ローソン広報部大解剖!“年80回トップ取材”の実績に裏付けられた集・攻・守のカルチャーとは

今年、一般財団法人経済広報センターが主催する第39回企業広報賞において「企業広報経営者賞」を受賞したローソン。「年間80回以上のトップ取材」をはじめとする、社内外へ向けた活発なコミュニケーション活動について評価されました。仕組みや制度はもちろん、全社的な広報マインドの醸成や社内連携が強固でなければ、なかなか実現できない実績です。今回は、常務執行役員であり広報部長である楯 美和子さんにインタビューを実施。ローソン広報部の裏側に迫るべく、詳しくお話を伺いました。

株式会社ローソン 常務執行役員 コミュニケーション本部長 広報部長 楯 美和子
毎日新聞社、株式会社電通東日本での活動を経て、2016年に株式会社ローソンに入社。広告と広報、双方での経験を活かしながら、広報室長として活躍した後、2020年に執行役員、2023年からは常務執行役員も務めている。

ローソン広報部に根付く「集・攻・守」のカルチャー

メディア×エリア×社内部署の掛け算で役割を構成し、スピーディーかつ親密な連携に

常務執行役員 コミュニケーション本部長 兼 広報部長 楯 美和子さん


ーはじめに、ローソンの広報体制やその特徴について教えてください。

コーポレートコミュニケーションを司るコミュニケーション本部の中に、広報部と秘書部の2部署があります。広報部には私も含め13名が所属しており、このうち9名がメディアとの向き合いをしています。なかでも、“メディア担当制”を設けているのが、特徴かもしれません。たとえば「朝日新聞と日本テレビは〇〇さん」といった具合に、9名のメンバーがそれぞれ担当を受け持ち、日々担当メディアの方々とコミュニケーションを図っています。この制度がプラスに働いたのが、コロナ禍です。記者クラブやメディア各社に出向くことが難しかったため、オンラインのコミュニケーションに限定されてしまった広報担当の方も多いと思いますが、ローソン広報では、メディアの方々と各々が直接連絡を取れる関係性を築けていたため、大きな支障はありませんでした。

また、商品PRの観点から言うと、ウェブメディアとの関係構築を目指して、9名のうち4名はウェブチームも兼務して活動しています。たとえば「コンビニおにぎりの新商品情報」といった内容だと、経済・ビジネス系メディアではなかなか取り上げられませんよね。しかし、こうした商品関連の話題は、ネットでの広がりが売上にも影響を与えることが多い。そのため、ウェブメディアとのコミュニケ―ションや情報発信にも注力しています。加えて、「北海道地区は○○さんが対応する」というエリア担当や、「XX部の案件は○○さんが担当する」という社内の部署担当も各メンバーが担っており、“メディア担当×エリア担当×社内部署担当”という掛け算で各自の役割を構成しています。

ーそれぞれの役割分担がある中で、どのように広報業務を進めているのでしょうか?

私たちは、3つの漢字「集・攻・守」を掲げて活動をしています。1つ目が「集める」ことです。メディアの方々からの情報はもちろん、世の中の流れや動き・世間の関心事などの社外情報を集めるほか、たとえば「社内でLGBTQなどに関する新たな制度が誕生した」など、社内発の出来事や動きに関する情報を集めることに注力しています。2つ目が「攻める」です。社内外で拾ってきた情報を元に、それを世の中にどう仕掛けていくかを考え実行します。そして、3つ目の「守る」は、いわゆるリスク対応です。ローソンは全国に約14,600店舗あり、時にクレームや問題なども発生します。そうした際に、適切な対応を迅速に取ることができるかどうかも、広報にとっては大切な仕事のひとつです。

「困った時のローソン」であれ。メディアリレーションでは誠実さとギブアンドテイクの精神を大切に

ー前段で注力しているとお話しいただいた「メディアリレーション」を築くうえで、部全体で何か意識されていることはありますか?

先述した「集・攻・守」の特に「守る」に関連しかつ、当たり前のことではあるのですが、「誠実」でいることですね。「人々の生活に直結するインフラ」の側面もあるコンビニは、消費者の関心も高いため、良いことも悪いことも記事になりやすい。であれば、隠すより、正直・誠実に伝えた方が良いと考えています。たとえば、値上げなどのお客様にとってポジティブではない情報。ローソンではできるだけ情報提供・開示するようにしています。

また、当社から提供する情報にメディアごとに偏りがあってはいけないので、「Q&A」をしっかりと作り込み、各広報担当が一つひとつのトピックに対して同じように対応できることを重視しています。オフィスで仕事をしている時には、それぞれ互いの電話対応などに聞き耳を立て、「こんな風に記者さんに伝えているのか」と学んだり、心の中で確認したりすることも無意識的におこなっていますね。

あとは、「自社のことだけではなく、相手の立場も考えた対応をする」という姿勢でしょうか。記者と企業もギブアンドテイクの関係は大切です。当社が報道してもらいたい情報と、メディアが報道したい情報が時に異なることもあります。たとえば、新型コロナウィルスが5類に引き下げされる際に、コンビニ店舗ではそれまで設置していたレジ前の飛沫防止シートを撤去することになりました。こうした目に見える「変化」は、メディアにとって撮影をしたい瞬間ですが、私たちからすれば、売上やブランド認知などに直結する報道ではありません。しかし、こうしたメディア側のご要望にも進んで対応することでリレーションが築かれると思いますし、そういった意識は持つようにしていますね。以前、ある記者の方から「担当が変わる際の業務の引き継ぎ書に、『困った時はローソンに』と頼れる相談先として社内共有されている」と伺ったことがあります。こうした姿勢が、ローソン広報部のカルチャーになっているのは、非常に嬉しいです。

全国約6,000名のパートナーと“双方向のコミュニケーション”を実現するための工夫

ローソンオーナー・店員の皆さん


全国約14,600店あるローソン各店舗への情報共有は大変だと思いますが、どのように工夫されていますか?

ローソンのフランチャイズ店舗を運営してくださるオーナーの皆さんは、現在約6,000名いらっしゃいます。私たちにとって、オーナーさんはローソンの大切なパートナーです。基本的には、営業本部やエリアカンパニーがフランチャイズ店舗との窓口役となっています。店舗ごとに担当SV(スーパーバイザー)がいて、私たち広報部が直接働きかけをすることはありませんが、重要な情報は、報道よりも前にオーナーさんへお伝えすることが基本です。

最近では、当社の看板商品である『からあげクン』について、30年以上価格据え置きだったものをついに値上げすると決め、報道発表を行いました。この時は広報リリースの数時間前に加盟店さんにお知らせし、情報の統一を図りました。このようなお知らせやその他の情報は、ストアコンピューターを通じて全店舗へ一斉に配信できるようになっているため、すべてのお店に同じ情報を同じ時刻に等しく伝えることができています。

ー反対に、全国の店舗からはどのように情報を吸い上げているのでしょうか?

オーナーさんから本部への意見や確認・相談は、基本的に担当SV宛に行われますが、これ以外の手段として、当社には“社長直行便”という制度があります。これは、担当者を介さずに、オーナーさんからのお手紙がダイレクトに社長に届き、それに対して社長から返事をお送りするという仕組みです。お手紙を通じて寄せられたご意見は、案件ごとに当該部署に共有され改善に繋げています。必要に応じて広報にも共有されるので現状どのような課題があり、どのように解決しようとしているのかを把握し、広報業務に活かしていくことができます。

また、オーナーの皆さんからのご意見を集めるという意味で、オーナーの方々との交流の場をとても大切にしています。たとえば、年に2回の頻度でオーナー福祉会の理事会を開催。この会には、営業本部長はもちろん、商品本部長、開発本部長など各本部の本部長が参加し、私もコミュニケーション本部長として出席しています。さまざまな意見交換や食事会などのコミュニケーションを通して、役割や役職を越え関係性を深めることができる大切な機会となっています。そのほか、エリア会と呼ばれる地区ごとのオーナー勉強会もあり、本部社員とオーナーさん、そしてオーナーの皆さん同士が積極的な意見交換をできる場になっています。

TOP自らの細やかなインナーコミュニケーションが、広報を大切にするマインドを育む

ー今年の8月には、「代表による年80回以上のメディア取材」という実績も評価され、企業広報経営者賞を受賞されましたが、ローソンにおける経営層と広報の関係性についてどうお考えですか?

ローソンは、広報活動を大事にしている会社なんだと私自身、入社直後に感じました。社長室の隣に広報部があることにも驚きました。何かあった時にはすぐに社長に報告と相談ができる環境なんです。たとえば、災害や商品への異物混入などのリスク発生時にスピーディーに判断を仰ぎ行動ができるのは、社長との距離の近さが大きいと思います。

また、今回の企業広報経営者賞の受賞では、社長取材の多さも評価いただきましたが、フランチャイズとして企業のトップがメディアに出るのは非常に大切なことだと思っています。「ローソンのトップがメディアに出ている」ことは、オーナーの皆さんにポジティブに受け止めていただけますし、レピュテーションにおいても好影響に繋がります。また、社員にとっても同様で、自社のトップがメディアに登場することは、仕事へのモチベーションアップにもなると思うのです。社長には、スケジュールがどうしても調整できないなどのよほどの理由がない限り、極力取材オファーを受けてくださるようお願いをしており、それに対応いただいていることを非常に有難く感じています。

ー受賞時のコメントで、インナーコミュニケーションにも力を入れていると伺ったのですが、具体的にはどのような活動・取り組みをしているのでしょうか?

まず、社長が全国のお店を年に500店以上巡回し、加盟店さんや店舗で働く皆さんとコミュニケーションをとっています。コロナ下で移動制限があるときは、近隣のお店を自転車で回っていました。また、災害時には社長自らが真っ先に被災地に入りお店の方とコミュニケーションを取ります。

また社員がメディアに出た際に、商品の評価が今ひとつだったり、読者・視聴者や社会からの反応がポジティブではなかったりする場合もあります。そうした際には社長自身が「それは私の責任だ」と社員をしっかりと守るという姿勢を見せてくれますし、反対に、報道・掲載されることで売上や評判に直結し良い成果が生まれれば、大いに褒めて評価します。場合によっては、社長との食事会がセットされるなど、労いの機会を設けることもあります。

加えて、当社は“褒める文化”を非常に大事にしていて、半期に一度の社長賞でメディアに取り上げられた社員が表彰を受けることもあります。このような取り組みも企業として広報を大切にするマインドを育んでいると感じます。

2025年には創業50周年を迎えられます。今後の広報活動の展望について教えてください。

1年半後に50周年を控えているので、社内外でさまざまなことが進行していますが、50周年で終わりというわけではありません。これから迎える100周年もすでに見据えていますし、そこに世の中の声や、外の目線を取り入れることが広報の役割だと思っています。メディアの方々をはじめとする社会との繋がりを活かし、「10年後は、いまと違ってこうなっているのでは?」等さまざまな視点で社内に伝え、独りよがりにならないよう、社会との繋がりを通じて企業を健全に保つことに努めたいです。そうした姿勢を守りながら、今後も広報活動に取り組んでいきたいと思います。

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