日本最大級の高さを誇る観覧車「OSAKA WHEEL(以下、オオサカホイール)。大阪・「ららぽーとEXPOCITY」のランドマークとして知られていますが、その裏側では「観覧車ビジネスの常識」に挑む、革新的な取り組みがおこなわれています。景色を楽しむだけではない、新たな顧客体験を創出するカギは「企業コラボレーション」です。
今回は、運営を担うEXPO観覧車合同会社のゼネラルマネージャー・三輪武志さんにインタビューを実施。なぜ、コラボに活路を見出したのか、そして数々の成功事例はどのように生まれたのか、その裏側について伺います。
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「一度乗ったら終わり」ではない価値を。観覧車特有の課題への挑戦
ーはじめに、オオサカホイールで企業コラボを始めたきっかけについて教えてください。
皆さんご存じのとおり、観覧車というのは、景色を楽しむことをメインとしたエンターテインメントです。しかし、四季によって見える景色は変わるものの、乗るという体験や楽しみ方は大きく変わらないことから、どうしてもリピートを生みにくいという側面があります。こうした課題を打破すべく、観覧車というアセットに何か別の価値を付け加えられないかと考え、たどり着いたのが他企業とのコラボでした。観覧車というエンタメ資産をベースに、まったく異なる要素を持ち込んで、新たな顧客体験を創出するという狙いです。
ーそれまでも、さまざまなイベントやサービス向上策を打たれていたと思います。コラボに舵を切る決定打となったのは何でしょうか。
私は、観覧車事業に取り組むまで、全国の集客施設の改善や事業再生に携わってきました。その経験から、観覧車という業態は、オープン景気で一時的に集客が伸びても、時間の経過とともにどうしても右肩下がりになりやすい傾向があると感じていたのです。その対策として、割引キャンペーンや来場者特典などでテコ入れを図る事例も多く拝見しましたが、一時的な効果はあっても、持続的な成果にはつながりにくいのが実情でした。そこで、違う角度からのアプローチとして、異業種のエッセンスを大胆に取り込む「コラボレーション」こそがカギになるのではと考えたのです。
鍵は顧客インサイトの深掘り。「18分間の特別な体験」をデザインする

EXPO観覧車 三輪武志さん
ーコラボ先はどのように見つけているのでしょうか。
方法としては、2つあります。ひとつは、社員やアルバイトスタッフからのアイデアを拾い、企画にできそうな商品・サービスを扱う企業へ直接連絡するパターンです。社内には、6人の正社員と40人ほどのアルバイト登録があり、日々の何気ない会話の中から、新商品の情報や流行り物をキャッチしています。そこから、面白そうなものをアイデア化し、提案につなげています。
もうひとつは、広告代理店経由でお声がけいただくパターンです。「オオサカホイールが、いろいろとコラボ企画をしている」と聞きつけた広告代理店の方から連絡をもらい、企画を一緒に作り上げています。このパターンで、高級ブランドとのコラボも実現しました。代理店と綿密に相談しながら、商品価値やブランドイメージをどう観覧車で体現するかを追求しています。
ー社内での情報交換からアイデアにつながるとのことですが、採用基準は何でしょうか。
「お客さまが観覧車に乗った後、どうかを、最も大切にしています。観覧車を降りたお客さまがどんな会話をし、どんな表情で帰られるか。それが鮮明にイメージできるアイデアは、実際にいい反響が得られることが多いですね。反対に、アイデア自体が斬新でも、お客さまの喜びがイメージできなければ採用を見送ります。もちろん、コラボ企業のメリットも重要ですが、お客さま体験の向上が最優先であるという軸はブレません。 が描けるか
この視点の重要性を痛感したのは、とあるスマホゲームコンテンツとのコラボです。「ゲーム内に登場する声優さんのボイスが聞ける観覧車」を展開したのですが、想定していたほどの乗車につながりませんでした。原因を探ると、特にターゲットとしていたファン層の方々が、ファミリー層でにぎわう「ららぽーとEXPOCITY」という環境のなかで、「企画観覧車に乗る姿を周囲の人に見られたくない」と感じていたことがわかったんです。お客さまのインサイトをもっと細やかに捉えられていれば…と、悔しさを覚えた企画でもありました。
常識を覆した「景色を見せない戦略」。数々の成功体験は社内への刺激にも
ーこれまで、数々のコラボ企画を実施されていますが、特に印象深かった企画はありますか。
立体パズル『はずる』を製造・販売する株式会社ハナヤマさんとの企画は、企業コラボの第1弾として非常に印象深いです。内容としては、観覧車の乗車時間である18分間を制限時間とし、下車までに立体パズル『はずる』を解くことができるかというものです。解けた方には、『はずる』をプレゼントするとともに、乗車料金をキャッシュバック。1か月半で、のべ26,000人が挑戦した人気企画となりました。
このコラボで狙っていたのは、「リピート利用の創出」です。実際に、景色よりもパズルを解くことがメインとなり、解けなかった方が「もう一回!」と、その日のうちに再乗車されるケースも多く見られました。この光景を目の当たりにし、「観覧車は景色を見るだけのアトラクションではない。まだまだ新しい楽しみ方を提供できる」と確信しました。
また「ららぽーとEXPOCITY」のテナントでも、『はずる』を販売していたのですが、コラボ期間中の近隣テナント特設会場での売上がエリアでトップになるという副次的な効果もありました。お互いがWin-Winになった事例として、企業コラボ成功の確かな手ごたえを掴むことができました。
ー反響の大きさでは、いわゆる「ホラー系」のコラボも話題になりました。
この企画では、ゴンドラの窓をふさいで、外の景色がまったく見えない状況を作り、映像や立体音響で恐怖感を煽りました。“景色を楽しむ”という観覧車の常識を覆したコンセプトは、多くの反響をいただきました。ホラー企画は、今でも常設的に展開しています。
ーそうしたコラボを重ねてきたことで、社内にはどのような変化がありましたか。
社員はもちろん、アルバイト含めて自分たちの仕事に対する自信と誇りが増したと感じます。誰もが知る大企業やハイブランドとのコラボ実績が増えると、やはり仕事に対するやりがいや責任も大きくなります。また、他企業の文化やサービスを間近で学ぶことは、スタッフにとって非常にいい刺激となり、人材育成の面でも大きなプラスになっていると思います。
成功の肝は「自社資産の可視化」と「リアルな提案」
ーコラボで新たな活路を見出したいと考えている企業は、まず何から始めるとよいでしょうか。
まず「自社の強みや保有資産の棚卸し」から始めることをおすすめします。ただ、社内だけで議論すると「自分たちの会社には特筆すべき強みなんてない」と、視野が狭くなりがちです。そんな時は、ぜひ第三者の視点を入れてみてください。たとえば、社外の人に商品やサービスを体験してもらったり、皆さんが働いているオフィスや工場を見てもらったりする。すると、自分たちでは当たり前だと思っていたことに価値を見出してくれることがあります。
あるいは、強みではなく「自社に足りないものは何か」を探すのも一つの手です。「うちにはこれがないから、それを持っている企業と組もう」という発想ですね。このように、まずはプラス面、マイナス面の両軸から自社を見つめ直すことが第一歩だと思います。
そこから、実際に提案するフェーズへ移った際には、“リアルを見せる企画書”を作ることを意識してください。たとえまだ実現していなくても、「御社と組めば、このようなアウトプットが実現できます」という完成予想図を具体的に提示するんです。事前にリサーチを重ね、可能であればテストマーケティングもおこない、相手が実現後のイメージを鮮明に描けるように工夫する。そうすれば、提案相手も「ここまで具体的に考えてくれているなら」と前向きに検討しやすくなり、メリットも理解してもらいやすくなります。
ー三輪さんが企業とコミュニケーションを取る際に、特に意識していたことなどはありますか。
先述のとおり、やはり“リアルを伝える”という点に尽きます。「オオサカホイールとコラボすることで、企業側にどのようなメリットがあるのか」を、具体的に細かく伝えることを意識していますね。オオサカホイールの強みは、「18分間」という時間と空間を生かした、体験型プロモーションをできること。一度乗車いただければ、その18分間は企業の商品・サービスの世界観に深く没入してもらえる。この“観覧車という密室だからできること”、逆に言えば、“なぜ、オオサカホイールとのコラボでなければならないのか”まで伝えることが重要だと考えています。
ー最後に、コラボ戦略を生かしたオオサカホイールの展望や、新たな挑戦について教えてください。
コラボ企画を数多く手がけてきたことで、成功事例だけでなく、失敗事例も含めた豊富なノウハウが社内に蓄積されてきました。今後は、コラボの知見をほかの企業や地域にも活かしてもらえるよう、情報発信を強化したいですね。実際に、当社がアドバイスをおこなった他社の観覧車では、「カラオケ観覧車」や「ホラー観覧車」といった企画が実現しています。観覧車に限らず、このような事例を全国に増やしていきたいです。
また、海外展開も視野に入れています。海外の観覧車というと、日本よりさらにスケールが大きいことも珍しくありません。そうした場所で、日本企業とのコラボや、オオサカホイールで生まれたオリジナル企画を展開できないか、可能性を模索しているところです。国内だけに留めるには惜しい企画がたくさんあるので、世界のどこかで、もっと大きな仕掛けができる可能性を探して、挑戦し続けたいと思います。
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◇常識を覆す“ありえない組み合わせ”で新しいコラボを生み出す方法
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インタビューライター・スポーツリサーチャー。新聞記者として27年間、取材と執筆に従事。2021年からオウンドメディアや雑誌で「価値を引き出す、ココロを紡ぐ」インタビュー記事を中心に執筆。競技団体の広報も行う。ケーキを相棒に大学院博士課程との両立中。