広報・マーケティングの定義が定められ、日本でのあり方も少しずつ変化してきたPRという概念。一方で、正しいPRや業界自体はまだ浸透しておらず、欧米をはじめとするPR先進国との差は埋まっていないのが現状です。そこで、PR GENICでは、常日頃からPR思考をもつ、さまざまな企業の“PRパーソン”にインタビューを実施。“PRパーソン”の事例や思考を読み解き、PRと向き合うきっかけをつくる本コーナーの第1弾は、美容専門PR会社の株式会社メディア・グローブ代表・小田直人さんにお話を伺いました。
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小田さんのご経歴
私は神戸で生まれ、ファッションが好きな少年時代を過ごしました。大学は青山学院大学へ進学して、その当時全盛だった雑誌『POPEYE(ポパイ)』の“アメリカ西海岸の特集”に影響を受け、テニスを始めたりディスコカルチャーに触れたりと、青春を謳歌していました。
就職は、広告代理店の双葉通信社に新卒入社。『JJ』『ファイン』といった雑誌広告で、アパレルの新規開拓に携わり、その後、総合PR代理店のオズマピーアールに転職しました。アパレルから一転して、車業界に従事。具体的には、ホンダ広報部に出向して、F1や8耐といったレースの広報や、全国のホンダ店舗に配布する「ホンダトピックス」の編集者として活動していましたね。そのような経験が、今でも活きています。
その後、オズマピーアールから、広告代理店のヘルム・エージェンシーに移り、BOSSやROPE、資生堂などのビューティーブランドを扱ううちに、PR会社としての独立を考えるようになりました。そして、1997年に表参道のワンルームでメディア・グローブを設立し、雑誌のタイアップ広告の営業からスタートしたんです。
メディア・グローブが軸とする美容専門PR
出版社の編集部や広告部、雑誌業界の豊富な情報源などを活かして立ち上げた会社だったため、はじめは、ダンスグループのMAXさんや広末涼子さんといったタレントを起用した雑誌のタイアップ広告を主軸に活動。それがヒットし、ビジネスを軌道に乗せることができました。そして、会社が順調に成長するなか、資生堂などのビューティーブランドのPRも手がけるようになり、雑誌広告とPRの二本柱で事業を広げました。そこから、国内外のクライアント数も増えて、PR・広告・セールスプロモーションまでトータルでブランドを支援できる体制を整備。これが、現在のメディア・グローブの基礎になっています。
そして2000年代後半、ファストファッションの台頭で、原宿系ファッションブランドの勢いが落ち、業績が一時低迷しました。その一方で、化粧品PRの需要が増えたため、美容専門のPR会社としての道を模索するようになり、2015年に@cosmeを運営するアイスタイルグループの傘下に入りました。現在は、ブランドとプレスが繋がる機会を創出するプラットフォームサービス『ビューティプレスボード』をリリースし、美容PR業界の牽引役としてDX化に取り組んでいます。
メディア・グローブが実践してきた美容PR手法
美容PRの手法は、時代とともに変遷を重ねてきました。「美容PR1.0」の頃は、 プレスの編集者がメーカーに出向いて取材企画を説明しないと、商品を貸してもらえない時代でした。それが、「美容PR2.0」になると、今度はブランド側がFAXや電話を使って、メディアに売り込む必要が出てきました。この頃から、ブランドとプレスが自由にマッチングする流れが生まれてきたのです。そして、「美容PR3.0」では、コミュニケーションツールがメールへ移行しました。プレスからブランドに商品貸し出しの依頼をおこなったり、ブランドがプレスに対してPR活動を仕掛けたりする際に、メールでのやり取りが主流になっていきました。
現在は、『ビューティプレスボード』を軸にした、「美容PR4.0」の時代だと考えています。こちらには、約250のビューティーブランドと、約1,000人のプレスが登録しています。ブランドは、新製品の情報をプラットフォームに掲載することでより多くのプレスに情報を届けることができます。プレスはさまざまな角度から商品検索が可能です。たとえば、プレスは編集企画にあうタグで絞り込んで検索することで、ブランド横断で商品を見ることができて、リリースの確認をしてそのまま商品や画像の貸し出し依頼をオンラインで完結できます。『ビューティプレスボード』はブランドとプレスの新たなつながりの創出や煩雑な業務の工数を減らして本質的な業務に向き合う時間を生み出すといった、ブランドとプレス双方のPR業務を支援するプラットフォームになっています。
小田さんを象徴するPR事例
当社の場合は、国内から海外まで幅広くコスメブランドを取り扱っていて、最近では特に、K-POPの人気から韓国コスメも増えています。こうしたなか、ブランドごとのPR活動に求められる成果を愚直に追求し、実績を積み上げてきたことで、美容PRにおけるトップエージェンシーのポジションを確立できたと考えています。
また、ホンダで働いていた時には、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の受賞を戦略的に狙いにいくことに取り組んでいました。当時は、そのお墨付きがあれば車が売れる時代でしたので、審査員一人ひとりにホンダの車に乗ってもらったり、スペックの説明をしたりしてアピールしていたんです。この経験を活かして美容PRで応用したのが、雑誌が企画するベストコスメ特集に取り上げてもらうことでした。ベストコスメの審査員は、出版社の編集者や美容ライター、美容ジャーナリストといったプロが務めます。そのような方たちに、広くあまねくアプローチしていくことを意識しています。具体的には、新商品発売の3〜4か月前からプランニングして、2か月前には新商品発売に先駆けたプレスイベントを実施しています。そのイベントに、美容関連のキーマンを約100~200人ほど集め、商品の説明やシーディングをおこなうほか、後日キャラバンをおこなって積極的にPR活動をすることで取材獲得につなげていくのです。これら以外にも、美容に関するトレンド情報を常に発信しているため、たとえば「美白の企画を考えているからネタを提供してほしい」というように、プレスから問い合わせが来る工夫も凝らしています。
PR活動における小田さんのこだわり
PR活動で軸になっているのは、今も昔も「雑誌」です。私自身、社会人1年目に雑誌広告の広告代理店を経験し、その後も制作会社や総合PR会社など、さまざまなキャリアを歩んできました。ずっと雑誌の世界に身を置いてきたからこそ、『ビューティプレスボード』もその延長線上から生まれていますし、どんなにテクノロジーが発達しても、出版社がコンテンツを作る際の“発想”はなくならないと思っています。
雑誌は、単なるメディアではなく、ベストコスメ特集や最新美容情報を通じて、読者に“セレンディピティ”を提供する存在だと考えています。メディア・グローブのミッションである「美容のセレンディピティを創出する」は、この考え方からきています。
これから、PRの役割や重要性はどう変化していくのか
今後、美容PRにおいては、“美容世論”を形成する従来の編集者やジャーナリストだけでなく、インフルエンサーやライブコマースをおこなうKOLの役割がさらに重要になってくるでしょう。当社は、インフルエンサーともオーガニックな関係を築いており、新商品発表会などに招待することで、彼らとの信頼関係を深めています。
また、彼らには発信者として、美容関連商品がどのように誕生しているのか、そのような効果があるといえる根拠がどこにあるのかなど、裏側をしっかりと理解してもらうことも必要だと考えています。そのため、製造工程の見学をしてもらうなど、未来の美容ジャーナリストやオピニオンリーダーを育成することにも力を入れていますね。これからも、美容専門PR会社として、さまざまな角度からクライアントや社会に貢献していきたいです。
株式会社メディア・グローブ https://www.mediaglobe.co.jp/ |