近年、ブランドの価値やメッセージを、“没入感”をもって伝える手法として、急速に注目を集めるショートドラマ。連載「躍進するショートドラマ」では、ショートドラマアワードを先導する仕掛け人から、圧倒的なクリエイティブで市場を席巻する製作者、そしてこのムーブメントに可能性を見出すマーケターまで、ショートドラマをけん引するキーパーソンたちにインタビューを実施。彼らの視点から、企業はこの波にどう乗るべきか、視聴者に刺さるストーリーとは何か、その「リアル」を紐解いていきます。
連載第1弾は、ショートドラマアカウント「ショードラ」と「ショードラアワード」を運営する、株式会社プログレス代表の長田俊哉さん・コンテンツプロデューサーの佐川秀人さんへインタビュー。いち早くショートドラマへの可能性を見出し、ショードラ事業とアワードの立ち上げをおこなった同社は、業界の変遷や展望をどう見ているのか。企業活用に効果的な3つのヒントとは。「ショードラアワード」PR部門にて審査員を務める、株式会社マテリアル取締役 兼 Executive Storytellerの関航と紐解いていきます。
株式会社マテリアル取締役 兼 Executive Storyteller 関航 |
ショートドラマ界におけるハブとして機能する
ーショートドラマ事業立ち上げの経緯とは
長田:きっかけとなったのは、縦型ショートドラマ クリエイター集団「ごっこ俱楽部」との出会いです。ごっこ倶楽部は、コロナ禍に5名の演者が立ち上げた組織。当時、あらゆるエンタメが制限されると同時に、演者である彼らも活動の場がなくなったことから、「自分たちで作品を制作・発信し、そこをきっかけに地上波や映画へ進出していきたい」という想いでスタートされました。私たちが出会った2023年2月時点には、すでに組織として一定の認知と成果を得られていたのですが、その活躍はTikTokが中心となっており、彼らが目的としていた、“演者としてのその先の活動”まで結びつきにくい状況でした。そのような彼らの想い・状況を知り、私たちがメディアや制作との接点になれないかと考え始めたんです。
長田:そこから、関係各所に話を聞いてみると、ショートドラマに注目しているものの、それぞれが異なった課題感を持っていることがわかりました。たとえばテレビ局は、ショートドラマクリエイターと出会いたいと思っているが、その母数が多くフィルタリングできない。芸能事務所は、当初のごっこ倶楽部と同様に、演者の活動先が減少していたため、ショートドラマなどの自社制作に挑戦したいが、動画制作のノウハウがない。このような状況を知るうちに、メディアや芸能の文脈を理解している立場で、ショートドラマ界とのハブになることで、私たちが各所のニーズをマッチングできるのではと考えました。こうして事業を立ち上げ、ショートドラマ自体をより広めていくためのアカウント「ショードラ」と、各所同士の接点を生む「ショードラアワード」をスタートしました。
目に留まる作品となる2つの要素。多様なプレイヤー参入による留意点とは
ー本年度のアワード応募数は、3,710作品。昨年との違いや傾向は
佐川:まず感じたのは、映像としてのクオリティがかなり向上したということ。これは、単純にクリエイターの制作本数=経験が増えたという側面と、映像制作における基礎力が備わったクリエイターが増えたという側面がかけ合わさった結果だと思っています。
その中で、目に留まる作品には、2つの要素があると思います。ぜひ、企業活用の際にも意識してほしいのですが、ひとつは、思考の深さや丁寧さが伝わるもの。これまでショートドラマは、短尺という特徴から、どれだけ早く・多く作品を作るかという部分に注力されてきましたが、そのなかでも“どれだけ思考を積み重ねているか”は、作品のアウトプットに大きな差を生むと考えています。たとえば、演者をキャスティングする際。「19歳の男性」を起用条件とするのか、「演技力があり、パッと見て覚えられやすい顔立ちの19歳男性」を条件とするのかでは、作品の質や効果が大きく変わってきそうですよね。このように、表現の一つひとつにどれだけ目を光らせているのかは、重要な要素だと思います。
もうひとつは、既存の作品と比べて、独自の切り口を組み込んでいるもの。いまのショートドラマのジャンルは、かなり偏りがあると感じているため、作り方の目線や発想が違ったり、クリエイター独自の視点が入っている作品は、光って見えますね。
関:独自性の観点でいくと、最低限「流行コンテンツ」や「流行フォーマット」を知らなければ勝負ができず、それを理解した上で+αの差分として、「まだ無い切り口だけど、うまくインサイトを掘り当てている・つい見たくなる」を探求できるかが、クリエイティブとして求められるということですね。
ーさまざまな出自のプレイヤーが増えたことによる留意点はあるか
佐川:出自関係なく、ショートドラマを活用する際に意識してほしいのは、「スマホでみる縦型・短尺コンテンツを作る」という基本にしっかりと向き合うこと。それぞれが持つ経験やスキルを活かせる部分はあれど、ショートドラマは別物のコンテンツであるということを理解することは大切だと思います。たとえば、「テレビCMは15秒~のショートコンテンツだから、ほとんど一緒だよね」という認識で取り組むのは危険です。制作方法に加え、媒体が異なることによる、視聴環境やタイミングの変化まで意識できているかどうかは、再生数や視聴者への伝わり方に大きな差が出てきます。この辺りも、活用の際にはぜひ意識していただきたいですね。
関:今回、僕も多くの応募作品を拝見しましたが、昨年のものと比較した時に、クオリティ面も含めかなり変化を感じています。2~3年後、業界としてどのようなクリエイターや作品が生まれているのか気になりました。
佐川:事業立ち上げの背景に立ち返るのですが、クリエイターや演者という観点では、テレビや映画などのコンテンツにおいても、地位を築けていける人が増えたらと考えています。それが結果的に、ショートドラマやクリエイターに対して憧れを抱く人・参入する人の増加や、業界自体の盛り上がりに繋がります。そのために必要な世の中とクリエイターのタッチポイントとして、アワードが寄与すると良いなと思います。
関:プログレスさんとして、アワード以外でのクリエイターサポートの形など、この業界を盛り上げていく上で、今後の構想はありますか?
長田:昨年のアワード開催前の話なのですが、ごっこ倶楽部と一緒にクリエイターを50人ほど集めた懇親会を実施しました。当時、業界として、クリエイター同士の横の繋がりが希薄で、悩みを相談できる相手がいないという課題感があったんです。会を通じて、自分と同じような悩みを抱えている仲間と繋がることができたと、非常に好評な取り組みでしたね。また、そのあたりからコラボが増えたと感じており、私たちの活動が作品の幅を広げるひとつのきっかけになったのではと思います。このような、クリエイターが繋がれる場の提供は、今後も積極的におこなっていきたいですね。
ショートドラマ活用が有効な2つのパターンとは

左から、プログレス 長田さん/佐川さん
ー企業タイアップ数も増えているが、企業のショートドラマ活用にはどのような効果があるのか
佐川:前提として、ドラマをひとつ作ったからと言って、すぐに効果が出るわけではありません。もちろん、数字として多くの再生や「いいね」を獲得できる場合もありますが、そこが本質的な効果ではないと、活用の際には意識してほしいです。たとえば、テレビドラマを見た時に、30分の単発ドラマだったとしたら、物語を楽しむことで体験は終わりますよね。ただ、これが1クールとなると、時間が経つにつれて、ドラマの世界観のファンになったり、物語以外の部分にも目が向くようになったりする可能性がある。出演者が身に着けているものや、背景に紛れ込んでいる商品が目に留まり、もしかしたら購買までつながるかもしれません。私たちは、ショートドラマにも同じことが言えると考えているため、定期的にコンテンツを更新しながら、長い期間をかけてブランド認知や購買に繋げていくことが、活用する上で重要だと思います。
長田:そのうえで、ショートドラマを活用することは、“想像と違う”を防ぐことに寄与すると考えています。たとえば、リクルーティングで活用する場合。ショートドラマとの相性でいうと、エントリー数を増やすために使うよりも、入社後の離職率を減らすために使う方が効果的だと思います。というのも、ショートドラマは、「うちの会社はこれだけ魅力的ですよ!」という15秒のCM的な見せ方よりも、リアルに基づいた「こんな人たちと、こんな仕事ができますよ」という見せ方が向いているんです。それはつまり、ドラマを通して実際に自分が働くイメージをつかむことができ、入社後の“思っていた会社・仕事じゃなかった”というギャップを生みにくいということ。
そしてこれは、商品・サービスにおいても同じことが言えると思います。ドラマ内で、実際に利用しているシーンを見せることで、自分が使う時のイメージをつかめる。そのため、購入後・導入後のミスマッチを防ぐことができ、満足度向上や離脱率減少なども期待できます。そのような、“映像でなければ表現できないもの・感覚がつかめないもの”を探しにいくことは、ショートドラマの可能性を広げることに寄与すると思います。
関:なるほどです。「“想像しにくい事柄”を想像しやすくする」「“想像したことが無い使い方や選択肢を想像しやすくなる」という観点において、ショートドラマならば一定の情報量を伝えられること含め、他のHOWだと補いきれない部分をうまくカバーできそうですね。
長田:たとえば、ショードラで手掛けた「家族のピース」は、介護職をテーマとした作品なのですが、ドラマを通してリアルな現場を見せることで、介護職への理解を深める一助となりました。
関:たしかに「介護職として働く魅力とは?」を伝えようとした際に、たとえば15秒CMや、電車の中吊り広告等でコミュニケーションをしようとすると、「パッと目に止まるヒキまで」は頑張って作れても、働く姿を魅力的なものとして、より具体的にイメージしてもらうことまでは難しいかと思います。ですが、ショートドラマでイメージしにくい情景をストーリー性を持って描くことで、想像しにくいものが伝わりやすくなりますね。それこそ、介護職のリクルーティングに悩んでいる企業や施設は、この考え方をうまく活かせそうです。先ほどの整理でいくと、「“想像しにくい事柄”を、ショートドラマを活用して想像しやすくする」というパターンですかね。
長田:そうですね。ただ、これはあくまで一例です。他にも、ショートドラマを活用すべきシーンは多く潜んでいると思うので、そこを企業と一緒に見つけていきたいですね。
ープログレスが考える、ショートドラマ業界への展望
長田:冒頭でもお話したように、ショートドラマをきっかけに、クリエイターや演者が他媒体へ羽ばたいていくサポートができればと思っています。そのために必要なステークホルダーとの連携も、実績とともに増えているので、そこからいかにチャンスを生み出せるか、という地盤づくりにも注力していきたいです。また、それに付随して「クリエイターや演演者をショートドラマで生活できるようにする」ことも大きな課題だと感じています。アカウント運営をどうマネタイズするのかを考え、たとえばプロダクトプレイスメントのような手法を活用して、企業タイアップ以外の道も作っていきたいです。
佐川:一方で、プラットフォームによっては、コンテンツが画一的になっているものもあります。それらは、クリエイターの創造性や市場の健全な発展を阻害してしまう可能性も含んでいると思うので、各所と連携をしながら、どうすれば業界がより盛り上がるのかを考え、活動していきたいです。
関:ショートドラマ業界を盛り上げていただきつつ、プログレスさんの取り組みにより、多くのクリエイターのキャリアの可能性が拡がることを願っています。
まとめ
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