マイナビが提案する“座って働く”新しい価値観。PRアワードグランプリ『座ってイイッスPROJECT』の挑戦

昨年12月に授賞式が行われた、『PRアワードグランプリ2024』(以下、PRアワード)。PR GENICでは、アワード受賞作品の実施背景やPRポイントを紐解いていきます。2024年度の受賞事例シリーズ第2弾は、グランプリを受賞した『座ってイイッスPROJECT』です。

皆さんも一度は目にしている、立ってレジ作業をおこなう従業員の姿。「なぜ立ちっぱなしなのだろう」と疑問に思ったこともあるのではないでしょうか。そんな「立ちっぱなし問題」に着目し、同プロジェクトを立ち上げたのは、株式会社マイナビです。

今回は、プロジェクト担当者である、マイナビバイト プロモーションチームの鈴木里彩子さんにインタビューを実施。企画実施の背景から、企業へ導入を促すコミュニケーションポイント、「マイナビバイトが選ばれる理由」となる施策へ昇華できた要因について紐解いていきます。

PRアワードグランプリ受賞『座ってイイッスPROJECT』とは

ーはじめに、PRアワードグランプリを受賞した『座ってイイッスPROJECT』の概要について教えてください。

『座ってイイッスPROJECT』は、アルバイトの働き方改革の一環で「立ちっぱなし問題」に着目したことから、2024年3月にリリースしたプロジェクトです。具体的な内容としては、店舗でのレジ作業など、立っておこなうイメージがある業務に対して、オリジナルのイス「マイナビバイトチェア」を設置してもらっています。プロジェクトを通して「座って働く価値観」の浸透を促し、働き手には快適なアルバイト環境を、雇用側には人材確保や定着のきっかけを提供することを目指しています。

ーどのような背景から企画に至ったのでしょうか?

もともと、マイナビバイトとして、働き方改革に対して何か取り組みをおこなっていきたいと考えていたのですが、どこから始めていけばよいのかと悩み、着手できずにいました。そんななか、当社とお付き合いのある企業の方から、「海外の店舗では、座ってレジ作業をしていたけれど、日本ではなぜ立っているのが当たり前なんだろう。マイナビから施策を打って、日本にも浸透させられないのだろうか」と声をかけていただいたんです。

それを機に、あらためてリサーチをしてみると、欧米では座って働く文化が一定浸透していたり、韓国ではイスの設置が努力義務とされていたりと、海外ではかなり広まっている考え方だと判明。それらの事実から、「立ちっぱなし問題へのアプローチは、あらゆる働き方に対する課題解決への一歩になるのでは」と考え、プロジェクト化することに決めました。そのため、今回の『座ってイイッスPROJECT』は第1弾という立て付けで、これからもアプローチを変えながら、職場の環境改善などには着手していきたいと考えています。

「企業参画」と「生活者接点」の両輪で広がるプロジェクト

企業が導入したくなる2つのコミュニケーションポイント

プロジェクトで開発された「マイナビバイトチェア」


ー今回のようなプロジェクトは、いかにして企業に導入してもらうのかも重要ですが、どのようなアプローチをされたのでしょうか。

意識した点は2つあります。ひとつは、企業側への具体的なメリットを提示したことです。このようなソーシャルグッドな要素がある企画は、想いばかりが先行してしまうと、共感は得られても、具体的なアクションを起こしてもらうところまで、結びつきにくい場合もありますよね。その点などを考慮し、私たちは「求人応募の増加やアルバイトの定着率増加につながる可能性があること」「従業員フレンドリーな企業であると魅せられるため、ブランディングに寄与する可能性があること」など、具体的にどのようなメリットがあるのかを伝えるようにしていました。

もうひとつは、イスを新たに開発したことです。一方的に「アルバイトの人を座らせるようにしてください」というコミュニケーションだと、企業側が考えなければならない負担が増え、導入ハードルが挙がってしまいます。企画当初に調べた範囲だと、“アルバイト専用イス”と謳っている商品はまだなさそうでしたので、パイプ椅子メーカーの株式会社SANKEIさまとともに開発したのですが、そのおかげで企業側にも「導入してくださる場合は、このイスを置いていただくだけで大丈夫です」とハードルを下げた状態でアプローチできました。

ーいち企業ではなく、求職者と採用企業をつなぐ立場である貴社だからこそ、スムーズに進行できた側面もありそうです。

そうですね。その観点は、とても重要だったと思います。たとえば、「座って働いてもいいよね」という話は、いまに始まったことではありません。ただ、それをSNS上で個人が発信した場合、その矛先は企業に向きがちで、「企業が改善しないから」「企業が悪い」という意見が挙がってしまうことも往々にしてあるかと思います。しかし、企業側にも対応できない事情があるものです。私たちは、日々の活動を通して、双方の気持ちが理解できますし、それを踏まえたコミュニケーションができることは、大きな強みだったと感じます。

また、私たちが旗を振ることで、複数の企業と一緒に実施できたこともよかった点だと思います。プロジェクト自体がどれだけ素晴らしいものでも、特に今回のような施策だと、参画してくださる企業がいるか否かは非常に重要です。「他にも色んな企業が賛同してくださっているので、一緒にやりませんか?」という声かけができたことで、企業側も乗りやすい環境を生み出すことができました。その観点でも、導入ハードルはグッと下げられたのではないかと思います。

厚生労働省も賛同!意図的に生活者とのタッチポイントを作る

ー導入先としては、やはりレジ業務が多く発生するような企業が多いのでしょうか?

基本的には、レジ業務への設置が多いですね。ただ、立ちっぱなしの状況が発生する店舗であれば、特にジャンルの制限はしていません。たとえば、飲食店のホールスタッフの方は、お客さんがいる間は動き回っていることが多いですが、業務がない瞬間やお客さんがいない時間帯もありますよね。その一瞬でも腰を掛けられるイスがあれば、職場環境としては大幅な改善になると思うんです。実際に、寿司屋の大将が、カウンター内で使っている事例もあります。

あとは、警備など、ご高齢の方が多い職種でも活用してもらえると思います。日本は、就業者高齢化の社会なので、そこにアプローチできると、仕事の幅や年齢の制限が少し取り払われるのではないかとも考えていますね。ご高齢の方で、社会参画を通じて健康を維持し、働きたいという意欲を持っている方もいらっしゃいますが、そのような方々の仕事の選択肢の幅が増えればいいなと思っています。実は、腰を痛める形の労災が、社会全体で増えているそうなので、そういったファクトとともに、提案する企業のジャンルはどんどん増やしていきたいです。

ー導入初期の段階では、「やはりお客さんの目が気になる」という店舗側のコメントもあったと拝見しました。この課題感を解決するために、なにか施策などは打たれていたのでしょうか。

その点は、私たちとしても当初から課題視していた部分でした。この解決には、プロジェクト自体の認知獲得が重要だと感じていたため、プロジェクト動画を作成してCMとして放映したり、店舗で使ってもらえるチラシやステッカーの配布をしたりしました。まずは、プロジェクトと生活者のタッチポイントを増やすことができればと考えましたね。

実際に配布しているステッカー

また、直接的なアプローチではありませんが、厚生労働省にもプロジェクトに賛同いただき、ホームページで事例として掲載してもらいました。いまはまだ、事業者を中心に広がっている感覚ですが、生活者への浸透にももう少し力を入れていきたいですね。

2025年3月時点で242社での導入!“選ばれる理由”となる施策を目指して

ープロジェクト開始から約1年が経ちますが、導入企業数の増加や生活者からの反応など、どのような変化がありましたか。

導入企業数は、現時点(2025年3月)で242社に上っており、さまざまな企業の方に注目いただいています。一方で、生活者からの反響も、特段ネガティブな声はなく、プロジェクト自体にはおおむね良好な反応を示していただいています。ただ、先述したように、プロジェクト自体を知らなければ、実際にイスに座って働いているスタッフを見て、懐疑的な感情を抱く人も一定数いると思います。まずは、その感情を変えていくためにも、プロジェクト自体の認知度向上は急務の課題だと感じています。

ーその他で感じている成果などはありますか?

「マイナビバイト」のブランディングに寄与していると感じます。実は、プロジェクトの認知者・非認知者で比較すると、当社に対するサービス満足度がかなり異なっており、プロジェクト認知者の方が満足いただけているという結果が出ているんです。

また、このようなプロジェクトは同業他社との差別化になり、マイナビバイトが選ばれる理由にも繋がってきます。プロモーション担当としては、施策を通じてブランドの信頼を引き上げていくことも重要な目標ですが、その部分にはコミットできていると感じますね。生活者は、求人サイト自体にはあまりこだわりがないと思うので、だからこそ付加価値の部分で選ばれるにはどうすればよいのかを、これからも考えていきたいです。

ーさいごに、本プロジェクトにおける今後の展望についてお聞かせください。

プロジェクトとしては、社会的な認知度はまだ浅く、まだまだ伸びしろがある部分ですので、引き続きさまざまな施策を打ちながら、社内外を巻き込んでプロジェクト自体を大きくしていきたいです。また、本施策だけに限らず、マイナビバイトとして職場環境の改善や、「働く」に対するポジティブなニュースを届けていきたいと思います。

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