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ゲスト2:京王電鉄 角田匡平氏
街づくりをベースにプレイヤーとユーザーが集まる生態系をつくる
続いて、京王電鉄株式会社の角田匡平氏が登壇。「高架下や商業施設の在り方」をテーマに講演がスタートしました。はじめに、個性的な飲食店を中心とした商業エリアと、遊ぶように働けるワークプレイスが同居する複合施設『ミカン下北』を立ち上げた背景について説明。角田氏は、京王電鉄が抱えていた4つの課題感として、①人口減少 ②テレワークの加速 ③自社誘致の枯渇 ④EC率の伸長と競争激化を挙げ、「乗降者数が減る時代の私鉄沿線事業が進む先」について言及しました。
これまで駅周辺では、人が集まる前提でさまざまな事業が組み立てられていました。しかし、乗降客数が減少しているいま、駅に人が来るという前提を考え直さなければいけません。駅から外に飛び出してインフラを築き、複層的事業にて街からの収益を増やすことが大切で、従来の「物件最適」ではなく「街最適と街づくり」を考えていくべきだと角田氏は言います。商業施設を使って、いかに街のなかで存在感を高めるのか。物件の中だけではなく、外で稼ぐこともセットで考え、そのためには何をすべきなのかを突き詰めたことから、『ミカン下北』の構想が生まれました。
角田氏が次に話したのは、街の魅力づくりと自社の利益を同期させていくこと。鉄道会社として、自社の駅の沿線に住んでいただけるよう、街の魅力や期待をあげることは大切です。そのために、街でビジネスをさせてもらいながら、街にも京王にも双方にお金が循環していく仕組みを生み出していく必要があったと語ります。
そして、「街への期待をあげる」をひとつのキーワードに、これまで街で事業を展開してきた企業や個人(=プレイヤー)と一緒に、魅力的な街を創造していく必要があると考えたそう。プレイヤーたちと作り上げたものをユーザーに展開し、「私もやってみたい」という人を増やす。その結果、ユーザーがプレイヤーになり、新しくできた取り組みがまたユーザーを呼ぶ…という循環で、プレイヤーもユーザーも増幅していくような場所をイメージし、これが『ミカン下北』のベースとなっています。角田氏は、それらの構想を経て『ミカン下北』では、「プレイヤーとユーザーが集まる生態系をつくる」というテーマが掲げられていると説明しました。
実装までのポイントは「場をつくること」と「ドライブする仕組みを入れること」
続いて、『ミカン下北』に欠かせないキーワードが「実験」であるとし、施設のコンセプトなどについて紹介されました。下北沢には、チャレンジャーを受け入れてくれるようなカルチャーや雰囲気がありますが、下北沢の外から来た人たちが「下北沢で何かにチャレンジしたい」となった際に、何から始めてよいかわからない・少しカロリーを使うといった課題感があったと角田氏は言います。
そこで、「実験」というキーワードを使い、チャレンジするハードルを下げ、“とりあえずやってみよう、失敗しても大丈夫”と思えるような空間を『ミカン下北』で用意。どのような人でも介入しやすい環境を提供することで、多くのチャレンジを生む施設となるよう設計しました。
次に角田氏は、このようなコンセプトを持つ『ミカン下北』を通じて、テーマとして掲げた「プレイヤーとユーザーが集まる生態系」をどのようにして作るのかについて言及。京王電鉄の基本的な考えとして、「プレイヤーと一緒に事業を起こしていく、プレイヤーの人たちが主体的にチャレンジできるようにしていく」というものがあると言い、プレイヤーが何かをしたいと思った時に、京王電鉄が持っているアセットを接続することで、大小さまざまなプロジェクトを起こす支援をしていきたいと述べました。ここでは、その際に必要な2つのポイントについて紹介していきます。
▮ポイント1:場を整える(『SYCL by KEIO』)
『SYCL by KEIO』は、街で活動する・したいプレイヤーが集まる拠点(ワークスペース)。「誰かの“やってみたい”が街とつながる」をコンセプトに、そのなかで出会った繋がりから新たな挑戦が生まれ、最終的に街に接続するところまで想定されています。また、さまざまな人同士が「出会う」ことにも重きを置いているため、単に挑戦につなげるきっかけとなるだけではなく、そこでできたコミュニティを温める場としても機能しています。
▮ポイント2:「仕組み」を入れる(『SHIMOKITA PLAYER’S COMMUNITY PROGRAM』)
場所をつくってコミュニティを温めただけでは、なかなか挑戦まで発展しないことも事実。そこで、『SHIMOKITA PLAYER’S COMMUNITY PROGRAM(以下、プログラム)』を取り入れることで、実現までドライブできるような仕組みを提供されています。プログラムは、「関係構築」「協創・実験」「実装・自走」の3フェーズが基本構造となっています。
♦フェーズ1 「関係構築」:下北妄想会議
「下北沢でこんなことをやったら面白いのではないか?」という提案から、さまざまな人の意見をかけ合わせて、みんなで妄想を重ねていくのが『下北妄想会議』。アイデアを出すことが目的ではなく、このような会議に参加することでさまざまな人が出会い、関係を作り上げていくことに重点を当てています。
♦フェーズ2 「協創・実験」「実装・自走」:studio YET
フェーズ1で生まれた妄想を実現するための仕組みとして、提供しているのが『studio YET』です。「下北沢で挑戦したい」と思っている人たちの背中を押せるようなプログラムで、実際にやるかやらないかは参加者側にゆだねられています。具体的には、企画の壁打ち相手として話したり、実現に向けて街のアセットとのプロジェクト化をコーディネートしたり、誰かの「やってみたい」を0.5歩前に進める支援をおこなっています。
情報・アイデア・人が集う、“まちのニーズを吸い上げる機能”となる
ここまで紹介してきたように、さまざまな取り組みをおこなっている『ミカン下北』ですが、活動を持続させるためには、利益につなげることも重要。そこで生まれたのが、『ROOOT(ルート)』というプログラムです。
『SYCL by KEIO』『下北妄想会議』『studio YET』は、「地域を面白くしたい企業や個人のコミュニティづくり」がメイン。『ROOOT』は、「地域発の新たなサービスを創出し、街の期待度を高める」ことに重点を置き、京王電鉄やその他の企業と共創しながら事業化を図るものです。下北沢以外の沿線全体にもこのプログラムを広げ、京王線沿線全体の持続的なエリア価値向上も目指しています。
一方で、『ミカン下北』のKPI(重要業績評価指標)としては、収益以外の部分で測れるものも重視していると言及。たとえば、妄想実験部(『下北妄想会議』に参加している人たちのコミュニティ)の人数や、SNSのフォロワー数・エンゲージメント数など、“図れる指標をまとめて、どこを重視していくのかを考えておく”ことが大切だと言います。そのような数値が、結果的に営業のKPIとしてどう反映されているのかを把握しておくと、他のエリアでも展開していきやすくなると述べました。
そして、角田氏はこれらの仕組みの全体像を提示し、場とプログラムの組み合わせによって、プレイヤーとユーザーが集い、増幅してくような循環を生み出せていると解説しました。
さらに、冒頭で述べたように、京王電鉄が駅の中だけでなく外でも稼いでいくためには、街でのポジショニングがとても大切だと言及。「下北沢で何か相談事があれば、京王電鉄や角田さんに相談してみよう」という空気感を街のなかでも作ることを目指し、情報やアイデア、人などが集まってくる状態をつくることで、“まちのニーズを吸い上げる機能”となることが重要だと言います。
街の中に場を持っていることで、街での存在感が強まり、街の人たちからの見られ方が変わる。それが京王電鉄、ひいては「駅」の強みや価値であると捉えているそう。駅・高架下を含めた商業施設の新しい在り方や価値観というのは、その場所を起点にして活動を起こしていき、それをまた新しいビジネスに接続していくことではないかとまとめ、角田氏のパートは終了しました。
トークセッション
第2部では、質疑応答を踏まえたトークセッションがおこなわれました。その一部を紹介します。
Q.『にしこくおみやげ』や『MAWASU STATION』など、さまざまな施策をおこなわれていますが、どのように地域や会社を巻き込んでいるのでしょうか?
A.宮城さん
駅長をはじめとする駅に従事する方々は、意欲的に協力してくださる方が多いので、「やりたいと言ってくれる人・層」をいかに巻き込んでいくのかは大切ですね。あとは、イベントを開催した際に、積極的に運営に携わってくれた人に声をかけるなど、そこの見極めを意識できるといいと思います。
Q.なにかを仕掛ける側の時間や資金にも制限があるなかで、どのようにゴール設定を設けていますか?
A.角田さん
下北沢の一連の施策にかけているリソースは1.5人。人が限られているなかで、我々が掲げているミッションとしては、施設全体の収支をよくすることと、施設外の部分で長期的な収益創出をいかに作れるかという2軸があります。そこに具体的な数値目標を設けているわけではなく、いまはまだ実験の段階で、それが上手くいくかどうかを図っているフェーズ。成功体験をたくさん生み出して、会社に対して「こういった取り組みが重要なんです」と提示していくことが直近では重要かと考えています。
Q.そもそも、プレイヤーとユーザーが自走できないのはどうしてなのでしょうか?また、京王がそのギャップを埋められるのはなぜでしょうか?
A.角田さん
まず、やりたいことがあっても何をしてどこに言えばいいのかが分からないという課題が往々にしてあると思います。必ずしも自走できないわけではなく、街のどういった人や組織を巻き込んでいいかが分からない人が一定いると思うんですよね。そういった人たちと街を繋いであげる役割が我々だと思います。また、我々がそのギャップを埋められている理由としては、そのような人たちを受け入れる場を作っているという部分にあると思います。場があることで、そこが入口になりやすいですし、「ここに行ったら何かできそう」という雰囲気をまとえている所以だと感じます。
Q.これからのチャレンジについて教えてください
A.
宮城さん
やはり、駅は「行くと面白い体験ができる」「常に何かが起きている」ような場所であってほしいなと思っています。そのためには、駅長や駅員をはじめとした駅に携わる人たちを巻き込んで、駅の規模に関わらず盛り上がるような仕掛けを作り続けていきたいなと思います。
角田さん
チャレンジしていきたいことは大きく3つあります。ひとつは、『ミカン下北』でチャレンジしているようなことを、他のエリアにあわせて変化させながら波及していくこと。もうひとつは、“ミカン下北を起点に新しいビジネスにつなげていく”形にすること。そして最後は、商業プレイヤーをインキュベートし、ともに事業成長を促していくことです。商業施設はどうしても収益優先で、チェーン店を入れるような動きになりがちです。いろんな駅に同じ店舗が入ることに対して、善し悪しのどちらもあると思いますが、駅やエリアが魅力的になるには多様な商業プレイヤーの存在と活力が必要です。いまは、店舗の下流(出店)の部分から携わっていますが、上流(起業・開業)の部分からしっかりと入り込み、商業プレイヤーを生み出していくような動きをおこなっていきたいです。
まとめ
より利用しやすく、暮らしやすく変化している駅や高架下。効率化が優先されていく一方で、ただの移動手段やそれに付随する施設という立て付けでは、生活者に選ばれる場としては不十分になる可能性があります。地域とどれくらい密接な関係が築けているのか。どの程度「街を起点として」考えることができているのか。駅や高架下が、街にとっての存在であり続けるためには、欠かせないポイントだということが分かりました。事例を通して、場づくりにおける勘所を学ぶことができた本イベント、ぜひあらゆる“場づくり”の参考にしてみてはいかがでしょうか。
1997年生まれの道産子。2020年に横浜国立大学を卒業し、株式会社マテリアルに新卒入社。新設のメディアリレーションチームに配属され、約1年間メディアの知識全般を深める。2021年6月より、『PR GENIC』の2代目編集長としてメディア運営を引き継ぎ、記事の執筆や編集業務に従事。新米編集長として、日々奮闘中。
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