食材の背景にあるストーリーをお客さんに伝える

離島キッチンのPR戦略

―お店全体を運営するにあたって心がけていることはありますか?

料理人の腕や味だけではなく、食材や料理の背景にあるストーリーを最大のアピールポイントにしています。島の食材には必ずストーリーがあると思っているので、例えばSNSで発信するにしても、「このレモンはどういうレモンなのか」というところまで踏み込んで伝えているんです。

離島キッチンでは、各スタッフが日本中の離島に食材探しの旅に出ています。離島にはどのような食材や料理があって、それらの背景にはどのようなストーリーがあるのか…、生産者の想いを聞いて、レシピや文化を持ち帰ります。ネットにある情報だけでなく、実際に作っている人の話を聞いて正しく理解した上で、お客様にもきちんと正しい情報を伝えることが重要なポイントです。

また離島に行って住民の方々に島の特産品を聞くと、何も出てこないことが多いんです。でもそこには、島の方々にとっては当たり前なだけで、島の方々が気づいていない価値がたくさんあります。そんな時には、家庭料理を食べさせてもらえるところや、民宿に泊まったりすることで、新たな発見や気づきを得ています。それに食材探しの旅に出るスタッフは決まっていないので、全スタッフが離島の文化や食材に触れられるようにしています。

ストーリーをお客さんに伝えるための3つの工夫

旬の食材を生かした、新聞風の日替わりメニュー表

―離島キッチンが大切にされている食材や料理が持つストーリーは、どうやってお客さんに伝えているのですか?

はじめに、必ずやっているのが、料理をお渡しする際にお客様とお話しをすることです。離島独自の料理名や食材が載っていたりすると、「これ何ですか?」と聞いて下さる方も多いので、メニュー説明の一環として、その料理や食材の背景にあるストーリーについて簡単にお話ししています。

もうひとつ行っているのが、メニュー表にストーリーを記載することです。お仕事などの関係で、お昼は時間がなくてゆっくりできないお客様が多いので、極力口頭の説明は少なく済むように、ストーリーをメニューに書いてしまっています。もちろん興味を持ってくださった方には口頭でもご説明しますが、お昼は夜よりも詳しめに解説したメニュー表を作ってるんです。

さらに踏み込んで伝えたい時には、生産者さんをお招きしてイベントを開催することもあります。基本的にはこの3段階で、お客様にストーリーを伝えています。

島の魅力をたっぷり堪能できる「島の立呑み」スタート

4月から始まった島の立呑み

―最後に、日本橋店の耳より情報を教えてください!

今月から「島の立呑み」を始めました。これまでは着席のみでしたが、お客様と近い距離で島について話せる場を作るために、この島の立呑みコーナー設けました。当面は水曜日と金曜日のみの開催ですが、今後毎日開催できるよう、現在調整しているところです。

飲食店経営にストーリーテリングの視点を

テレビをはじめとしたさまざまなメディアで取り上げられ、お客さんによるSNS投稿も多い離島キッチン。しかしその背景には、お金をかけた宣伝広告ではなく、強固なコンセプトに基づいて、常に「情報の受け取り手(=お客様)」のことを意識した広報戦略がありました。地域に特化した情報を提供することだけでなく、その地域の客層にまで着目してSNSの投稿内容を考えることや、時間のないお客様のためにお昼は夜よりも詳しめのメニュー表を用意することは、相手(=お客様)のリアクションから逆算して考えるPR発想そのものです。

また辻原さんがお話しした通り、情報過多な現代において、もはや広告のうたい文句よりも生活者の実体験に基づいたリアルな口コミのほうが重視され、購買行動や飲食店探しに大きな影響を与えています。そのクチコミが自然発生され、これまでお店を知らなかった生活者に来店のきっかけを与えられているのは、離島キッチンの店舗空間や料理にすべて「ストーリー」があり、お客様にひとつの離島体験を提供できているからに違いありません。一本筋の通ったコンセプトとストーリーテリングは、”写真映え”以上にInstagramに投稿したくなる要素のひとつになっており、目や情報に肥えている現代の生活者の心にも深く刺さっていることでしょう。

飲食店なら誰もがアピールしたくなる「味」や「シェフの腕前」だけでなく、離島の食材や料理が持つ「ストーリー」を最大のアピールポイントにしている離島キッチンには、飲食店経営に関わってる方だけでなく、すべての広報担当者やマーケターにとって、生活者と手を握るためのヒントがたくさん隠れていたのではいでしょうか。


■店舗情報

離島キッチン 日本橋店
ランチ :11:30-14:30(14:00ラストオーダー)
ディナー:18:00-22:00(21:00食事LO、21:30ドリンクLO)
ショップ:11:30-22:00
定休日 : なし
住所 : 東京都中央区日本橋室町2丁目4番3号 日本橋室町野村ビルB1F
東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅 A9出口直結
JR総武本線 新日本橋駅 徒歩3分(地下道直結)
TEL : 03-6225-2095

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