新型コロナが5類に引き下げられて1年、スポーツや音楽ライブ、野外フェスなど、さまざまなイベントが活気を取り戻してきました。近年のライブ・エンターテインメント業界はデジタル化が進み、チケット販売の「キャッシュレス化」や、電子チケットの発券による「チケットレス化」が浸透してきています。こうした状況の中で、急成長を遂げているのが、チケット販売サービス『TIGET(チゲット)』です。
2013年にサービスを開始して以来、着実にイベントやライブの利用実績を増やし、ユーザー数を伸ばしてきました。この10年間で会員数は130万人を突破し、30万件を超えるイベントに導入されるなど、「次世代プレイガイド」として頭角を現しています。今回は、TIGETを運営する株式会社grabss 取締役CMO TIGET事業本部長の前田裕司さんに、急成長の肝となったサービス設計やポジショニング戦略、そして、選ばれ続けるサービスになるためのポイントについてお伺いしました。
CONTENTS
主催・生活者の双方から支持される、次世代プレイガイド『TIGET』に迫る
“非効率なイベント業務”から生じるトラブルを防ぎたい!TIGETの挑戦
ーはじめに、TIGETのサービス概要や立ち上げた背景について教えてください。
2013年にサービスを開始したTIGETは、誰でも簡単にチケットの販売から予約、管理ができるイベントプラットフォームです。それまで、イベントやライブ時には、紙のリストで入場受付をすることが主流でしたが、その手間をデジタル化することでなくしたいという想いから事業をスタート。その後、ユーザーの利用拡大に伴ってさまざまな機能を追加し、イベント業務の効率化やチケット販売の促進に取り組んできました。
TIGETの原点は、代表・下平が開発したクラウドファンディング型芸人支援サービス『芸人ラボ※』のイベント運営を通じて、“非効率なイベント業務”に気づいたことです。たとえば、お笑いイベントでは「〇枚取り置きをお願いします」という依頼を、お客さんから芸人さんへ直接メールやSNSで連絡する“取り置き文化”というものがあります。取り置きの要望を受けた芸人さんは、イベントの主催者に共有するわけですが、どうしても伝言ゲームになってしまい、当日の受付で「チケットの取置きがされていなかった」というトラブルが発生していたのです。
さらに、受付スタッフは紙のリストでチケットを管理していたため、入場時に行列ができてしまうなどの問題も起こっていました。このようなアナログ作業を、ウェブの仕組みで解決しようと考え、できたのがTIGETです。ただ最初は、Googleフォームのように「あくまで無料で使える予約取り置きサービス」だったので、収益化にはつなげていませんでした。
※現在はサービス終了
“推し活×チケット”に潜在する生活者ニーズとは?
ー無料のサービスから、マネタイズをおこない、事業を大きくしていこうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
サービス開始初期の頃は、お笑い業界を中心にTIGETが使われていました。幸いにも、「無料でチケットの予約管理ができる」という利便性が重宝され、口コミで拡散されるようになったんです。そこから、イベントMCに芸人さんを起用することの多い、アイドル業界でも利用されはじめ、そのタイミングで生活者からも支持を得るために「SNSシェア機能」を導入しました。
SNSシェア機能とは、「TICKET(チケット)をGET(ゲット)する」というTIGETの由来にあやかり、「チゲットしました!」とXに投稿できるもの。近年はSNSを通じて演者とファンがつながり、双方向のやり取りが当たり前となっていることから、そのニーズを機能として導入したことで、チケットを販売する業界側だけではなく、生活者からもTIGETが支持されるように。そこから、チケットの取り置きだけではなく事前決済機能の実装にも踏み込んで、プロダクトを開発していくことになりました。2017年に事前決済機能をリリースし、本格的に事業のグロースを考えるようになってからは、徐々に取扱高も増加していきましたね。
10年で会員数130万人突破!TIGET急成長の要因は?
成長を支えた「いま」と「未来」の時流を読む力
ー10年間で会員数130万超、30万件以上のイベントに導入されるまでに成長した理由はどこにあるとお考えですか?
2020年のコロナが大きなターニングポイントです。ご存知のように、ライブやエンターテインメント業界は、コロナ禍で大きなダメージを受けました。当社も、イベントやライブの事前決済が主な収益源だったゆえに、コロナでイベント興行がまったくできない時期は、売り上げが10分の1まで減少するなど、非常に厳しい状態が続きました。
その当時、コロナがすぐに収束する気配もなく、先の見通しが立たない状況でした。私たちにとっても危機的状況でしたが、イベント主催者やアーティストなどの業界全体にとっても同じ。生活者にも社会にも閉塞感が広がる中でエンターテインメントが求められているとも感じました。リアルイベントができない状況で代わりとなるものはないかと考えた末、『TIGET LIVE』をリリースしました。幸いにも、今まで積み上げてきた信頼関係があったことから、お笑いやアイドルを中心とした多くの業界関係者やこれまでTIGETを利用したことがない方にも多く利用してもらえましたね。
一方で、コロナ以前にリアルイベントに参加していた理由や価値は何かと考えると、身体で音を感じたり、アーティストと同じ空間にいることだったり、周囲のファンと一体となることだったりと、リアルで得られる体験こそにあると感じました。その体験を配信で再現するのは現代では難しい。
しかし、その頃のTIGETが対応できたのは、小規模や中規模クラスのイベント。そこで、人気の野外フェスや多くのファンを抱えるアーティストのライブなど、大型イベントにも対応できるシステムにするため、TIGET LIVEのビジネスと並行して、TIGETのシステム改修も走らせました。コロナでリアルイベントができない間に、先々を見据えた対応ができたことは、成長の大きな要因ですね。
こうした事前準備が功を奏し、2023年には世界最大級のアイドルイベント『TOKYO IDOL FESTIVAL』でのチケット販売の取り扱いが決まりました。この実績を皮切りに、アーティストのHYが主催する地域密着参加型イベント『HY SKY Fes 2024』や、ファッションの祭典『SDGs推進 TGC しずおか 2024 by TOKYO GIRLS COLLECTION』、岡山の野外フェス『桃太郎フェス2024』など、さまざまなジャンルの大型イベントのチケットを取り扱う機会が増えていきました。
競合との差別化は「イベント主催者の収益最大化にコミットする」ことで図る
ー『Peatix』や『ZAIKO』といったチケット販売プラットフォームのほか、『イープラス』や『チケットぴあ』、『ローチケ(ローソンチケット)』といった主要プレイガイドなど、多くのプレイヤーがいる中で、どのように差別化を図ってきたのでしょうか。
チケットの販売方法には、ユーザー(主催者)自らチケットの販売・管理を行う「セルフサーブ型」と、専門スタッフがチケット販売におけるすべての業務を行う「委託販売型」があります。前者に該当するのがPeatixやZAIKOであり、TIGETもセルフサーブ型のサービスです。その中で、我々はライブ・エンターテインメントを強みにしており、Peatixはビジネスやセミナー、ZAIKOはクラブイベントと、それぞれのサービスで強みとしている領域が棲み分けされているため、そこまで明確な差別化を意識しているわけではありません。
他方、主要プレイガイドとの差別化は「主催者をどのようにエンパワーメントし、収益最大化に貢献できるか」という観点で図っています。プレイガイドは、会員に対してメルマガを配信し、売れたチケットの手数料を収益源にするというビジネスモデルが基本です。しかし、委託販売型のチケット販売なので、主催者が取得できる情報は、購入者の性別や居住地域や年齢などの基本的なものに限られてしまいます。主催者が、購入者の属性やどのようなイベントに何回参加したのかなどの「購買行動」を分析できなければ、継続した集客施策やイベントの企画に生かすことができないわけです。
一方、TIGETでは、チケットの購入データを主催者にお渡ししています。そうすることで、主催者が次のイベントを企画するときの参考になりますし、イベント来場回数の多いユーザーに絞ったアプローチやマーケティング施策の立案もしやすくなります。その点が、大きな差別化になっていると思いますね。
“主催者支援”を軸にイベントのあらゆる知見を提供し、選ばれ続けるサービスへ
ーイベント収益を最大化させるためのコンテンツづくりや、そのイベントを通して顧客に選ばれ続けるためのポイントについて教えてください。
大手プレイガイドは、数千万のユーザーを抱える一方、TIGETのユーザーは数百万と規模感が異なるため、コンテンツに関しては、イベント自体のクオリティが高いことが前提になりますが、TIGETとしては「どのように主催者を支援できるか」を念頭に置いており、イベント収益を最大化させるためのサポートをおこなっています。
たとえば、弊社のカスタマーサクセスチームでは、「チケット販売のノウハウや、イベントへの来場率を高めるTIPS」を提供しています。イベント終了時に次回のイベント告知を発表し、チケット販売を促すことでリピート率の向上につなげていくように、これまで培ってきたイベントの知見を主催者にも伝えていく。このような支援をおこなうことで、イベント主催者にTIGETを長く使ってもらえるように意識しています。
また、イベント収益を上げるためには「物販」も重要な要素ですが、「在庫コントロール」の難しさが課題となることが多いんです。イベントの来場者に応じて物販購入率を予測し、グッズ制作をおこなっても、売れ残ってしまえば大きな赤字になってしまいます。そのような課題を解決するため、イベントによっては「現地でのグッズ販売」だけではなく、「ECでの事前購入」が取り入れられてます。
TIGETでもこうしたニーズに応えられるように、『TIGET マーケット』というサービスを提供しています。事前に売れている商品を把握できれば、イベントまでに追加発注をする意思決定ができますし、当日販売分の在庫もコントロールしやすくなります。いかに機会損失を減らし、収益につなげていくかが大事になるといえるでしょう。
ーさいごに、TIGETの今後の展望について教えてください。
TIGETが目指すのは「ファンマーケティングの大衆化」です。イベント主催者がお金をなるべくかけず、誰でも簡単に活用できるイベントプラットフォームになれば、日本のエンタメ業界の活性化につながり、ファンも増えていくと思うんです。
加えて、今年9月からは『TIGET』のバージョンアップ版として、ドーム公演やアリーナ公演、野外フェスのような大型イベントに向けた委託販売型チケット販売サービス『MORE TIGET』を立ち上げ、大手事業者に対するサービス展開を本格化します。私たちの強みであるファンマーケティングやイベント全体の収益最大化への取り組みを拡げるにあたっては、規模が大きなイベントでの成功体験を作っていくことが重要であると考えているためです。日本のあらゆるエンターテインメントが成功を掴み取るご支援ができれば嬉しいですね。
主にwebメディアでの編集・執筆・取材を行なっており、ビジネスからライフスタイル、イベントまで様々な領域で記事を寄稿している。 趣味はダンスやDJ、旅行。