『ゴールデンカムイ』編集、宣伝担当者が語る! 話題を呼んだ最終回記念企画の裏側とヒット作の共通点とは

担当編集が考える『ゴールデンカムイ』ヒットのポイント

「アイヌ文化」をテーマにした、リアルとリンクする“2度おいしい”コンテンツ

©野田サトル/集英社


常谷:『ゴールデンカムイ』は「アイヌ文化」という、ある意味センシティブな題材を扱っています。このテーマに着手する上で、気を付けていた・意識していたことなどはあるのでしょうか。

大熊当時、漫画業界を含め社内でも、「アイヌ文化」に関する知識・経験は蓄積されていませんでした。前例がありませんので、何か起きてしまうと怖いという考えももちろんありましたが、そこで諦めずに「まずは真摯にやってみよう」と考えるのが野田先生で、面白さに忠実でありたい我々ヤングジャンプ編集部としても、「これから知っていこう」「何かあった場合には誠心誠意謝ろう」という覚悟をもってスタートしました。

そういった覚悟をもって向き合えた結果、取材を行う上での人脈がどんどん広がっていき、良い情報をインプットするための良い体制を整えることができました。それも、作品の土台をつくる上でとても良かったポイントだと思います。あわせて、まだ他の方が手を付けていない目新しさがあったという部分も、『ゴールデンカムイ』の評価につながっていると思いますね。

常谷:文化を題材にすることで、私たちが生きているリアルの世界でも楽しめる、“2度おいしいコンテンツなのではと感じます。

大熊そうですね。おっしゃる通り、完全なハイ・ファンタジーではないので、漫画で読んだものを実際に体験できる強みはあると思います。以前、『渋谷道玄坂ゴールデンカムイ軒 supported by 渋谷百軒店ノ小屋』という、作品に出てくる料理を再現し、完全無料で提供するというイベントを宣伝部が主体となって行ってくれました。作品の世界と現実の世界をリンクさせることで、楽しめる幅が広がりますし、自分が実際に行動・体験することで作品がより面白くなるという流れを生み出せたのではないかと思います。

『ゴールデンカムイ』ヒットの裏側にあった5つの要素とは

常谷:『ゴールデンカムイ』の連載当初は、コアなファンが多い印象でしたが、いまでは誰もが知っていて、熱狂的なファンが多い作品となっています。この熱狂的なファンが増えていった理由やヒットの要因は、どういった部分にあるとお考えでしょうか。

大熊後出し的な解釈にはなってしまいますが、『ゴールデンカムイ』ヒットのポイントとして、以下の5つが挙げられると思います。

読者さんが共感しやすい普遍的な欲求が入っている
私は、「みんなが面白いと思うもの=人間としての欲求に応えている作品」だと考えています。たとえば、『テルマエ・ロマエ』という作品は、「お風呂に入ったら気持ちいい」「日本の文化が褒められていると嬉しい」という感情を醸成しますよね。『キングダム』という作品だと、「立身出世すると嬉しい」といった感情や、「友情」などの側面もあると思います。『ゴールデンカムイ』で考えると、「金塊」ですよね。「お金が欲しい」という普遍的な欲求がまず最初にありつつ、そこに「友情」や「愛情」、死にたくないという「生存欲求」が加わることで、より読者さんの共感を生みやすい作品になっているのではないか。そこが、ヒットしたポイントのひとつなのではと思います。

理解しやすいパッケージがある
現代の生活者は、「なんとなく面白いもの」ではなく、「より解像度の高いコンテンツ」を求める傾向にあると感じます。なんとなく甘いものではなく、ケーキ、それもイチゴが売りのショートケーキのようなニュアンスですね。一方で、『ゴールデンカムイ』は、序盤の予測不能な冒険活劇から始まり、徐々にさまざまな要素が入った欲張りな“和風闇鍋ウエスタン”※1 へと変化していきます。これは一見すると、要素が多すぎて解像度が低いようにも思えますが、野田先生の凄さゆえに、非常に調和のとれたパッケージとして、わかりやすい作品になっているんです。このように、読者さんがひと目で理解りやすい作品パッケージがあることが、ヒットに欠かせないポイントだと感じています。

※1:アイヌ文化、グルメ、冒険、ギャグ、サバイバルなど、さまざまな要素が合わさった上で、何が出てくるかわからないといった面白さがある作品という『ゴールデンカムイ』の惹句

漫画賞などの、見つけやすい名刺や肩書きをいただいた
メディアが飽和している現代において、作品を見つけ出すこと自体、ものすごく大変だと思います。その中で『ゴールデンカムイ』は、漫画賞やアニメーションなどの神風が要所で吹き、読者さんの入口が広がりました。野田先生が本当に面白いものを作ってくださったからこそ、さまざまな方が評価してくれたという側面が大前提で、その作品が名刺や肩書きを得て、生活者の方々が作品を探される時に目立ってくれた側面も、ポイントのひとつになっていると思います。

作品と読者の間に共通言語がたくさんある
いまは、生活者一人ひとりが「この作品のここが面白い」と気軽に発信できる時代なので、読者が“言語化して発信できる”というのは、大事な点です。たとえば「この作品は、このシーンが凄い」だったり、「あの後輩キャラってウザ可愛いよね」だったり、あらゆる場面を共通言語で語れることは、ヒットの要因につながっています。『ゴールデンカムイ』は、その共通言語が多いんですね。狩猟・グルメ・文化・ギャグ・ホラーなど、さまざまな要素からこの作品を好きになってくれた人たちが、自分にとっての共通言語で作品を広めてくれるという、良い循環が生まれていると思います。

時代との添い寝ができている
私たちの中で、時代と添い寝することでヒット作が生まれるという考え方があります。要するに、時代に適合するということですね。リサーチをしてみますと、2004~2020年まで15年連続でアウトドア業界が拡大しているらしく、これはデジタルの普及により「人間本来の欲求に基づく自然回帰の流れ」が起きていると推測されているそうです。『ゴールデンカムイ』の場合でいえば、こういったグルメ・サバイバルといった潮流とマッチし、時代とうまく添い寝ができたのではと思います。

ヒットのポイントを全体的に俯瞰して見ると、①と⑤は作品自体の面白さ、②と④は読者さんへの「面白さ」の伝わりやすさ、③は作品群の中からの見つけやすさと分類することができます。シンプルに言うと、これらのポイントが後出しで見つけ出せるほど、「“面白い作品を週刊で描き続けた”野田先生が物凄い!」という一言につきますね。

常谷:さいごに、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

大熊さまざまな情報が蔓延している世の中で、読者の皆さんだけでなく、作家さんや我々を含め、目線をブレさせずに生活することは大変だと思います。ですが、根底にある「自分が面白いと感じるもの」は、いつになっても変わらないと思うので、そういった自分の感覚を信じてこれからもさまざまなコンテンツを楽しんでいただきたいですね。

また、失敗を恐れている方が多いのではないかという部分に向けて、現在も失敗を重ね続けている自分としましては、失敗した先の成長がとても大切だと思っているので、恐れすぎずフルスイングでどんどん挑戦してほしいです。僭越ですが、私も作家さん方が面白い作品を出し続けていけるようフルスイングで編集サポートしていくつもりです。

野田先生に関しましては、常に普遍的で、先生ご自身も「これこそが面白い!」という確固たる意志を持って作品づくりをされている素晴らしい方ですので、次回作もぜひご期待ください!

最終31巻が2022年7月19日に発売されました。連載時から加筆もされており、無料公開でこの作品を読破された方でも、より一層楽しめる内容になっているかと思います。宣伝部としても、ささやかながらプレゼント企画や読者の皆さんにお楽しみいただけるものを用意しているので、ぜひお見逃しなく!


©野田サトル/集英社

\ゴールデンカムイ 最終巻・31巻発売中!/
著者:野田サトル

相棒、未来、誇り、同胞、家族、祝福、弔い、武士道。冒険・歴史・文化・狩猟グルメホラー・GAG&LOVE!
全て生かした感情闇鍋ウエスタン大団円の最終巻!!!!!!!

1

2

関連記事

  1. Z世代を射止めるカギは“共創”と“体験”。ノンアル/ローアル層を攻める『スマドリバー』人気の理由

  2. Withコロナは「地元の魅力再発見期」地域活性化のニューノーマルを探る

  3. 平成はメディアにとってどんな年だった?各々の視点で平成に13文字のタイトルをつけて振り返ってみた|第2回ジェニ会レポート

  4. 2019年ヒットアプリから考察する、アプリプロモーション成功のカギと2020年のアプリトレンド予測

  5. 広報×ライターのベストな付き合い方。歴25年のベテランライターが語る“取材獲得”への近道

  6. TikTokからトレンドが生まれる2つの理由。若年向けSNSマーケティングの注意点とポイントに迫る

  7. テレ東印のドラマはどう生まれる?あえて“流行りに乗らない”ドラマづくりを紐解く

  8. 月600万ユーザーの『RoomClip』が語る。今、住まい・暮らしに求められる5つのニーズとは