人と街がつながる“場づくり”って?駅と高架下に求められる街を起点とした考え方|『デザイン ば Vol.0』レポート

リモートワークが普及し、社会全体でさまざまな働き方・暮らし方が自由に選択できるようになった昨今。選択肢が広がったいまだからこそ、あらゆる場面で生活者に選ばれる「場づくり」が重要になっています。

そんななか、“働く場”を起点とした場づくりを手がける株式会社ヒトカラメディアが、「人と街をつなげる“場づくり”」について学び合うイベント『デザイン ば』を発足。地域で場づくりを実践しているゲストを迎え、さまざまな視点で事例を紐解く同イベント Vol.0のテーマは、「駅と高架下」。通勤や買い物で日々使う場所でもあり、オンとオフのスイッチポイントでもある駅と、近年新しい活用のされ方が広まりつつある高架下に焦点が当てられました。

本記事では、2024年6月25日にミカン下北 砂箱でおこなわれたイベント『デザインば Vol.0 〜人とまちをつなぐこれからの場づくり〜』の様子をレポート。働き方も暮らし方も変化し続ける時代の中で、求められる「ちょうどいい」場について、ゲストスピーカーである、株式会社JR中央線コミュニティデザインの宮城信太郎さんと、京王電照株式会社の角田匡平さんと一緒に考えていきます。

スピーカー
株式会社JR中央線コミュニティデザイン 宮城 信太郎
2004年JR東日本入社。ホテル事業、東京エリア開発担当、 東京駅、東京駅開発担当、高崎エリア担当を経て、2019年より高架下のコンテナ施設の運営やビールフェスティバルの開催など、JR中央線沿線におけるさまざまな取り組みを手がける株式会社JR中央線コミュニティデザイン(旧・株式会社中央ラインモール)に出向。 総務、経営企画を経て地域活性化を担当。
京王電鉄株式会社 SC営業部・ミカン下北運営責任者 角田 匡平
2011年に京王電鉄に新卒入社後、駅売店の運営を行うグループ会社に出向ののち、2013年に復職。開発推進部およびSC営業部にて沿線商業物件の管理業務を担当後、駅直結の商業施設の運営を担当。 2021年7月より『ミカン下北』の立ち上げに参画し、通称”実験区長”として運営業務に携わる。現在は、笹塚・下北沢エリアを中心に商業施設・複合施設を起点としたエリアの魅力づくりに取り組む。

ゲスト1:JR中央線コミュニティデザイン 宮城信太郎氏

「鉄道以外の情緒的価値」が駅の新しい定義に

株式会社JR中央線コミュニティデザイン 宮城 信太郎氏

第1部・事例紹介のパートでは、はじめに株式会社JR中央線コミュニティデザインの宮城信太郎氏が登壇。「駅の定義とはなにか?」という大きな問いを掲げ、講演がスタートしました。

まず、宮城氏は、今の駅は「綺麗でかっこいいもの」が主流となっていることについて触れたうえで、「昔の駅のように、地域とウェットな関係であることも必要ではないか」と述べました。たとえば、昔の駅には駅長が駐在しており、街のシンボルとして存在していました。皆さんも、街や市のイベントで市長の隣に座る駅長を見たことはないでしょうか。それほど、地域にとって駅長の存在は強く、その地に根付いたものでした。

また、駅といえば「待ち合わせ」の場所。その場所は人それぞれで、改札の前、ハチ公の周り、駅前のお店など、さまざまな待ち合わせ場所が存在しています。宮城氏は、それらの「待ち合わせ場所となる範囲」も駅のひとつと捉えていると言い、「駅長」や「待ち合わせ」のような“鉄道以外の情緒的価値”が、新しい駅の定義になっていくのではないかと説明しました。

そう感じた理由のひとつとして、宮城氏が東京駅に勤めていた当時、駅が100周年を迎えるタイミングで、生活者の方から「おめでとうございます」とたくさんの手紙をもらったというエピソードを挙げました。お祝いしてくれた方に話を聞くと、ほとんどの人が「東京駅」との思い出を持っていることが分かり、生活者にとって駅が擬人化されていることに驚いたと言います。

このように、駅=鉄道機能という大前提はありつつも、生活者にとってもそれだけが駅の価値ではありません。駅にまつわるさまざまな機能や感情を含めて駅と呼んでいくべきで、あらゆる要素をひっくるめたうえで駅が存在すべきだと述べました。

ポイントは駅員と協力し、地域の人とコミュニケーションが取れる施策にすること

続いて、そのような「駅の価値」を意識したうえで、宮城氏が取り組んできた事例が紹介されました。それぞれに共通しているポイントは「駅員と協力し、地域の人とコミュニケーションを取るような施策であること」だと言います。

事例①:にしこくおみやげプロジェクト

駅員が街の人から「にしこく(西国分寺駅)って、お土産がないよね」と言われたことをきっかけに始まったプロジェクト。駅員が自らお土産を企画・開発・販売した結果、おみやげが完売したという反響を呼んだ施策です。駅員のなかには、「モノを売ったことがない」「契約などをしたことがない」という人も多かったそう。しかし、お土産屋さんが作ったものではなく、その地域に根差した駅員が企画~販売までの一連を担ったことで、反響が生まれ、まさに駅としての役割を拡張できた事例です。

事例②:MAWASU STATION

生活者からいらなくなった服を回収する取り組み。当初の目標値だった5,000枚をはるかに上回る5万枚を回収しました。その中で印象に残っているのは、服を持ってくる時に、ほとんどの人が畳んで持ってきたことだと言います。宮城氏は「制服を着ている駅員には、たとえば警察官や消防士のような“妙な正しさ”が兼ね備えられている」と考えているそうで、生活者が駅を「特別な価値がある場所」だと感じてくれていることの証明になった事例だと語りました。

事例③:駅でのホップ栽培

駅員が育てたホップでビールを作り、「駅員がつくったビール」として売り出した事例。11か所の駅で現在も実施されています。駅員が毎日水やりをして育てており、その様子を街の人が見てくれていたり、一緒にホップの成長を見守ってくれたりしているそう。駅がただの通過点ではなく、“何か面白いことをやっている場所”として認識されていることがポイントだと言います。また、駅業務以外のところで地域の方との接点を増やすことで、駅員からもポジティブな声が上がっているそうです。

このように、駅の価値や役割に選択肢を持たせることで、駅が街の人とともにシームレスに活動できるようになると宮城氏は述べました。

本来の「駅員の役割」を掘り起こし、“街にとっての駅”であり続ける

さいごに、宮城氏は「駅はこの後どうなるのか?」という問いを提示。鉄道業としての究極の駅は、「無人で運営できて、人員を割かなくてもよい駅」としたうえで、それだけが駅の価値ではないと説明しました。鉄道120年の歴史のなかで見出してきた、鉄道業以外のさまざまな価値を、「鉄道業の効率化」を求めて失くしてしまうことにもったいなさを感じているのです。

それでは、駅は鉄道業以外の役割をどのように見出していけばよいのでしょうか。その答えのひとつとして、「鉄道以外の商売や暮らし方を駅が担えるようにしていくこと」が挙げられると言います。たとえば、効率化を求めて駅が無人になったとしても、地域のコミュニケーターのような人が駐在して、駅のあらゆることに対応できるようにする。そのような駅と街をつなぐ役割は、一定残していくべきなのではないかと説明しました。

そして、このような新しい取り組みが浸透していくかは、ここから10年くらいが分岐点だと言及。お客さまの安全を守るために「変化」よりも「維持」を求める鉄道・駅員に対して、どのようなコミュニケーションをとることで「変化」を受け入れてもらえるのか。宮城氏は、紹介した事例のように「お客さまから服を受け取ったことで、鉄道業務以外ができるようになった。さらにステップアップして、お土産を売ったりホップを育てたりすることで、街の人とのコミュニケーションが増えていった。」などの、小さな挑戦を広げていく仕組みを作ることが大切だと語りました。

ただ、このような駅員の形は、いまに始まったことではありません。駅長をはじめとした、もともとの「駅員の役割」に備わっていたものです。これからは、本来備わっていた「駅員の役割」を掘り起こしつつ、“駅がある街の効果”を模索し、駅が「街にとっての駅」であり続けるために尽力していきたいとまとめ、宮城氏のパートは終了しました。

≫後半『ゲスト2:京王電鉄 角田氏の場づくりに迫る』

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