注目の音声市場で「クリエイターエコノミー」を生み出す。Radiotalkが人気を集める3つの理由

近年、急速に盛り上がりを見せる音声配信サービス。特に、コロナ禍で起きた『Clubhouse(クラブハウス)』の爆発的なブームを皮切りに、音声配信サービスへの注目度が一気に高まりました。そんな中、2018年のリリース以来、順調にサービスを成長させているのが『Radiotalk(ラジオトーク)』です。

これまで、ノンプロモーションで運営してきたにも関わらず、2021年末時点で配信者(以下、ラジオトーカー)の累計数が10万人を超え、上位100人の年間収益は合計で約1.4億円に上るなど、新たな音声エンターテインメントとしての経済圏を生み出しました。今回は、Radiotalk株式会社 代表取締役の井上佳央里さんに、『Radiotalk』の成長戦略や、注目の音声市場で他のサービスと差異化を図るポイント、ユーザーに使い続けてもらうための工夫などについてお話を聞きました。

ノンプロモーションの『Radiotalk』はどう成長したのか

「口と耳」で操作する音声の“ながら行動”に着目

はじめに、『Radiotalk』のサービス概要について教えてください。

『Radiotalk』は、1タップで誰でも今すぐ始められる音声配信プラットフォームです。2017年8月にβ版、2018年に正式版をリリースして以来、簡単な操作で音声のライブ配信から収録まで完結できるサービスを提供しています。目指しているのは、Instagramが写真を簡単に加工して投稿できるように、音声も簡単に加工して、誰でも配信できるような世界観です。現在では、「Apple Podcast」や「Spotify」、「Amazon Music」などのポッドキャストにも簡単に配信することができるため、より多くのリスナーに聞いてもらえるような仕組みに整えられています。

どのような背景で『Radiotalk』を立ち上げたのでしょうか。

学生の頃からずっとラジオが好きで、大学も放送学科のあるところに進学し、ラジオ制作について学んでいました。しかし、既存のラジオ業界の構造が、スポンサーからの収益を得ないと成り立たないと知り、ラジオ業界へは進まずに、インターネット企業のエキサイトへ入社しました。

入社後も、ずっと心の底に「エンタメの力で、収益的に報われる仕組みを作りたい」という思いがあり、2016年ごろに『Radiotalk』のサービスを構想するようになりました。この時期は、海外でAirPodsが発売されたり、スマートスピーカーが台頭したりと、世界を席巻する大手テック企業が「スマホの次に来るデバイスは何か」をちょうど模索していたんです。私は、このマーケットトレンドに着目し、「目と手」で操作するのではなく「口と耳」で操作するような、音声の“ながら行動”のニーズが増えるのではと考え、『Radiotalk』の立ち上げに踏み切りました。

「100人の熱狂的なファンを集める」ことからスタート

『Radiotalk』は、エキサイトの社内ベンチャー制度から生まれたとお聞きしました。リリース当初はどのように認知度を広めていったのでしょうか。

はじめは、母校の大学に出向き、学生に名刺を配ることから着手しました。一人ひとりに音声サービスの未来を語りながら、地道に泥臭く広めていきましたね。加えて、かつての放送研究会やラジオ仲間にも声をかけ、とにかく最初の100人を集めることに奔走しました。まずは、100人の熱狂的な方に『Radiotalk』を使ってもらうことで、自然と口コミで広がっていくと考えたんです。

ただ、サービスをリリースした当時は、機能が本当にシンプルで、いいねもできなければ、検索もTwitter連携もできないようなものでした。せっかくラジオトーカーが利用してくれていても、リスナーの反応があるかがわからない状況だったんですね。リスナーの反応が見えなければ、モチベーションが下がり、離脱の原因にもなってしまう。そこで、実は、私自身がTwitterの裏垢を複数作り、リスナーになりきったつもりで、ラジオトーカーの配信の感想をツイートしていました。そうでもしないと定着しないと思っていたので、最初の頃は必死になってサービスを成長させようと取り組んでいましたね。

初期の頃は、自ら手足を動かしてサービスの普及に努めていたのですね。その後、ユーザーが一気に増えたきっかけはありますか。

ラジオトーカーが100人から1,000人へと増えていったタイミングがあったのですが、その時は、お笑い芸人のヤーレンズが『Radiotalk』を使い始めたことをきっかけに、周りの芸人仲間へ自然と広まっていきました。いわゆる、“芸人ラジオ界隈”での『Radiotalk』の認知がとれたんですね。当初の狙い通り、小さいコミュニティから徐々に口コミで広がっていくという流れを作ることができました。

また、大きな転機となったのは、2019年11月ごろに女性漫画家のつづ井さんという方が、『Radiotalk』を始めたことです。彼女の配信から「女性が1人で喋るコンテンツ」が人気を博すようになり、これまで1日あたり数千人のユーザー数だったのが、一気に数万人へと伸びていったんです。これをきっかけに、サービスも軌道に乗ることができたと思っています。

「クリエイターエコノミー」を促進する3つの仕組み

「ラジオトーカーを職業として確立させる」ことで差異化を図る

『Voicy』や『Clubhouse』など、他の音声サービスも勢いを増していた中、どのように差別化を図りながら、サービスをグロースさせてきたのでしょうか。

他の音声サービスと大きく異なる点は、主に3つあると考えています。まず1つ目は、音声配信を通して、新たなクリエイターを生み出し“ラジオトーカーという職業を確立させること”を念頭に置いていることです。他のサービスだと、芸能人やインフルエンサー、起業家など、すでにどこかのフィールドで活躍している人が、音声配信のコンテンツを始めるケースが主だっています。対して『Radiotalk』が目指すのは、YouTubeのような、エンターテインメントを生む音声配信プラットフォームです。YouTuberとして有名なHIKAKINさんも、YouTubeでコンテンツを作り、収益化させるロールモデルとして、成功を遂げてきた方ですよね。そのように、『Radiotalk』も音声配信だけで生活を営むラジオトーカーを輩出するのを目標にしていることが、他のサービスとは異なる点です。

2つ目は、2019年に毎日放送(MBS)と資本業務提携を結んだことです。『Radiotalk』内で結果を出せば、地上波のラジオ番組にも出演できる環境を用意しました。『Radiotalk』をきっかけにスターになるための活躍の道筋を見出すことで、ラジオトーカーの可能性を広げようと当初から心がけていましたね。

そして3つ目は、サービスの熱狂度の高さです。『Radiotalk』の大きな特徴として、コアで熱量の高いリスナーが非常に多いことが挙げられます。ラジオトーカーとリスナーの関係性が深まり、「その場にいて楽しい」と感じる雰囲気づくりができていることで、コミュニティとしての純度や密度の高さに繋がっています。

「誰でも簡単に配信できる」という軸はぶらさない

続いて、プロダクト開発についてもお聞かせください。収益化に結びつく「ギフト機能」や「ライブ配信機能」は、いつ頃からリリースしているのでしょうか。

2019年9月に「ギフト機能」、2020年9月に「ライブ配信機能」をそれぞれリリースしました。ただ、「お金の匂い」を感じた瞬間、ユーザーの離反や反発が生まれることはよくあります。なので、それを防ぐために、ロイヤリティの高いユーザーにリアルで丁寧にコミュニケーションしながら、機能導入の背景や『Radiotalk』の目指す世界観を伝えていきました。

そこからは、ユーザーの意見やフィードバックは聞きつつも、定量的なデータと本質的な課題を鑑みて、常に最適解を探しながらブラッシュアップしてきたような状況です。私たちが目指す「クリエイターエコノミー(※1)」を醸成していくためには、ある程度の母数が必要だと考えています。ラジオトーカー1本で生活できるクリエイターは、ピラミッド構造で例えると上位の方に位置しますが、土台となるラジオトーカーの数が多ければ多いほど、コンテンツの量も質も高まるんです。そのため、“誰でも簡単に配信できる”という根本のコンセプトは崩さないよう、サービスのUI/UXを意識してきました。

※1 ジャンルを問わず個人のクリエイターが自らの表現や情報発信で収入を得ることにより形成された経済圏

再生回数やギフトに頼らない収益の柱を確立させる

聞き手となるユーザーを増やすため、また使い続けてもらうために、どのようなことを心がけていますか。

そうですね。やはり最も大事なのは、いいコンテンツと出会ってもらうことでしょう。ただ、レコメンド機能の制度を上げるには、そもそものコンテンツの量が物を言うので、まずはラジオトーカーをもっと増やして、ユーザーとコンテンツとのマッチングの仕組みを改善していければと考えています。また、今後はラジオトーカーのパーソナリティや、『Radiotalk』内での実績がわかるようなストーリーがつくれるようにしていきたいですね。

また、ラジオトーカーとリスナーが良い関係性を築ける理由のひとつとして、ラジオトーカーの配信で使う効果音やBGMなどをリスナーと一緒に作れるような体験価値を提供していることが挙げられます。ラジオトーカーが成長していく過程を、リスナーも応援しながら楽しめる、「プロセスエコノミー(※2)」を生み出し、お互いの共通言語が蓄積されていくことで、長く『Radiotalk』を使ってくれる土壌ができ上がっています。

※2 制作過程などのプロセス自体をビジネスにすること

ありがとうございます。これから音声市場はさらなる成長が見込まれています。これから『Radiotalk』の事業を展開していく上で、音声コンテンツの未来や今後の展望をどのように描いているのでしょうか。

世界的な音声市場のトレンドを見ると、海外のテック企業がポッドキャスト関連の企業の買収を行ったり、音声配信機能を開発したりと、音声市場の活況ぶりはさらに顕著になっていくと捉えています。こうした中、『Radiotalk』は「口と耳で新しいエンタメを作る」ことを視野に、これからもサービスを成長させていく予定です。というのも、あくまで現在はポッドキャストやライブ配信のような音声に注力しているだけで、今後は音声にとどまらず、あらゆるビジネスへの拡張を考えているからです。

たとえば、ラジオトーカーがアパレルやD2Cブランドを立ち上げてもいいですし、音声コンテンツを動画として販売してもいいですよね。再生回数に応じた収入やギフトに頼らず、「クリエイターエコノミー」がさらに盛り上がるように、今後も尽力していきたいです。

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